新車試乗レポート
更新日:2024.05.28 / 掲載日:2024.05.28
シンプルだけど気持ちがこもっている【ホンダ WR-V】

文●岡本幸一郎 写真●ユニット・コンパス
ホンダがコンパクトクラスのクロスオーバーSUVをより増強するために送り込んだニューモデルは日本とタイとインドで共同開発され、インドで生産された車両が日本でも輸入販売される。
ガソリンのFFのみにわりきって低価格を実現

極力シンプルな内容とすることで、企画から商品化までの時間の短縮を図るとともに、できるだけ販売価格を高くしないことを念頭に置いて開発されており、ハイブリッドや4WDの設定はない。自然吸気の1.5リッター直列4気筒i-VTECエンジンを積んだFFモデルのみとわりきったこことで、209万8800円~249万9300円とリーズナブルな価格を実現したのが特徴だ。
そんなWR-Vが日本で3月に発売されてからわずか1カ月で累計約1万3000台を受注した。購入層は、軽自動車やコンパクトカー、SUV、ミニバンなどからの乗り替えが中心で、幅広い年代にわたるという。
販売のグレード構成比は、17インチアルミホイールやLEDフォグライトが標準装備される上級の「Z」が55%と半分を超え、装備が共通で各部にデコレーションを加えた「Z+」が30%、16インチスチールホイールを履くエントリーの「X」が15%で、ボディカラーは意外や白、黒、グレー系の無彩色が7割を超える人気となっている。
先進運転支援装備については、日本の最新モデルと比べるとやや物足りない面もあるのは否めないが、ホンダアクセスの純正用品を装着することでかなりカバーできるので、購入検討の際はそのあたりも確認しておくことを薦めたい。

力強いフォルムと広い車内空間

人気のヒケツとして、安心と信頼を感じさせるエクステリアデザインや、見晴らしがよく、車両前方の距離感のつかみやすい運転視界、クラストップレベルの荷室空間を実現したパッケージなどが挙げられる。
「MUSCLE&CONFIDENT=自信あふれる逞しさ」をコンセプトとするとおり、ボディサイズはヴェゼルと同等ながら、力強いスクエアなフォルムにより実際よりも大きくに見える。
インテリアはシンプルにまとめられていて、あるものすべてが見やすくて使いやすい。サイドブレーキが電子制御ではなくレバー式とされたのもなんとなくうれしい。
後席の空間は広々としていて、このクラスとしては珍しく後席用のエアコン送風口も設定されているのは、日本ではエントリークラスでもインドでは高級車の部類に属し、ショーファードリブンとして使われることもあるため、後席の快適性が求められるからだ。



広さをアピールする印象的なTVCMのとおり、荷室もかなり広い。低いフロアは隅々まで使えるよう工夫されており、奥行きが長く、天地高も十分に確保されている。
プラットフォームは前半分がフィット系で、後ろ半分にセンタータンクではないアジア向けの小型SUVのものを組み合わされている。燃料タンクは後席下にレイアウトされているが、フロアを共用しているため前席下はふくらんでいる。
そつのない走りの仕上がり

走りのほうも性能面で特筆すべきものもなく、それほど多くは期待していなかったにもかかわらず、全体的にそつのない仕上がりで完成度がなかなか高いことにむしろ感心した。
1.5リッターのi-VTECエンジンとステップシフト制御を取り入れたCVTとの組み合わせで、ダイレクト感のあるリニアな加減速と、シフトアップ/ダウン時の人間の感性にあったシフト制御を実現している。
EV走行やモーターのアシストのようなプラスアルファはなくても、違和感がなく扱いやすい。アクセルを踏み込んだときにあえて車内でエンジン音がよく聞こえるようにされているのも、すでに導入されたインドでは「ホンダサウンド」として好評なのだという。
足まわりにホンダお得意のアジャイルハンドリングシステムのような類いのデバイスは使わず、既存の技術を突き詰め、サスペンションのジオメトリーやチューニングを最適化したというが、乗り心地がよく、動きが素直で乗りやすい。
操舵に対して応答遅れなく回頭し、ストローク感のある足まわりがよく動いて路面の凹凸を巧く吸収しながら、イメージしたラインを正確にトレースしていける。重心がそれなりに高いにもかかわらずロールや揺り戻しなどの上屋の無駄な動きがほどよく抑えられていて、フラット感があり、修正舵をあまり要しない。SUVの強みを生かし、弱点を払拭したような味付けだ。
まとめ
手頃な価格とサイズで、広くて便利に使えて、目新しさはなくても合理的で、若々しいイメージがある。「みんなそろって、最高かよ」のキャッチフレーズのとおり、親しい仲間と荷物を満載して出かけるのが本当によく似合いそうなクルマである。