モビリティカンパニー時代の中古車ビジネス 前編【池田直渡の5分でわかるクルマ経済第10回】の記事詳細

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車の最新技術 [2021.06.11 UP]

モビリティカンパニー時代の中古車ビジネス 前編【池田直渡の5分でわかるクルマ経済第10回】

文と写真●池田直渡

 いま自動車メーカーは、ただ新車を売ってお終いというビジネスのやり方をどんどん変えて来ている。差異の小さい所では残価設定ローン、そして個人向けリースやサブスクリプション、あるいは年間のメインテナンスパックなどもそれに入るだろう。

 という中で大きく変わろうとしているのは中古車事業への積極参加だ。今回はまず中古車ビジネスがこれまでどのように推移してきたかを説明しよう。

自動車買取店が隆盛した理由

 ホンの10年前、中古車の世界は中古車買い取り店が飛ぶ鳥を落とす勢いで台頭していた。彼らはどういうビジネスをしていたのか? というより、むしろ自動車メーカーがいかにそのビジネスに鈍感だったかという話になるだろう。

 ディーラーで新車を売れば、下取りが発生する。当然中古車の査定を行うわけだが、当時のディーラー査定はまったく話にならなかった。

 中古車は相場商品。同じクルマの同じグレードでも色やオプション装備によって価格は大きく変動する。20万や30万の価格差は当たり前で、これが記念モデルや限定車だと100万円以上の差が付くことも珍しくない。そういう相場情報は当然儲けに直結する。だから買い取り店のスタッフは、株式トレーダーの様に相場の変化にリアルタイムに張り付いて、その相場をデータ化し、各店舗に共有した。

 対してディーラーの営業マンは、そもそも新車を売ることにしか興味がない。新車の販売しか給与査定や歩合にカウントされないシステム下ではそれも当然だろう。

 相場のデータは、日本自動車査定協会が発行する月刊の冊子で調べる程度で、情報が粗いし古い。さらに言えば、そもそも冊子も買取価格をサジェストする際にわざわざリスクを取ってまで攻めた値段は付けない。冊子の価格自体に安全マージンが多めに取られているわけだ。しかも重要な要素である色やオプションの差額もほぼノーカウント。だからもう全くと言って良いほど買い取り店の査定とは勝負にならなかった。売れるクルマ、人気の仕様ほど、差額が大きくなる仕組みだ。

 むしろディーラー営業は、新車購入のホット顧客の購入資金が乏しかったりすると、積極的に買い取り店を紹介してでも新車を売りたがった。徐々に無くなった様だが、かつてはそこにはバックマージンなどの取引も存在していたと聞く。

 買い取り店は、原則的にはクルマを直接エンドユーザーに売ったりしない。買い取ったクルマは1週間以内にオークションに持ち込んで換金する。そのためにオークション会場でより良い値が付く状態に、最速でクルマを仕上げる板金整備工場まで自社で完備している。もたもたしていると、連休や夏休みなど多くの人がクルマを欲しがるタイミングを逃したり、車検の残存期間の関係で売値が変わってしまうこともあるので「店頭で直接売れば利幅が……」などと考えている内に商機を失う。最速で売るために業販一本に絞るわけだ。さらに言えば、買取は現金商売なので、資金回転率から言っても在庫で商品を寝かせるなんてことは愚の骨頂だ。早く換金すれば、買取台数をもっと増やせるからだ。

 そのために、台当たりマージンを予め決めて、最初の商談からズバリ最高値を出すようにした。買い取り店に来る客は他店でも査定を受けるケースが多く、ちまちま交渉していると他に持って行かれてしまうのだ。

買取店に対する自動車メーカーの逆襲が始まった

オークション会場

トヨタは、自社系列のオートオークションで得たデータを活用して、中古車ビジネスに本格参入した

 こうやって中古車買い取り店は急成長を遂げたわけだが、自動車メーカー側も、いつまでもその巨大なビジネスを黙って指をくわえて見ていたわけではない。彼らが本気になれば、資金も情報ネットワークも桁違いに大きい。

 新車を売って3年後、そこからは2年おきに車検が来る。新車で1回、3年後か5年後の買い換えで1回はビジネスにつなげたい。そういう意図を持ってビジネスの組立が始まった。

 入り口は残価設定ローンだ。新車購入時に予め3年または5年後の買い換えが決まる。そのタイミングで必ず顧客は店頭に戻ってくる。これは買い換えビジネスの基本となる。さらにこの残価設定ローンには、お薦めのオプションとしてメインテナンスパックが付けられる。

 すると何が起きるか? 顧客がクルマを手放す時、全てのメインテナンス記録が残るだけでなく、追加コスト負担が発生しないために、点検などをしっかり受けた優良中古車ができあがるのだ。当然筋の良い中古車は下取りが高い。だから顧客は次の購入資金が増える。

 査定のやり方も大きく変わった。トヨタを例に取れば、実は中古車のオークション会社として「トヨタ・オート・オークション(TAA)」を傘下に持っている。リアルタイムの相場に関しては、買取業者の様にモニターにへばりついて監視しなくても、そもそもの元データが手元に存在する。文句無しのビッグデータである。この情報を全国のトヨタディーラーにフィードバックすることで、かつて買い取り店に水を空けられていた中古車相場データで大逆転を果たしたのだ。

 こうしたデータとネットワークを元に、ディーラー系中古車の逆襲が一気に進むのだが、その詳細は次回へと続く。

今回のまとめ

・1990年当時、販売店の営業マンは中古車相場の知識が乏しく、買取に消極的だった
・中古車買取店は買い取った車両を業者向けオークションに転売するビジネスモデル
・2000年以降、自動車メーカーも中古車ビジネスに本格的に参入を始める

執筆者プロフィール:池田直渡(いけだ なおと)

自動車ジャーナリストの池田直渡氏

自動車ジャーナリストの池田直渡氏

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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クルマの楽しさを幅広いユーザーに伝えるため、中古車関連記事・最新ニュース・人気車の試乗インプレなど 様々な記事を制作している、中古車に関してのプロ集団です。 みなさんの中古車・新車購入の手助けになれればと考えています。

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