新車試乗レポート
更新日:2021.01.21 / 掲載日:2020.12.09

トヨタ 新型MIRAI<プロトタイプ> 先取り試乗

●12月発売予定 ●編集部予想700万円台~

この記事の目次

究極のエコカーが大化け、走りが楽しい最上級セダンに大変身!
2019年の東モでその姿を見せた新型MIRAI。世界初の量産型燃料電池車として登場した初代とはまったく異なる、流麗なクーペルックに驚いたのは記憶に新しいところ。そんな注目の2代目にサーキットでいち早く試乗する機会に恵まれた。注目の走り&気になるメカニズムを徹底詳解!

第2世代のMIRAIは トヨタセダンの最高傑作

2014年登場の世界初の量産型燃料電池車(FCV)MIRAIが2代目にフルモデルチェンジ。一般的な世代交代とは異なり、パワートレーンにトヨタフューエルセルシステム(TFCS)を用いること以外はまったく別物になった。

エクステリアは流麗な4ドアクーペスタイルで、デザインコンセプトは「サイレント・ダイナミズム」。パッケージを活かした伸びやかでスポーティなフォルムとキャラクターラインに頼らない塊デザインが見所となっている。

インテリアはドライバーを包み込むようなインパネデザインと12.3インチのワイドモニターを取り込んだセンタークラスターが特徴。運転席は包まれ感、助手席は広がり感と「集中と解放」を両立させたコクピット空間を実現。リヤシートは待望の3人掛けに変更されているが、センタートンネルは高め。ただ、足元スペースも広く流麗なエクステリアの割に十分なヘッドクリアランスも確保。ショーファー用途にも十分使えるフォーマルセダンとなっている。

駆動方式は前輪駆動から後輪駆動に変更され、前席下にレイアウトされていたFCスタックなどの主要ユニットはフロントに、駆動用モーターはリヤに配置。水素タンクは航続距離延長のため3本に増加。その内の1本は居住性を犠牲にしないようにトンネル内に縦にレイアウトすることで、低重心と理想的な前後重量配分(50:50)に大きく寄与している。

パワートレーンは第2世代のTFCSシステムで、FCスタックの高性能化と小型化&軽量化、セルの進化、駆動用バッテリーの高効率化&小型化などにより、システム出力は113kW→134kWに向上。航続距離は新システムにより高効率化と水素タンク容量アップ(4・6kg→5・6kg)も相まって約850kmを実現する。

プラットフォームはGA-Lをベースにリヤの新ボディ骨格採用やブレース/シェアプレートなどの補剛材の追加、構造用接着剤やレーザー溶接技術の採用などMIRAI用に最適化。主要骨格部材にアルミ材や超高張力鋼板を最適配置し、軽量化も積極的に行っている。サスペンションはフロントがハイマウントマルチリンク式、リヤはローマウント式マルチリンク。動き出しから素早く反応する新ショックアブソーバーを採用する。

その走りはどうか? パワートレーンの出力アップに加えてアクセルレスポンスの良さ、更に車両のピッチング変化が抑えられたことで非常にシャープな印象を受ける。加速感の良さも相まって2トン近い車両重量は感じない。力強さは初代とは雲泥の差だ。デザインに見合うハイパフォーマンスと言えるだろう。

フットワークは二面性を持つ。ゆっくり走るときはスムーズで滑らか、フラットな走行姿勢、凹凸を感じさせない振動の少ない乗り心地……とまさに理想のプレミアムセダンそのもの。しかも、ペースを上げるとヘタなスポーツセダン顔負けの走りを見せる。

具体的には直結感が高く信頼できるステア系に加えて素直にノーズが入るフロントと鉄壁の安定性を誇るリヤ。これらにより、S字などの切返し時もクルマの収まりがとても良い。ムリに抑え込まない、滑らかで綺麗なクルマの挙動は2トン近い重さを感じさせない。ドライバーとの一体感と高い旋回性能&コントロール性もとても魅力的だ。誤解を恐れずに言えば、GA-Lプラットフォーム採用モデルの最高傑作。つまり、トヨタとレクサスを含めたセダンの中でも最良の仕上がりと言ってもいいだろう。

注目POINT1 エキサイティングな走り

19インチはシットリした足の動きとアタリの優しさが特徴だが、細かい振動が気になるのと、追いこむとタイヤが車体に少し負けている印象だ。一方の20インチは操安重視だと思われがちだが、路面入力は僅かに大きいものの、スッキリした足の動きと振動吸収性の高さはむしろ19インチよりも上。快適性に関してはほぼ互角だ。車両重量に対するグリップのバランスは十分以上なので、ハンドリングと快適性の総合的なバランスで言うと20インチのほうがマッチングは優れていると感じた。静粛性にも徹底してこだわっている。床下を吸音効果のある素材でフルカバーしたことやマウントの工夫などにより、初代セルシオの感動が蘇ってくるほど静かだった。

  • ボンネットフードを開けるとフロントに配置されたFCスタックなどの主要ユニットが見える。パッと見は通常のエンジンのような印象だ。

初代と比較

  • 初代MIRAI

  • 初代MIRAI

走りのレベルは段違い! 新型はトヨタ車の最高水準だ

初代も走りは決して悪くないが、良くも悪くも無味無臭なハンドリング。対する新型はプレミアムセダンとスポーツセダンが共存するような走りで、同じGA-Lを用いるクラウンやレクサスLSをも超える気持ち良さだ。申し訳ないが比べる事がかわいそうなくらい。

●初代と新型の主要諸元比較

新型では前輪駆動から後輪駆動に変更。パワートレーンのレイアウト自体がまったく異なる別のクルマになっていることが分かる。

開発エンジニアINTERVIEW

欲しいクルマがたまたまFCV… 最高の賛辞です!

トヨタ自動車株式会社 MS製品企画 ZFチーフエンジニア 田中義和 氏

初代は「FCVである事」がポイントでしたが、新型は「いいクルマを選んだらたまたまFCVだった!」と言われるクルマを目指しました。水素インフラはまだ十分とは言えないので購入できる地域は限定されてしまいますが、少々不便であっても、欲しくなる魅力をたくさん備えました。販売方法や販売戦略は従来のトヨタ車とは違ったトライも検討中です。

注目POINT2 流麗かつスポーティな エクステリア

4ドアクーペのスタイルはテスラと真っ向から対抗できそうなカッコ良さだ。ボディサイズは全長4975×全幅1885×全高1470mm、ホイールベース2920mmと、クラウンとレクサスLSの中間くらい。タイヤは19/20インチと環境対応車とは思えない大径サイズを履くが、これは見た目だけでなく、水素タンクを多く搭載するためのアイデア(=最低地上高を稼げる)のひとつとなっている。

スポイラー風のトランクリッドデザインは荷室容量を確保するなど実用性にも配慮。秀逸だ。

  • ブラックスパッタリング仕様(245/45ZR20)。

  • スーパークロムメタリック仕様(235/55R19)。

注目POINT3 品の良さを感じさせる インテリア

インテリアはシンプルだが細部まで質感にこだわったデザインでプレミアム感も十分。インテリアカラー2種類(ブラック、ホワイト&ダークブラウン)+加飾2種類(カッパー、サテンクロム)を用意。環境車と言うことで法人需要に対応すべく肩口パワーシートスイッチ(助手席)や可倒式ヘッドレスト、タッチ式コントロールパネル、リヤイージークローザーなどがプラスされる「エグゼクティブパッケージ」も用意。

運転席側の包まれ感と助手席側への広がり感を両立したプレミアム感あふれるインパネ。

  • 8インチTFTカラーメーターにはFCシステムの出力や回生状況確認など様々な情報を表示。

  • 12.3インチ大型モニター。周囲の空気をどれだけきれいにしたかを表示できる機能も搭載。

  • 温かみのあるカッパー加飾が上品。8色に変更できる室内イルミネーションも設定される。

  • 運転席右前のエアコン吹き出し口には、水素と酸素の反応でできた水を排出するスイッチも。

前席と後部左右席にはシートクッションとシートバックからシート表皮の熱気を吸い込むシートベンチレーション機能を搭載。

  • トランク容量自体は初代の方が優るが、荷室内の出っ張りなどが少ないため積載性は優秀。

ショーファー用途にも対応 高い後席居住性

エグゼクティブパッケージには、助手席の肩口パワーシートスイッチや助手席可倒式ヘッドレスト、エアコンやオーディオ、サンシェードなどの操作が行える操作パネルを備えたリヤアームレストなどを装備。

初代と比較

初代は先進感とエコがテーマ。新型はとにかくカッコいい!

初代MIRAI

 初代は水滴をイメージしたエクステリア、先進感を視覚化したインテリアなど頑張っていたと思うが、FCVである事を強調しすぎていた感もある。新型はRWDらしいプロポーションバランス、ワイド&ローのスタンスなど、直感的なカッコ良さが魅力だ。

  • 初代MIRAI

  • 初代MIRAI

●初代と新型の主要諸元比較

全高を除いて全体的にひと回り以上大きくなった新型MIRAI。乗車定員が5名になったのもポイントだ。

注目POINT4 第2世代FCVに相応しい最新メカニズムの数々

 新型の特徴は内外装、走り、居住性、水素搭載量の4つだが、それらを実現させるためにプラットフォーム/パワーユニットすべてを刷新。パワートレーンは大幅に軽量&小型化された第2世代TFCSシステムを搭載。シームレスでパワフルな加速性能を実現している。システムを前後に分割して配置しているが、これは価格設定も考慮してのことだという。プラットフォームはFF用の新MCプラットフォームからFR用のTNGA「GA-L」へと変更。前後重要配分50:50や低重心化、電動パワートレーンだからこそ可能なガッチリとしたマウント方法、更に匠ドライバーによる乗り味の磨き上げも相まって、トヨタ最上級セダンに相応しい走りに仕上がっている。

新型MIRAI プロトタイプの基本構造

  • FC昇圧 コンバーター& FCスタック

  • FC昇圧 コンバーター& FCスタック

    小型化と世界最高水準の出力密度を達成したFCスタックの電圧を650Vに昇圧。シリコンカーバイド(SiC)をトヨタ初採用し高効率・高出力化を実現。

  • 駆動用バッテリー
    減速時に回収したエネルギーを貯蔵し、加速時にはFCスタックの出力をアシスト。リチウムイオン電池を採用。

    モーター
    FCスタックで作り出した電気と駆動用バッテリーからの電気で後輪を動かす。

ユニットレイアウトから完全新設計 GA-Lプラットフォームがベースだ

  • 新型ではFR車用のGA-Lプラットフォームを採用し、センタートンネルも利用して水素タンクを配置。前方にFCスタック、後方に駆動用モーターを置いた後輪駆動スタイルに変身した。

高圧水素タンク(3本)

FCスタックで作り出した電気と駆動用バッテリーからの電気で後輪を動かす。

車外の空気をキレイにする機能も搭載

環境車としての性能もさらに進化しているのが新型。発電のために吸い込んだ空気を特殊フィルターでよりきれいにして排出する機能も搭載する。

操安性能と乗り心地を徹底追求

後輪の駆動力伝達方向と車両重心を近づけることで、車両姿勢の変化(ピッチング)を抑制。頭や目線が動きにくいため乗り心地にも貢献。

いざという時に役立つ! 外部給電システムも進化

写真のDC外部給電システムは専用機器を組み合わせることで最大DC9kWの給電が可能。車内設置のコンセントからならAC100V(1500W)を外部給電できる。

●新型MIRAIプロトタイプグレード別主要諸元 [トヨタ社内測定値]

※1:パノラマルーフを装着した場合は10kg増加。 ※2:水素有効搭載量を基に計算したWLTCモード一充填走行距離。 ※3:SAE規格の標準条件(外気温20度)に基づいた充填作業における値。使用環境や運転状況などにより走行距離は異なる。 ※4:パノラマルーフを装着した場合は全高1480mm。

初代と比較

  • 初代

  • 新型

大幅に進化したFCスタックは世界トップレベル!

FCスタックは「6年でここまで変わる!」と言うくらい小型化、軽量化された。更にFCスタックのレイアウト変更(フロントシート下→フロント)で、高圧水素タンクは2→3本に増加したことで航続距離延長も実現。これらはすべて技術の進化の賜物と言えるだろう。

●文/山本シンヤ ●写真/澤田和久

提供元:月刊自家用車

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グーネットマガジン編集部

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