新車試乗レポート[2020.04.06 UP]

【試乗レポート アルピーヌ A110S】「S」が示す意味。フレンチスポーツに追加された高性能モデル

文●大音安弘 写真●ユニット・コンパス

 フレンチスポーツの名門「アルピーヌ」が、A110のハイスペック仕様となる「A110S」を投入した。価格は899万円から939万円で、標準モデルに対して1割ほどのアップしている。昨年6月に本国で発表されたばかりの新グレードでありながら、4カ月後となる昨年10月の東京モーターショーでお披露目されるなど、日本での展開は、かなりスピーディ。それもそのはずで、アルピーヌとって日本はトップ3に入るビッグマーケットであるからだ。その対応の良さは、受注にも表れており、昨年よりも好調なペースだという。

 そんな日本市場でA110Sの試乗会が、筑波サーキットにて開催されたA110Sの納車開始は本国でも今年3月頃といわれるタイミングでありながら、現時点で試乗会は、欧州1カ所のみというから、日本市場の期待が伺える。

この記事の目次

あくまでフレンチシックな装い
アスリートウエアのように
職人気質なアップデートを施したメカニズム
どちらもスポーツだが、その意味は異なる
どこに魅力を見いだすか

あくまでフレンチシックな装い

 A110には、標準スペックの「A110ピュア」と「A110リネージュ」という仕様違いのモデルが設定されているが、A110Sとのエクステリア上の違いは限定的だ。過度な演出は、一切ない。それだけ完成されたスタイルということなのだろう。もちろん、A110Sの主張もしっかりとある。
 最も大きなポイントは、低いシルエットに映える光沢仕上げのカーボンルーフ。流麗なスタイルに、レーシーな雰囲気を醸し出す。さらに細かい部分では、オレンジとブラックが専用のアクセントカラーとして取り入れている。オレンジが最も効果的に使われているのは、ブレンボ製のブレーキキャリパーだ。ブラックのアルミホイールの奥にのぞくオレンジキャリパーは、スポーティかつ力強さの演出に効果的だ。ブラック化は、アルミホイールに加え、エンブレムでも行われ、より全体を引き締める。
 ボディカラーは、アルピーヌ定番色となる鮮やかな青の「ブルーアルピーヌM」、純白の「ブラン イリゼM」そして、有償色となるマットグレーの「グリ トネール マット」の3色を用意。アルミホイールが色で異なり、ブルーとホワイトは、ブラック仕上げのFUCHS製18インチ鍛造アルミホイールを。マットグレーには、「GT RACE」と名付けられた黒のよりスポークの多いデザインの18インチアルミホイールが組み合わされる。これもデザイナーのこだわりだという。

アスリートウエアのように

 同じくコクピットの違いも限定的だ。強いて言えば、ピュアに近い装備内容となるが、こちらもアクセントカラーが、ブルーからオレンジに変更されている。ピュアに採用されるサベルト製モノコックバケットシートは、レザーとマイクロファイバーのコンビである点は同様だが、ショルダーのレザーはフラットとし、オレンジステッチに変更される。わずかな違いだが、よりシート自体も引き締まった印象を受けるから不思議だ。マイクロファイバーは、ルーフランニング、サンバイザー、ドアトリムにも使用されており、インテリア全体が、スポーツウエアのような心地よいフィット感を醸し出す。さも駆けだす準備が整っていると言わんばかりだ。走りを強化したモデルだが、大きな装備の削減はなく、フランスブランド「フォーカル」のオーディオシステムもきちんと備わる。

職人気質なアップデートを施したメカニズム

 「S」特有の進化は、見えない部分に隠されている。足回りは、ハードチューンが施された。スプリングレートは、フロント部が30N/mmから40N/mmに。リヤ部が60N/mmから90N/mmにそれぞれ強化。同様にアンチロールバーも、フロント側が17N/mmから25N/mmに。リヤ側が10N/mmから15N/mmへと強化されている。ダンパーについては再チューニングを施し、車高も4mm抑えられたという。全面的に「S」専用へと煮詰めなおされているのだ。もちろん、より高みを目指すには、エンジンの存在も重要となる。搭載エンジンは、ベース同様の1.8L直列4気筒DOHCターボであるが、ブースト圧を高めることで、40psアップの最高出力292psまで高めている。ただし、最大トルクは、320Nmのままだ。ここに「S」チューニングの秘密が込められている。エンジンパフォーマンス図で比較すると、ベースエンジンと「S」エンジンの両方のパワーカーブとトルクカーブは見事に一致。Sの方が、最高出力を高めた分、発生回転数が420rpm高くなり、トルクバンドについては、さらに1420rpm領域を拡大させている。つまり、ベースエンジンのより高回転域を使えるようにしたものなのだ。ベースエンジンを否定しない、なんともマニアックなチューニングである。

どちらもスポーツだが、その意味は異なる

 試乗はサーキットを使い、A110とA110Sの比較試乗という形で行われた。A110には以前にも試乗しているが、高性能なスポーツカーなだけなく、あらゆるシーンに適応可能な懐の広さ、そして、心地よい運転が楽しめたことが心に残った。サーキットでのA110も、それは紳士的であり、滑るようにコースを駆け抜けていく。姿勢変化も穏やかで、その動きは、ダンサーのような優雅。ドライバーに、とてもよいパートナーと巡り合えたと思わせてくれる。一方、「S」は、まさにSの意味をドライバー自身に問う走りだ。固められた足回りは、身のこなしを俊敏なものとし、高回転化されたエンジンは、よりクルマを前へ前へと押し出す。ドライバーは、クルマに応えるべく、より機敏な対応が求められる。実に好戦的なのだ。一番、動きの変化が分かりやすいのは、レーンチェンジ。Gの変化を感じる余韻のあるA110に対して、「S」は、カミソリのような身のこなしを見せる。その差は、スポーツマンとアスリートの違いといえば良いだろうか。もともと、クルマとの対話が強いA110だが、一体感がより強いのは「S」なのだ。では、「S」は、トリッキーな存在なのか。今回は、公道に連れ出すことはできなかったが、よりスポーツ度が高まっているが、扱いにくさとは無縁に思えた。要するに、ドライバーが「S」のポテンシャルをどれだけ引き出せるかだろう。

どこに魅力を見いだすか

 ではA110とA110Sどちらがベターなのか。その答えは難しい。流麗なスタイル、後輪駆動ならではの走り、A110の持つ独特な世界観などアルピーヌとしての価値は、どちらにも凝縮されている。どちらを選ぶかは、その使い方次第だろう。あらゆる道をA110と駆け回りたい、グランドツーリズモであることを願うならば、A110が最適だろう。しかし、A110の原点は、コンペティションにある。かつてのA110に憧れ、その領域を垣間見たいなら、A110Sが魅力的に映るはずだ。その回答をより正確とするべく、少しでも公道試乗が試すことが出来なかったのは、残念。ただ私個人が導き出した「S」の意味は、ストイック。実に、漢っぽいクルマだと思う。そこに惚(ほ)れるかどうかだろう。


アルピーヌ A110S(7速AT・DCT)

全長×全幅×全高 4205×1800×1250mm
ホイールベース 2420mm
車両重量 1110kg
エンジン 直4DOHCターボ
総排気量 1798cc
最高出力 292ps/6420rpm
最大トルク 32.6kgm/2000rpm
サスペンション前後 ダブルウィッシュボーン
タイヤ前/後 215/40R18・245/40R18


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