輸入車
更新日:2019.10.04 / 掲載日:2019.10.04

ポルシェ特集/世界が認めるスポーツカーブランド“PORSCHE”の流儀

写真●内藤敬仁
(掲載されている内容はグーワールド本誌2019年11月号の内容です)
※ナンバープレートは、すべてはめ込み合成です。

ポルシェは、だれもが一目置く存在だ。クルマについて一家言持つレーサーも、コレクターも、エンジニアも、口を揃えてポルシェに対する賛辞を惜しまない。そんな存在はほかにない。モデルバリエーションを拡大し、さらなる成長を目指す注目ブランドの今を知るために。ポルシェが創業以来変わらず貫く、その流儀を紐解いていく。

ポルシェの考えるスポーツカーの真理とは?

VISUAL MODEL : PORSCHE 718 BOXSTER

文●九島辰也 写真●澤田和久、ユニット・コンパス、ポルシェ
※ナンバープレートは、すべてはめ込み合成です。
※新車販売価格帯はすべて2019年9月現在の価格です。


だれもがスポーツカーメーカーと認めるポルシェ。何をもってスポーツカーなのか。カイエンやマカンと911、718を同軸で捉えることのできる秘密はどこにあるのか。現行ラインアップでもっともピュアな存在である718ボクスター/ケイマンを軸に、ポルシェらしさのエッセンス、そしてスポーツカーの真理に迫る。

ポルシェがつくればスポーツカーになる

 ポルシェはスポーツカーメーカーである。だれもがそれを信じて疑わないだろう。1963年に発表された911は、いまも多くのカーガイの憧れであることは間違いない。
 ただ、じつはいま現実に販売のボリュームを稼いでいるのは純然たるスポーツカーではない。スポーツカーの定義をどこに置くかにもよるが、今日の右肩上がりの立役者はマカンやカイエンといったSUVだ。近ごろはカイエンクーペなるものも追加され、注目を集めている。
 そして、こうしたSUVファミリーや4ドアサルーンのパナメーラに乗っても、やはりスポーツカーマインドにあふれている。ハンドリング、加速、エキゾーストサウンドは紛れもなくポルシェで、ドライバーを満足させてくれる。つまり、ポルシェが考えるスポーツカーとは必ずしもパッケージングにはとらわれないと言えるかもしれない。ポルシェの開発陣がつくればすべてスポーツカーになる、ということだ。
 ただ、そうは言ってもピュアスポーツを楽しみたいという声もある。そりゃそうだ。最低限の質量と重量で仕上がったクルマは、ドライバーをより刺激的にするのは明白である。
 その観点でポルシェのラインアップを見まわすと、2つのモデルが挙がる。このページの718ボクスターと718ケイマンだ。ポルシェ製2シーターミッドシップがどれだけスポーツカーとしての完成度が高いかは想像にしやすい。
 ではこの2台の特徴はというと、軽量かつ高効率の水平対向4気筒エンジンだろう。ダウンサイジングターボはパワーはもちろん、軽量化にも役立つことで、ほかの6シリンダーやV8エンジンとは異なるライトウェイトマシンの美点を醸し出している。軽快なハンドリングはその恩恵で、ボディ中心部に収められたコンパクトなユニットがいい塩梅にコントロール性を高めている。それにミッドシップならではの、ドライバーを起点とした回頭性は気持ちよさ満点だ。
 さらにいえば、よりアグレッシブな走りを求める人向けには、718スパイダーや718ケイマンGT4といったハイスペックモデルも用意される。ハイパフォーマンスGTシャシーに4Lの水平対向6気筒自然吸気エンジンを搭載したものだ。この辺になると、ある程度腕に自信のあるひとの方が走りを楽しめるようになっている。その辺もポルシェの考えるスポーツカーの要因のひとつだろう。それぞれの運転技量に合ったモデルをラインアップし、スポーツカーの楽しみを広く知ってもらうという理念が感じられる。
 なにはともあれ、走らせると楽しい718ボクスター&ケイマン。先日もポルシェ本社の役員にインタビューしたとき、ポルシェらしさとは?という質問に、「ドライバー目線で……」という枕詞が幾度も口を突いた。718ボクスター&ケイマンはまさにそんな視点でつくられたクルマだ。それにこのスタイリング。奇をてらわないスポーツカー然としたデザインに思わず釘付けである。

Profile
モータージャーナリスト

九島辰也
ファッション、ライフスタイルに造詣が深い自動車ジャーナリスト。プライベートでは、各国のクルマを乗り継ぐ。現在の愛車は911(タイプ997)。

ポルシェ 718 ボクスター

 718ボクスターのラインアップはボクスター、同S、同GTS。スタートプライスは719万円。数あるオープン2シーターのなかでも人気は高く、北米を中心にヒットしている。

ポルシェ 718ボクスターS(6速MT) ●全長×全幅×全高:4385×1800×1280mm ●車両重量:1380kg ●エンジン:水平対向4DOHCターボ ●最高出力:350ps/6500rpm ●最大トルク:42.8kgm/1900-4500rpm ●排気量:1987cc ●新車販売価格帯:719万円~1215万円(全グレード)

ポルシェ 718 ケイマン

 モデルはケイマン、同S、同GTS、そして6気筒の同GT4となる。スタート価格は680万円ながら、トップモデルは1237万円と言う幅の広さ。ポテンシャルの高さが伺える。

ポルシェ 718ケイマン(6速MT) ●全長×全幅×全高:4385×1800×1295mm ●車両重量:1360kg ●エンジン:水平対向4DOHCターボ ●最高出力:300ps/6500rpm ●最大トルク:38.7kgm/1950-4500rpm ●排気量:1987cc ●新車販売価格帯:680万円~1237万円(全グレード)

[NEW]ポルシェ 911

 昨年のLAモーターショーで世界デビューした新型911。コードネームは992型となる。特徴はフロントとリヤのトレッドが広がったのとワイドボディのみの設定になったこと。またウェットでの走行性能がグンと上がっている。ラインナップはカレラ、同S、それと4WD、カブリオレなどが顔を揃える。

ポルシェ 911 カレラ4S(8速AT・PDK) ●全長×全幅×全高:4519×1852×1300mm ●車両重量:1565kg ●エンジン:水平対向6DOHCターボ ●最高出力:450ps/6500rpm ●最大トルク:54.0kgm/2300-5000rpm ●排気量:2981cc ●新車販売価格帯:1335万円~1997万円

ラインアップを拡大してもポルシェイズムは変わらない

文●九島辰也 写真●澤田和久、ポルシェ
※新車販売価格帯はすべて2019年9月現在の価格です。
※ナンバープレートは、はめ込み合成です。


1950年、356のみでスタートしたポルシェは、現在6モデル、5つのボディタイプを揃えるまでに拡大、2018年の販売台数は25万6255台となった。しかし、それぞれのポルシェを貫く信念、精神はけっして変わらない。

多様な4ドアモデルが飛躍の源泉になっている

 前ページにも記したように、いまポルシェのラインアップは増殖している。とくに4ドアモデルはバラエティに富んでいて、あらゆるニーズに応えている。
 このページに並ぶのがそれで、パナメーラ、同スポーツツーリスモ、マカン、カイエン、カイエンクーペというような人気モデルがある。911に代表されるポルシェの走りを持ちながら日常的に人や荷物が載せられるのだから、こんなに都合のいいものはないだろう。ちなみに、ポルシェ初となるピュアEVのタイカンも4ドア。その意味でポルシェに対するイメージはより変わるかもしれない。言うなれば“スポーツマインドにあふれる実用車”といったところだ。
 しかも、こうしたモデルにはさまざまなパワーソースが用意されるのも見逃せない。スタンダードとなるガソリンエンジンとそれをパワーアップした“S”や、“ターボ”云々、それとプラグインハイブリッドといったように。たとえるならパナメーラ。このクルマにはV6とV8のガソリンユニットがあり、パワーは330馬力、460馬力、550馬力がある。そしてEハイブリッドと呼ばれるプラグインハイブリッドにも462馬力と680馬力。最上級のターボSがプラグインハイブリッドというところも興味は尽きない。また、駆動方式に2WDと4WDがあるのもユニーク。まさにドライバー目線でのニーズにしっかりこたえている。
 それでは実際に走らせるとどうなのか。ロングホイールベースのパナメーラは総じて言うとまさにスポーティな高級サルーン。ウルトラ級の加速とハンドリングをドライバーズシートで楽しむこともできるし、リヤシートで快適な高速移動もできる。これはこのクルマの持つ操縦安定性の高さで、基本設計が高水準であることを感じさせる。ドライブモードを切り替えて、あえてエキゾーストサウンドを楽しむことも、静かなキャビンでクラシック音楽を楽しむことも両立できるのだ。
 そして、それはカイエンのような流行のSUVでも同じ。SUV本来の使い方、つまりロングドライブで家族や仲間とワイワイしながらの移動手段としても楽しめながら、ドライバーズカーとしてもクルマ好きを満足させられる。
 それじゃトップエンドばかりがそうかといえば、そんなことはない。今年マイナーチェンジしたマカンのクオリティは相当高い。しかも、エントリープライスのスタンダードモデルからしていい走りを見せるのだ。2L4シリンダーの小さなエンジンが元気よくクルマを走らせる。
 そんななかでの変わり種は今年リリースされたカイエンクーペ。SUVでありながらクーペライクなフォルムを持った新型車だ。風貌からしてかなりニッチな存在かと思わせるが、それがそうでもないからおもしろい。SUVを何台か乗り継いだ方々にとっては新たな世界を持つ相棒となるようだ。いやはやポルシェの4ドアモデルは侮れない。

ポルシェ パナメーラ

 パナメーラのモデルはじつに12種類。エンジンも駆動方式もじつにさまざまな上、価格の幅は広く、1198万円~3044万円というレンジで勝負している。それだけ多くのニーズがあるというわけだ。

ポルシェ パナメーラ 4 スポーツツーリスモ(8速AT・PDK) ●全長×全幅×全高:5049×1937×1428 mm ●車両重量:1915kg ●エンジン:水平対向6DOHC ●最高出力:330ps /5400-6400rpm ●最大トルク:45.9kgm/1340-4900rpm ●排気量:2995cc ●新車販売価格帯:1198万円~3044万円(全グレード)

ポルシェ パナメーラ 4 スポーツツーリスモ

 スポーツツーリスモはパナメーラのカーゴを広くしたワゴンタイプ。ポルシェの新しい提案だ。ラインアップは6モデル。写真のパナメーラ4スポーツツーリスモはエントリーとなる。

ポルシェ マカン

 カイエンの弟分にあたるマカン。今年デビュー以来初のマイナーチェンジを行なった。グレードは3つで、マカン、同S、同ターボとなる。扱いやすいサイズが魅力だ。

ポルシェ マカン(7速AT・PDK) ●全長×全幅×全高:4696×1923×1624mm ●車両重量:1870kg ●エンジン:直4DOHCターボ ●最高出力:252ps/6750rpm ●最大トルク:37.7kgm/1600-4500rpm ●排気量:1984cc ●新車販売価格帯:699万円~859万円(全グレード)

ポルシェ カイエン

 ポルシェ初のSUVとして2002年にデビューして以来爆発的な人気を誇るカイエン。現行型は3世代目でガソリンエンジンとハイブリッドをラインナップする。種類は5モデル。

ポルシェ カイエン Eハイブリッド (8速AT) ●全長×全幅×全高:4918×1983×1696mm ●車両重量:2295kg ●エンジン:V6DOHC+モーター ●エンジン最高出力:340ps/5300-6400rpm ●エンジン最大トルク:45.9kgm/1340-5300rpm ●モーター最高出力:136ps ●モーター最大トルク:40.8kgm ●排気量:3996cc ●新車販売価格帯:1012万円~1902万円(全グレード)

ポルシェ カイエンクーペ

 今年カイエンの派生モデルとしてポルシェファミリーに加わったカイエンクーペ。特徴的なボディはほとんどが新設計。モデルは5種類で、カイエンと同じパワーソースを積む。

ポルシェ カイエンクーペ(8速AT) ●全長×全幅×全高:4931×1983×1676mm ●車両重量:2030kg ●エンジン:V6DOHCターボ ●最高出力:340ps/5300-6400rpm ●最大トルク:45.9kgm/1340-5300rpm ●排気量:2995cc ●新車販売価格帯:1115万円~1974万円(全グレード)

いよいよ正式発表!ブランド発の電気自動車[タイカンとはどのようなポルシェなのか]

文●ユニット・コンパス 写真●ポルシェ

ブランド初のEVがついにワールドプレミア

 ついにポルシェにとってブランド初のEV「タイカン」が公開された。ワールドプレミアはタイカンの主要市場である3都市で実施。ドイツ ベルリン近郊のソーラーファーム、北米 カナダのナイアガラの滝、そして中国 福州のウインドファームといった自然エネルギーを象徴する場所が選ばれた。
 発表されたのは、「タイカン ターボ」と「タイカン ターボS」。ポルシェによれば、「ターボ」というネーミングには、ハイパフォーマンスモデルという意味合いがある。
 事実、タイカンは今回のワールドプレミアに先駆けてイタリアのナルドで高速耐久テストを実施し、24時間で3425kmを走破。急速充電とドライバー交代以外の時間はすべて走るという過酷なもので、平均速度は最高で215km/hに達している。さらに、ドイツ ニュルブルクリンク(北コース)では7分42秒というラップタイムを記録。いずれのテストもノートラブルでクリアしたという。こうした事実は、幾千の言葉よりも明快にタイカンが紛れもないポルシェであることを示している。
 ここで改めてタイカンについて説明しよう。本国仕様のデータによれば、全長×全幅×全高は4963×1966×1378mm。4つのドア、4つのセパレートシートを備え、前後アクスルそれぞれにモーターを搭載、リヤアクスルの2段トランスミッションを介して4輪を駆動する。サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーンでリヤがマルチリンク。3チャンバー式エアサス、PASM、リヤアクスルステアリングなどの制御技術は相互に連携する。
 EVの性能を左右するバッテリーはリチウムイオンを採用し容量は93.4kWh。航続距離は「ターボS」で388~412km(WLTPモード)。注目すべきは電気システムの設計を800Vとしたことで、これにより一般的な400Vシステムに比べて素早い充電を実現。出力270kWの急速充電を用いた場合、わずか5分で100km走行分の電力を充電可能としている。
 ポルシェらしいこだわりが、バッテリー温度を緻密に管理することにより、最大級の加速を繰り返すような過酷な状況であっても、加速力が衰えないようにしていること。耐久レースなどで真の速さとは何かを知っているスポーツカーブランドだからこその視点だろう。

対話式音声操作システムを初採用

 タイカンのコックピットデザインは従来のポルシェらしいテイストをキープしながらも、最新のデジタルテクノロジーを採用した。運転席正面のメーターはフルデジタルで、インパネ中央のインフォテインメントディスプレイは10.9インチ。ユニークなのは助手席にまでモニターが用意されていること。さらに対話型音声入力への対応やApple Musicの標準搭載など、意欲的な内容だ。

  • 正円が横にならぶポルシェ伝統の計器デザインをデジタルで表現したタイカンのコックピット。メーターデザインのテイストは4種類から選択可能。

  • 従来の物理スイッチを極力排したタイカンのコックピットは未来的かつクリーンなイメージ。タッチ操作に加えて、音声による操作にも対応する。

車両のみならず生産設備に到るまでエコ

 ポルシェはプロダクトだけでなく、それを生み出す生産設備についても環境への対応を進めている。シュツットガルトのツッフェンハウゼン工場は熱とエネルギーを自社生産する「コージェネレーションプラント」としてデザインされており、ヒートプラントとパワープラントは、バイオガスと有機廃棄物から生成される残余生産物のみで稼働。熱も塗装ラインや暖房などに利用される。

EV第2弾も開発中SUVルックが特徴

 タイカンの発表会にて2020年の発売がアナウンスされたEV第2弾クロスツーリスモ。プラットフォームはタイカンのものを使用する。その外観ディテールからわかるとおり、SUV的なキャラクターが与えられたモデルで、駆動方式は4WDを予定。ポルシェは今後、ガソリンエンジンを搭載する従来モデルを販売しながら、EVモデルについても積極的に開発していく。

発売前に知っておきたいタイカン基礎知識

タイカンは何人乗り?

 ワールドプレミアで展示されていたタイカンのシートは4つ。つまり、4人乗り仕様だった。しかし、本国ではオプションとして「2+1」仕様も用意されるとのこと。現時点では日本仕様に関する情報は公開されていない。

デザインコンセプトは?

 タイカンのデザインについてポルシェは、新しい時代の幕開けを告げると同時に、まぎれもないポルシェのデザインDNAを維持していると説明。後方に向けて傾斜するルーフやフェンダーの膨らみはまさにポルシェそのもの。

名前の由来は?

 その由来は、ブランドバッチ「クレスト」の中心に描かれている跳ね馬のイメージから。ポルシェによる造語ではあるが、「生気あふれる若馬」という意味が込められているという。

パフォーマンスは?

 今回発表された「タイカンターボS」は270kWのバッテリーを搭載。最高出力625馬力、オーバーブースト時には761馬力、最大トルクは107kgmを発揮。最高速度は260km/hで、0-100km/h加速は2.8秒と発表されている。

充電にかかる時間は?

 タイカンのEVシステムは一般的な400Vではなく800V。高電圧化することにより、5分間の充電で最高100kmの走行が可能とのこと。270kWの超高速充電を使った場合は22.5分でバッテリー残量5%から80%まで充電できる。

航続距離は?

 現在発表されている情報によれば、タイカンの航続距離(WLTPモード)は、「ターボ」が381km~450km、「ターボS」で388km~412km。ポルシェの走行テストによれば、日常シーンの9割を回生ブレーキがカバーするという。

どこで作られる?

 生産されるのは、ドイツのツッフェンハウゼン本社工場。この工場の壁面の一部には、NOxなどの汚染物質を吸収し、水と硝酸塩に分解する特殊コーティングが施されているとのこと。

日本での発売は?

 気になる日本での発売は2020年を予定。販売にあたってはポルシェ正規ディーラーを中心に急速充電器を設置し、オーナーの利便性をサポートする施策が発表されている。

パフォーマンスと快適性を両立させる3つの礎石[ポルシェの作り方]

文●ユニット・コンパス 写真●ポルシェ

ポルシェ各モデルに共通する開発メソッド

 建築物のいしずえとなる石を礎石(そせき)という。礎石なしに柱を立てることは叶わず、転じて物事の基礎という意味でも使われる。
 走りにおけるポルシェらしさとは、「パフォーマンスと快適性の両立」と定義づけられている。乗り手が絶大な信頼を寄せることのできるあの乗り味は、果たしてどのように作られているのか。ポルシェによれば、3つの礎石がその鍵を握っているのだという。
 まずひとつめが「車両全体のコンセプト」。なかでも大きな要素となるのが、ホイールベースとトレッドの関係で、これで安定性と俊敏性の関係性は概ね決定するという。重心位置や前後の重量配分も重要なファクター。プロジェクトの初期段階で物理的資質を磨き上げる。
 続いての礎石が「シャシーメカニズム」。タイヤとホイールのサイズはここで決定する。続いて、そのタイヤを路面に対して適正に位置付け、パワートレインからの力を正確に伝えるためのシャシー設計を行う。
 最後の礎石となるのが「メカトロニクス」。ハイテク技術によって二律背反する要素を高次元でバランスさせていく。たとえば「PDCC」は、直線路での快適な乗り心地を確保しながら、コーナリングではステアリングにさらなる正確性をもたらし、限界性能を引き上げるといった具合。さらに最新モデルでは、数あるメカトロニクスを統合制御することで、達成するレベルは飛躍的に高くなっている。
 物理的に優れた資質とハイテク技術の融合。これぞ現在におけるポルシェの作り方なのだ。

礎石その1:車両全体のコンセプト

 どのようなプロフィールを与えるのか、その計画によって運動性能と快適性の大枠が決定づけられるとポルシェは言う。ホイールベースやトレッド、重心高がこの段階で決定される。

礎石その2:シャシーメカニズム

 次のステップで重要なのは、ホイールとタイヤサイズの決定。ポルシェの多くのモデルは前後で異なるタイヤサイズを設定する。また、タイヤの性能についてもここで定義される。

礎石その3:メカトロニクス

 内側の後輪にブレーキを、外側の後輪に駆動トルクをかけることで、俊敏かつ正確な走りをもたらすトルクベクタリング。

  • ロールバーの効力を状況に応じて調整する「PDCC」は高度なロール制御を実現。

  • 後輪操舵により俊敏性と高速域での安定性という相反する要素を両立させた。

伝説のレーシングカーと稀代の自動車人の物語「情熱が歴史を動かした」

文●ユニット・コンパス 写真●ポルシェ

ポルシェに初のル・マン総合優勝をもたらした

 世界三大レースといえば「モナコグランプリ」、「インディ500」、「ル・マン24時間レース」。最初の2つがスプリントレースであるのに対して、ル・マンはその名のとおりの耐久レースであり、速さだけでなく強さが求められる。それゆえに、ル・マンでの勝利は特別な意味を持つ。
 それはポルシェにとっても同じで、創業からわずか3年目の1951年にはル・マンに参戦。その後、小排気量クラスでは敵なしとなったものの、ポルシェが真の勝者となるには総合優勝を成し遂げる必要があった。
 1960年代後半、王者として君臨していたのはフォードGT40。ポルシェは挑戦を重ねるものの、ライバルとのパワー差は歴然であった。そこでポルシェは翌シーズン(69年)に向けて、大排気量エンジンを搭載する新型マシンの開発を決定する。
 与えられた期間はわずか10カ月。それでも開発チームの不断の努力によって、4.5L12気筒エンジンを搭載する917は完成した。デビューイヤーこそ熟成不足でリタイヤとなるものの、70年には空力性能を改良した917Kの投入によってポルシェはル・マンで総合優勝を果たす。初挑戦から20年目の悲願達成だった。
 これらプロジェクトの陣頭指揮を取ったのが、創業者フェルディナント・ポルシェの孫にあたるフェルディナント・ピエヒだった。ピエヒはこの後、ポルシェから独立し、最終的にはVWのトップにまで登りつめた。超一流のエンジニアであり経営者でもあったのだ。そんなピエヒにとっても917は思い出深いものだったようで、キャリアのなかでもっともリスクの大きなプロジェクトだったと振り返っている。
 917はその後、71年にル・マンを連覇すると活躍の場をアメリカへと移し、当時最先端であったターボを装着。最終的には1100馬力にまで強化され無敵の強さを誇った。
 ポルシェの速さ、強さを世界へと示した917の誕生から今年で50年。その記念すべき年に、フェルディナント・ピエヒは天国へと旅立った。

  • 1970年のル・マンでポルシェ初の総合優勝を成し遂げた917K。

  • レースで培ったターボ技術を市販車に活用。1975年には初代911ターボを市販化した。その成功は今日まで続いている。

  • 917の開発およびレース活動を率いた若き日のフェルディナント・ピエヒ(写真右)。耐久レースでの活躍はポルシェのイメージを世界に強く印象付けた。

BOXSTER&CAYMAN 歴代モデル中古車購入ガイド

文●ユニット・コンパス 写真●内藤敬仁、ユニット・コンパス
※ナンバープレートは、はめ込み合成です。
※中古車参考価格はすべてグーネット2019年9月調べ。

ユーズドポルシェを買うなら、価格がリーズナブルなボクスターやケイマンを探してみるのもひとつの方法。今回は歴代モデルを振り返り、相場動向を紹介しよう。

身近な価格で買えるが満足度の高いクルマ

 ポルシェと言えば911を思い浮かべるが、たとえ旧世代モデルでも相場はかなり高め。そこで注目したいのが、ボクスター/ケイマンだ。911よりも小ぶりなボディに、ミッドシップレイアウトを採用し、走りの楽しさは911にも劣らずのスポーツカーである。
 何よりの魅力は価格が安く、良質な物件が揃っていること。現行型は718という車名になったが、それ以前のモデルもミッドシップスポーツならではの走りが楽しめる。また、スパイダーやGT4など硬派仕様が存在するのもポイントだろう。

ポルシェ ボクスター(タイプ981):軽量化と高出力化で走りの質感をアップ

 2012年に発表された3代目ボクスターは、ボディを含め各部の大幅な軽量化、ホイールベース、トレッドの拡大などで走りの性能を向上。ベースモデルには265馬力の2.7L6気筒、「S」には315馬力の3.4L6気筒と、先代よりも高出力化を図った。中古車平均価格は590万円ほどで、探せば400万円台の物件も目立つ。MT比率は全体の2割ほどだ。
中古車参考価格帯:420万円~800万円(※12年~16年 全グレード)

写真は赤いレザーインテリアが特徴的だが、もちろん室内のトリムはさまざまなものから選ぶことが可能。

ミッドシップゆえ、ボンネット下には荷物を置くスペースが確保されている。シートは思いのほか、ゆったりと過ごせる。

ポルシェ ケイマン(タイプ981):ミッドシップの楽しさを教えてくれる1台

 ケイマンはボクスターのクーペ版と思われがちだが、718以前のモデルはボクスターよりも高出力なエンジンが与えられ、走りの味付けもやや辛口。ピュアスポーツとして申し分のない走りを提供してくれる1台。中古車は同世代のボクスターとほぼ同等の数が流通するが、平均価格は672万円と高め。とくに385馬力を誇るハードコアな「GT4」は、1000万円超えの場合もある。MT比率は3割弱とボクスターよりも多い。
中古車参考価格帯:460万円~1050万円(※12年~16年 全グレード)

コックピットは、基本的にボクスターと同様のデザイン。クローズドクーペゆえ、タイトでクルマとの一体感を高めてくれる。

BOXSTER&CAYMAN MODEL HISTORY

  • 1996年10月 ボクスター(タイプ986)を発表

  • 2000年10月 ボクスターSを追加

  • 2002年9月 ボクスターをマイナーチェンジ

  • 2004年11月 ボクスター(タイプ987)を発表

  • 2005年5月 ケイマンS(タイプ987)を発表

  • 2006年5月 ケイマンのベースグレードを追加

  • 2006年6月 ボクスター/ケイマンの2007年モデルを発表

  • 2008年11月 ボクスター/ケイマンをマイナーチェンジ

  • 2009年11月 ボクスタースパイダーを追加

  • 2010年11月 ケイマンRを追加

  • 2012年1月 ボクスター(タイプ981)を発表

  • 2012年11月 ケイマン(タイプ981)を発表

  • 2014年3月 ボクスター/ケイマンGTSを追加

  • 2015年2月 ケイマンGT4を追加

  • 2015年4月 ボクスタースパイダーを追加

  • 2016年1月 718スパイダーを追加

  • 2016年4月 718ケイマンを追加

  • 2017年10月 718ボクスター/ケイマンGTSを追加

  • 2018年7月 718ボクスタースパイダー/718ケイマンGT4を追加

ポルシェ ボクスター(タイプ987):100万円台でもOK イチオシのタイプ987

 先代(タイプ987)のボクスターは、価格、走り、物件数とあらゆる面でオススメできる編集部のイチオシ。2005年~2007年までの前期型がとくに安くなっており、200万円を切る物件も目立つ。ポルシェのスポーツカーと聞くと手強い印象を受けるが、ボクスターは日常の足にも使える間口の広さを持つ。購入時はトップの痛み具合をしっかりチェック。
中古車参考価格帯:150万円~420万円(※04年~12年 全グレード)

写真のようなMT車の比率は、全体の3割以上と、比較的数が多い。なお、この世代は5速MTと6速MTの2つのマニュアルが存在する。

トランクルームは、上下方向のスペースは少ないが、面積は広い。それでも2座のスポーツカーと考えれば、実用性はそれほど悪くない。

初代から受け継いだリヤビューは、2代目になって洗練度が増した。ソフトトップの開閉は簡単に素早く行うことができる。ミッドシップゆえのニュートラルなステアリングフィールが魅力。

ポルシェ ボクスター スパイダー:987ボクスターの最高峰ボクスタースパイダーとは?

 2009年のLAショーで発表されたボクスタースパイダーは、320馬力に高められた専用エンジンを搭載。軽量ソフトトップを採用し、リヤまわりも専用デザインとなる。中古車市場では800万円前後の個体が流通しているようだ。

ポルシェ ケイマン(タイプ987):スポーツカーに乗る楽しさを教えてくれる

 多いようで数が少ない、ミドルクラスのピュアスポーツ。そのなかでもケイマンはミッドシップレイアウトを持ち、ポルシェブランドという血統書付きのサラブレッドだ。シート後方から聞こえる荒ぶるエンジンサウンドが心地よく、本物志向のひとにオススメ。中古車は同世代のボクスターより少し高めで、物件も少なめ。平均価格は300万円となる。
中古車参考価格帯:200万円~650万円(※05年~12年 全グレード)

3連メーターはスポーツカーらしさをアピール。インテリアの造形はボクスターとほぼ共通だが、乗り味は硬め。質素な雰囲気も特徴的。

写真は後期型の「S」。18インチ径のタイヤを装着している。最高速度は時速277km、0-100km/h加速は5.2秒と性能は申し分ない。

2シーターのスポーツクーペであるケイマンは、外観も美しい。ミッドシップゆえのショートノーズも特徴的。写真は内外装のデザインがリフレッシュした後期型モデルである。

ポルシェ ケイマンR:330馬力のエンジンを搭載するトップモデル

 2010年のLAショーで公開されたケイマンRは、330馬力の3.4Lエンジンを搭載。「S」よりも20mm低い車高や固定式リヤスポイラーが特徴で、走りはかなりスパルタン。中古車価格帯は560万円~650万円となっている。

ポルシェ ボクスター(タイプ986):コンディション重視で探したい初代モデル

 財政難だったポルシェを救った初代ボクスター。登場時は、2座オープンカーブームということもあり、大人気モデルとなった。現在も市場には流通しているが、コンディションのよい個体は減っている。とくにソフトトップの傷み、電装系はしっかりとチェックしておこう。
中古車参考価格帯:80万円~200万円(※96年~04年 全グレード)

 90年代のポルシェは、写真のような曲線的なデザインが多い。これに懐かしさを感じるひともいるはず。

[世代別中古車物件比率]どの世代も万遍なく流通する

 3世代にわたるボクスター/ケイマン(初代はボクスターのみ)の歴史。中古車がもっとも豊富なのは987のボクスターで、全体の2割を占める。次いで同世代のケイマンも多いから、中古車はこの辺りが買いやすい。4気筒になった718系も、少しずつ物件が増えてきている。

この記事はいかがでしたか?

気に入らない気に入った

グーネットマガジン編集部

ライタープロフィール

グーネットマガジン編集部

1977年の中古車情報誌GOOの創刊以来、中古車関連記事・最新ニュース・人気車の試乗インプレなど様々な記事を制作している、中古車に関してのプロ集団です。
グーネットでは軽自動車から高級輸入車まで中古車購入に関する、おすすめの情報を幅広く掲載しておりますので、皆さまの中古車の選び方や購入に関する不安を長年の実績や知見で解消していきたいと考えております。

また、最新情報としてトヨタなどのメーカー発表やBMWなどの海外メーカーのプレス発表を翻訳してお届けします。
誌面が主の時代から培った、豊富な中古車情報や中古車購入の知識・車そのものの知見を活かして、皆さまの快適なカーライフをサポートさせて頂きます。

この人の記事を読む

1977年の中古車情報誌GOOの創刊以来、中古車関連記事・最新ニュース・人気車の試乗インプレなど様々な記事を制作している、中古車に関してのプロ集団です。
グーネットでは軽自動車から高級輸入車まで中古車購入に関する、おすすめの情報を幅広く掲載しておりますので、皆さまの中古車の選び方や購入に関する不安を長年の実績や知見で解消していきたいと考えております。

また、最新情報としてトヨタなどのメーカー発表やBMWなどの海外メーカーのプレス発表を翻訳してお届けします。
誌面が主の時代から培った、豊富な中古車情報や中古車購入の知識・車そのものの知見を活かして、皆さまの快適なカーライフをサポートさせて頂きます。

この人の記事を読む

img_backTop ページトップに戻る

ȥURL򥳥ԡޤ