新車試乗レポート
更新日:2018.11.20 / 掲載日:2018.02.28
SUZUKI「クロスビー」の実力
スズキはコンパクトSUVを数多く揃えているが、その中で最も遊び心が溢れているのはクロスビーだろう。今回はそんなクロスビーをレジャーで使ってみたら? を想定し、少し長めのドライブに出かけてみた。期待のニューカマーの本当の実力を丸裸にしてみたい。
●文/川島茂夫

SUZUKI クロスビー ●発売日:2017年12月25日 ●価格帯:176万5800円~214万5960円 ●販売店:スズキ全店 ●問い合わせ先:0120-402253
ターボ+マイルドHVの余力溢れる走りはお見事
アクアラインの開通により、東京近郊~房総エリアは日帰り圏内。太平洋が見える鴨川あたりまでドライブして、走りの実力とリアルな燃費を確認しようというのが、今回のロングドライブの狙いだ。
スタート地点となった横浜・港北エリアから、まずは第三京浜の都筑ICを経由してアクアラインに向かう。このコースは急な勾配変化は少ないものの、合流や登降坂で微妙に流れの速度が変わるケースが多い。おおよそ80km/h前後の流れに乗せて走らせるが、少ないペダルストロークで巡航ギヤを維持したまま、走らせることができる。実は今回のロングドライブを検討した時に、少し気になっていたのは、ターボが組み合わされるとはいえ1Lという排気量と、空気抵抗の大きいパッケージングだ。だが、クロスビーの1Lターボは、アクセル開度が浅い踏み込みでもなかなかのレスポンスとトルク感を感じさせてくれる。狙った加速で狙った速度まで速度を高めていくのも極めてスムーズ。セオリー的には高速走行は苦手かも、とも思っていたが、予想外に力強い走りに少々驚いてしまった。決して高回転をあまり得意とするタイプではないのだが、低中回転域のトルクや小アクセル開度での反応は抜群に良いため、速度域が上がっても非力な印象はない。むしろ、アクセルの踏み込み量が大きめになる分、活発な印象が増す。
アクアラインを渡ってからは下道中心。鴨川に向かって郊外路を走る。このあたりは短いながら登降坂もあり、変速頻度が高まる区間。30~60km/hの速度域で変化も頻繁だ。だが巡航回転数は2000回転以下が大半で、ミッションギヤも4速と5速で賄ってくれる。6速ギヤの少ない回転変化とトルコンATならではの滑らかな変速感は、上級クラスにも似たドライブフィールだ。

見晴らしの良いアイポイントは運転に気楽さをプラス
鴨川で太平洋を背景に撮影した後は、「鉄ちゃん」には有名な小湊鉄道の月崎駅へ向かう。養老渓谷が近いこのエリアは標高は低いものの、登降坂の連続する山岳路が続く。だが、高いアイポイントとコンパクトな車体は、道も狭く見通しも良くないこの区間でも、それほどストレスを感じない。操安が云々というほどの速度ではないが、風景を楽しんだり目的の場所を探してうろつくような走り方でも気楽に扱える。フットワークの軽さは美点のひとつだ。なお山岳路における動力性能は、登坂の加速でダウンシフトすると2000回転以上まで回ることもあるが、その印象はあまり郊外路と差を感じない。
東京方面は木更津東ICから高速道路を走る。往路に比べると風が強くなっているが、走行に影響はない。風の名所ともいえるアクアラインの橋上ルートでも、腰の据わった走りを維持してくれる。安定した走りを披露してくれる一つの理由は、横風を受けた時の方向性の乱れが比較的少ないことだ。さらに操舵感の良さの影響も大きいだろう。特に操舵感は絶妙。適度な重みがあり中立の収まりがいい。先に登場したスイフトシリーズのスイフト・スポーツにも似た操舵感であり、このあたりは最近のスズキ車の要点と言ってもいい。
再始動からの滑らかな挙動はマイルドHVの賜物
橋を渡った浮島ICから目的地となった横浜までは市街地中心。渋滞はなかったものの交通量は多く、信号の間隔も短い。これまで以上に頻繁な停止発進を繰り返す。停車前にエンジンが停止するアイドリングストップの恩恵で、燃料ロスは最小限に抑えられているが、ダウンサイジングターボの得意な状況とは言い難い。6速ATにしても本領を発揮するのは中高速域での巡航性能だろう。だが、コンパクトクラスとして不満ない走りは健在。再始動からの発進の滑らかさはマイルドハイブリッドならではだ。
横浜・元町エリアがゴール地点。その全行程を走った印象は、本当に「楽チン」である。またクラス的に車外からの音の影響も相応にあると思っていたが、風切り音はさほど気にならず、車内での会話も明瞭。クロスビーのレジャー用途での魅力も実感できたのである。
横浜~房総エリア往復約200kmの燃費は19.63km/L
千葉県君津市近辺の片倉ダムにて
小湊鉄道線の月崎駅でしばし休憩。
東京湾アクアラインにて。
ゴールは横浜の元町・中華街駅のそば。
●燃費総合結果19.63km/L
走行距離213.2km、平均車速46.0km
1~1.3Lのスモールカーはタウンユースが主目的。燃費特性も低中速重視が一般的だ。JC08モードが示す数値に限りなく近くなることが多い。クロスビーの状況別燃費を見てみるとJC08モードを超えたのは高速道路と郊外路の2ステージ。山岳ステージはJC08モードの17%減、市街地ステージでは28%減となってしまう。
特に注目したいのは2つの走行ステージだ。まず、市街地路ステージは区間平均車速は約20km/h。トップスピードは50km/hを超えるので、頻繁な減速や停止があっての結果。悪い数値ではないが、同クラスでは珍しく、巡航速度が高くなるほど、燃費も伸びていく傾向ということが分かった。クロスビーがあえてターボと6速を採用した理由が、燃費傾向からも理解できる。
そして高速道路ステージも興味深い。今回は流れに乗せた状況が多く、80km/hあたりで走ることになった。その巡航時のエンジン回転数は1600回転強であり、6速維持を考慮すると、もう少し高い巡航速度のほうが伸びる可能性がある。やはり走り味はもちろん、燃費性能もロングツーリング適正を強く意識しているようだ。
全体を通した総合燃費は19.63km/L。本格ハイブリッド車には及ばぬものの、十分な燃費性能を持つことを確認できた。
<ステージ別燃費の結果>
●郊外路21.06km/L
走行距離56.3km、平均車速46.3km
使われるギヤは5速までだが、1500~2000回転を余裕を持って保持できる余力がある。坂道などでパワーが少し不足気味になってもダウンシフトは少なく、高効率を優先する変速制御が印象的だ。
●高速道路21.39km/L
走行距離102.3km、平均車速67.5km
クラスを超えた巡航ギヤの維持能力を示し、ドライブフィールからも燃費が伸びているのが分かる。緩加速も含めて狭く低い回転域でこなすので、アクセル操作も楽チン。高速走行重視は明らかだ。
●山岳路17.10km/L
走行距離31.9km、平均車速41.6km
軽い車重にも助けられて、スペック以上にターボのトルクが効いている印象。登坂でも踏み込み量は少なく済む。動力性能と燃費のスウィートスポットの広さは相当だ。この扱いやすさも燃費に貢献をしている。
●市街地路14.77km/L
走行距離22.7km、平均車速20.0km
緩加速がかかると電動アシストを行うが、その時間はかなり短い。燃費はアイドリングストップで稼いでいる印象が強い。タウンユースの省燃費性は、このクラスの標準レベルは持っている。
提供元:月刊自家用車