新車試乗レポート
更新日:2024.05.13 / 掲載日:2024.05.10

大きいランクル小さいランクル古いランクル【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●トヨタ、池田直渡

 さてさて、今や納期が長いクルマNo.1のランドクルーザーだが、この4月に国内でもようやく250が発売され、現行世代のラインナップが完成した。

 俗にランクルと略されるランドクルーザーは日本で最も伝統ある車名だ。1951年6月にトヨタBJ型として誕生、1954年からランドクルーザーの名前が使用される。なんと73年目というから恐れ入る。

ランドクルーザーの名前が初めて使われたのは1954年で70年以上にわたり受け継がれている

 ランクルの話になると「どこへでも行き、生きて帰ってこられるクルマ」という車両テーマが常に繰り返される。世界から信頼され、それに応えるクルマを常に作り続けることでブランド化してきた。クロスカントリー界の巨頭であるランドローバーがモノコックシャシーを採用した今でも、ランクルがラダーフレームにこだわるのはそのためだ。それがランクルというクルマである。

 そのランクルには今3つのラインがある。「レクサスLXはどうした」との声もあるだろうが、話がややこしくなるので、ここではあくまでもランドクルーザーを名乗るモデルに絞って話を進めたい。

左からランドクルーザー 300、250、250、70

 フラッグシップはランクル300系。高級で高性能な大型乗用クロスカントリーワゴンである。ランクルシリーズの中で、最高の悪路性能と快適性を誇るが、グローバルなニーズを満たすために、ボディ外寸が大きい。全長4985mm、全幅1980mm、全高1925mm。

 それに対して、林業や農業を始め、電力会社の保守業務などのために山間地に分け入って働くクルマの系譜として、1984年のデビュー以来改良が続けられ、現在も販売されている70系の系譜がある。いわゆるヘビーデューティあるいはワークホース系の車両である。仕事のための根強い需要があり、国内では何度か販売が途切れつつも、今回、最新のエミッション規制対応エンジンを搭載すると共に、フェイスリフトを行って復活を遂げた。サイズ的には全長4890mm、全幅1870mm、全高1920mmと狭隘な山道での使用に備えてひとまわり小さい。

 そして今回スポットライトを浴びるのがデビュー直後のランクルとしてはコンパクトな250系である。サイズは全長4925mm、全幅1980mm、全高1935mmで全幅は300系と同じになった。ただし全長はだいぶ短い。250系は販売面からみればプラド(150系)の後継に当たるのだが、クルマの出来の本気度は大幅に向上していることが今回試乗してみて確認できた。

 そもそもプラドがデビューしたのは1990年。本家ランクルが海外の要求に応え、80系以降大型化した結果、取り回しを考慮したコンパクト系ランクルとしてデビューした。乱暴に言えば70系の乗用モデルの位置付けだ。

 今回は豊田市の北部にある「さなげアドベンチャーフィールド」のクローズドコースで試乗会が開催された。高低差と凹凸の激しい深い轍の泥道や、モーグルコース。頭より大きい岩がグラグラに積み上がった急登坂など、常識的にこんなところをクルマが走れるのかと思うようなコースが用意され、歩行速度プラスアルファで運転していても上体が前後左右に振り回されて、それは大騒ぎだった。余談だがこのコースを4台のクルマを乗り換えつつ一通りこなした結果、翌日から3日間、体幹の筋肉が筋肉痛で往生した。最初は肋間神経痛を疑ったほどで、寝返り打つのも厳しい有様。我ながら情けないが仕方がない。

「さなげアドベンチャーフィールド」における試乗会のひとこま。各車両のサイズ感がよくわかる

 さて、本題に戻って、今回の本命である250系を軸に他の3台、300系、70系、150系(プラド)と比較していこう。まずは300系との比較。モーグルや岩登りのような極端に厳しい条件になると、300のアシがよく伸びることが体感できる。250では浮いた車輪にブレーキつまみが作動してギコギコとうるさくなる場所でも、静かに4本のタイヤのトラクションを使って走破する。絶対的な悪路走破性では300に軍配が上がるが、クリアできるかできないかという話になれば250は電子制御デバイスに助けられながら、しっかりクリアできる。さらに厳しい条件になれば250では走破できないケースもあるかもしれないが、そこまで想定するのは、日本で普通に使う人にはもはや現実的ではない。これを差があると見るか差はないと見るかは判断の難しいところだ。

 狭いダートの林間コースでは250のコンパクトさが生きるケースはあるが、だからといって300では特別に持て余すという意味ではない。持て余すのは、むしろ街中の路地や駐車場で強く感じる。全幅の数値は300も250も一緒なので、こうしたコースの隘路に関しては、運転席で感じるクルマ全体のボリューム感によるものだと思われる。町場の駐車場のような場所ではむしろ全長が影響してくるだろう。

 70との比較では、良い意味でも悪い意味でも70は全てがダイレクトである。手の内感だけを取れば70の操作系のフィードバックは極めて優れている。それは300との比較においても明確だ。ただし、当然ながらその動きは働くクルマのそれであり、乗用車らしいたおやかさでは300と250に譲る。日常遣いでの快適さを70に求めるのは少々荷が重い。

 最後に150との比較は意外な思いだった。プラドはあの時代にデビューしたトヨタ車としては骨太で真面目な良いクルマであり、「やはりランクル一族」と敬意を払ってきた。しかしながら、今回他の3台と比べると、あらゆる部分で少しレベルが落ちると感じた。ちょっと言い過ぎを承知で言えば、走行全般のフィールにおいて軟式のランクル。本物感・本気感に差を感じた。今回トヨタは「250はプラドの後継ではありません」とアナウンスしている。その意味は乗ってみるまでよくわからなかったけれど、今回こうした厳しいコースを走ってみると、意図を察することができた。ただし、プラドも今回のコースでは走破力が足りないわけではない。同じコースを走り抜けることはプラドにも十分できる。ただその過程において、質的な差が存在するということである。

ランドクルーザー 250

 さて、結論としてどうか。250は極めてオールマイティなランクルであり、日本で日々のアシとして使いながら悪路走破性を求める人にはベストチョイスだろう。大きさと金額を気にしないなら絶対走破性能と乗り心地で300は流石の貫禄を示す。一方、日々のアシとしての快適性を我慢でき、むしろ悪路での運転のダイレクトな楽しさに焦点を求めるのだとすれば、これは絶対に70である。ということで各車各様に個性がある3台のランクル。それぞれの好みで選択肢は変わると思われう。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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