heartとカクテル short story　　「アルテオンと、触れた指先の痕跡。」｜車検・点検・修理のグーネットピット

エンジンルームを開け、バッテリーをチェックする。
数値は安定していた。問題なし――。
その安堵を胸に、heartは次の作業へと視線を移した。

濃紺のアルテオン。
その深いブルーメタリックは、
夜を閉じ込めたように艶やかで、
同時にすべての傷を残酷に映し出す。

ドアハンドルの奥に、幾筋もの小さな爪痕。
オーナーの日常と、無意識の仕草が確かに刻まれていた。

ポリッシャーでは届かない狭い場所に、
heartは専用のスポンジを差し入れる。

磨かれるたびに、その痕跡は薄れ、
まるで記憶をそっと消すように静かに消えていく。

ボディ全体へと移る。
ポリッシャーが回転する低い唸り声が、
紺碧のボディをひとつの鏡へと変えていく。

光の粒が表面を走り、
未完成の夜景を描いては、また飲み込まれる。

そして仕上げに、コーティング。
塗り込まれる度に深みを増す青。
それはもはや鉄と塗装ではなく、
触れられない感情そのもののようだった。



heartはクロスをゆっくりと滑らせる。
残ったわずかな曇りが消え、
アルテオンは初めて出会ったとき以上の輝きを放つ。

――それは、指先の痕跡さえ許さないほどに。

• 触れられない感情
• コーティングの魔法
• 深みを増す青
• 爪痕を消す午後
• 磨きと記憶のあいだ
• 紺碧の光沢
• アルテオンと指先の痕跡
• heartとカクテル