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故障・修理
更新日:2019.09.12 / 掲載日:2019.09.12

日産GT-R搭載VR38DETT分解REPORT

日産渾身のスーパースポーツGT-R。その心臓部であるVR38DETTには、「国産最強」たる所以が随所に詰まっている。そのエンジン製造セクションにて、実際にパーツ単位での分解の模様を見ることができた。

エンジン型式:VR38DETT
種類・シリンダー数:DOHC・V型6気筒
シリンダー内径×行程mm:95.5×88.4
総排気量L:3.799
圧縮比:9.0
最高出力kW(PS)/rpm:357(485)/6400
最大トルクN・m(kgf・m)/rpm:588(60)3200-5200
燃料供給装置:ニッサンEGI(ECCS)
使用燃料・タンク容量L:無鉛プレミアム・74

シリンダーブロック&クランクシャフト

シリンダーブロックは60度V型。95.5mmというボアピッチはVQ35HRと同じだが、ストロークは88.4mmに延長され、3.8Lの排気量を得ている。ブロックはクローズドデッキ化され、シリンダーライナーに変えて、低炭素鋼がプラズマ溶射され、0.2mmの硬い被膜を形成する。

60度Vを成立させるためにクランクシャフトの6個のスローは独立し、等間隔燃焼に導いている。バランサーを兼ねたウェブは丁寧に加工され、磨き上げられている。シリンダーライナーレスのクローズドデッキタイプのブロックはボア間の間隔に余裕が生まれ、十分な冷却水通路を確保し、冷却性能向上に貢献している。

GT-Rとして初めてV型エンジンを採用

 約1.7トンのボディを矢のように走らせ、ニュルブクリンクのラップタイムで世界最速を狙うには、おのずと求められる最高出力と最大トルクがある。それが480PS(取材時は改良で485PS、現在は最高600PS[ニスモ])と60.0Kg・mだった。

 この数値を実現する方法はいくつかある。自然吸気の大排気量エンジンを搭載する。あるいは排気量をやや抑えながらターボチャージャーのアシストを活用するというのが分かりやすい二つの選択肢だ。

 ターボチャージャーのアシストを選択した場合、エンジンタイプを何にするかという問題も生じる。GT-Rは伝統的に直列6気筒エンジンを採用し、このGT-Rの前のモデルではRB26DETTを搭載していた。

 直列6気筒はクランクシャフト1回転当たり3回、すなわち120度の間隔で燃焼が起こり、直列4気筒エンジンが抱える2次振動とは無縁の、きわめてスムーズな回転が得られる。しかし長いクランクシャフト、重いシリンダーブロックなどの欠点は現代のクルマのレイアウトには合致せず、過去のものになりつつある。

 そこで登場するのがV型6気筒だ。日産はVQ35HRという優れたV型6気筒エンジンをスカイランに搭載している。このエンジンブロックの基本骨格を用いて精密に組み上げられたのがGT-Rに搭載される、このVR38DETT型エンジンなのだ。

 といっても、VQ35HR とVR38DETTの共通項は95.5mmというボア径、60度Vというレイアウト以外にそう多くを見つけることはできない。VQ35HRでは81.4mmだったストロークはVR38DETTでは88.4mmに延長され、3.8Lという排気量を得ている。

 VR38DETTの一番の特徴はクローズドデッキとシリンダーライナーレスのエンジンブロックだ。VQ35HRではオープンデッキだったが、高出力に対して剛性を上げるためにクローズドデッキに改められた。ブロックはアルミダイキャストだが、通常のアルミブロックシリンダーに見られる鋳鉄製のシリンダーライナーはそこにはない。

 鋳鉄製のシリンダーライナーはある程度の幅を要求する。しかし限られた寸法の中でシリンダーライナーの幅を確保すると、今度はボア間の冷却水通路のスペースが犠牲となって冷却性能に影響を及ぼす。

 そこでVR38DETTでは鉄系の合金をシリンダー内壁にプラズマ溶射し、約0.15mmの厚さの層を形成し、シリンダーライナーに代わるものとしている。これによって鋳鉄製ライナーを使用した場合に比べ、2.4mm以上もの余裕が生まれ、6つのリシンダーを合わせて2.8Kgの軽量化も図られたという。

 鋳鉄ライナーがないことによる利点は他にも生まれる。鋳鉄による熱伝導がなくなり、ボア壁面の熱が直接ウオータージャケット内の冷却水の影響化に置かれるため、さらに冷却効率は均質化し、安定したものとなる。

 このような骨格に乗せられたエンジンヘッドは、4バルブ、ペントルーフ型燃焼室を持ち、吸気側に可変バルブタイミング機構を組み込む。各バンクあたり2本のカムシャフトはチェーンで駆動されるが、クランクシャフトから直接駆動するのは吸気側のカムシヤフトで、排気側はセカンダリーチェーンによって駆動する2ステージ方式はVQ35HRと同じものだ。

 吸気、排気系は各バンクごとに独立させたもので、レスポンスの向上に貢献している。エンジン上部に吸気系の補機が装着されるので、それと指摘しにくいが、ヘッドカバーは軽量化のためにマグネシウムが採用されている。

ピストン&コンロッド

強度を上げながら軽量化も図られたコンロッド。製造手法はコンベンショナルなもので、コンロッドボルトは角度法で締め付けられる。ピストンは全高を抑えたもので、スカート部には樹脂加工を施し、フリクションロスを低減させている。
ピストンピンはフルフロー型。メインジャーナルは4ヵ所に設けられ、ロワシリンダーブロックがベアリングキャップの役割を果たしている。シリンダー内壁に向けてオイルジェットが設けられ、潤滑性能とともjにピストンを内部から冷却する。

ピストンの組み立てはもちろん、ヘッド、ブロックに至るまで。

1機のエンジンは1人の組み立て要員の熟練した技によって、最後の工程まで丁寧に組み上げられる。

アルミエンジンブロックには鋳鉄製のシリンダーライナーはない。

代わって低炭素鋼がプラズマ溶射される。皮膜の厚さは、鋳鉄ライナーの2.6mmに対し、わずか0.15mm。

シリンダーヘッド&カムシャフト

各バンクに2本のカムシャフトを持つ4バルブDOHC。燃焼室はペントルーフ型。吸気側に可変バルブタイミング機構が組み込まれている。カムシャフトはチェーン駆動。吸気側を駆動するプライマリーと排気用のセカンダリーの2ステージ方式を採用している。
可変バルブリフト機構を組み込んだエンジンと比較すると、きわめてシンプルに見えるヘッド周り。高性能ゆえに小細工は不要というコンセプトによるものなのだろう。カムシャフトは4つのジャーナルで支持。点火系はもちろん各気筒で独立したものだ。

コンパクトなヘッドの中にはこれだけのバルブ駆動系パーツが収まっている。バルブ駆動は直動式で、硬度の高い薄肉型のバルブリフターが用いられる。バルブクリアランスの定期的なメンテナンスは不要だが、調整のときにはバルブリフターごと交換する。

高出力と燃料とのバランス

高性能なターボチャージャーエンジンでは、幅広い運転領域で燃料冷却が要求されたが、VR38DETT型では理論空燃比で走れる領域を増やし、さらに高負荷領域でもA/Fセンサーからの情報をもとに、きめ細かく燃料供給を制御し、高い経済性を発揮する。

エンジンの組み立てが行われる部屋は、文字通りの「クリーンルーム」だ。気温23プラスマイナス2度、湿度70%。室内気圧を1.03と高くしているのは、外部からの埃の侵入を防止するため。

温度、湿度を一定管理 ダストも排除

エンジンに限らず、クルマの組み立てラインはフォードT型の製造で採用されて以来の「ベルトコンベア式」が規定のものだ。しかしVR38DETTの組み立ては時代に逆行したかのように、1人の組み立て要員が1機の全てを受け持つ。組み立て要員は日産社内から選抜された匠の腕を持つ人たちだ。外部からの埃の侵入を防ぐために組み立て室は、1.03気圧に高められ、気温、湿度も調整され、作業着は静電気防止加工も施されている。

自在に向きを変えられるエンジンスタンドにブロックを組み付け、腰下の作業が行われている。1機の完成に要する時間はわずか60分。この中には簡易検査の時間も含まれている。

オイルパン周りの作業ではエンジンを逆さにする。通常の一般的な工場ではエアツールが主に使われているが、ここでは埃をきらい、全ての作業に電動ツールが用いられる。

組み上がると簡易検査を行う。モーターに接続し、200rpmで回し、起動トルク、カム角中心位置、コンプレッション、リークなど13項目が基準値内にあるかどうかをチェックする。

最後に全てのエンジンがベンチテストにかけられる。まず6400rpmまでの9段階でならし運転が行われ、全負荷をかけ、パワー、ノイズ、バイブレーションがチェックされる。

吸排気系

VQ35HR型の吸気系は左右のバンクでインテークマニホールドを共用しているが、VR38DETT型では左右を独立させ、電子制御スロットルもそれに合わせて2個装着し、レスポンスの向上を図っている。エキゾー

左右独立した各バンクごとのインテークマニホールド。3本の吸気管には、これも左右独立したインタークーラーで冷却された密度の高い空気が導かれる。電子制御スロットルも各バンクに設けられる。

ターボチャージャーはIHI製。最近のターボはツインスクロールや可変ノズル、2ステージなどを採用する例が多いが、GT-Rでは各バンクにコンベンショナルなターボを装着。しかし、その位置に工夫が求められてい

エキゾーストマニホールドと一体で成形されたタービンハウジングを持つターボチャージャー。排気ポートとの距離が短くなるため優れたレスポンスが得られる。また触媒も直下に設けられるという利点も生まれる。

パワートレーン、そしてシャシーは……ミッションをリヤにマウントする

通常のFROMではエンジン-フライホイール-クラッチ-トランスミッションが車体の前部に位置し、エンジンの構成部品の一部となり、後車輪部にデフ、LSDなどが配置される。しかしGT-Rではこのような常識的なレイアウトは追い払われ、前部にはエンジンとフライホイールのみ、そして後部に新たに導入された湿式ツインクラッチ、6速トランスミッション、デフ、前輪駆動のためのトランスファまでも配置される。これによって前後の重量配分が適正化でき、鋭いハンドリングの実現に貢献する。

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グーネットピット編集部

ライタープロフィール

グーネットピット編集部

車検・点検、オイル交換、修理・塗装・板金、パーツ持ち込み取り付けなどのメンテナンス記事を制作している、
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