新車試乗レポート
更新日:2022.05.20 / 掲載日:2022.05.20
【フェラーリ F8スパイダー】最後のV8ガソリンオープンと過ごす【九島辰也】

文●九島辰也 写真●フェラーリ
このところフェラーリの周りが騒がしい気がします。自身初となるSUVのプロサングエを控えながら電動化の波に拍車がついているからでしょう。ピュアEV、つまりまったく内燃機関を持たないモデルの影がチラチラ見えます。
プラグインハイブリッドはご存知の通りすでにSF90ストラダーレと296GTBがラインナップされています。前者はV8エンジン+モーターでシステム最高出力1000馬力を発揮するド級のモデル。もはや文字通り「桁違い」ですね。プライスも5000万円を超えていますから、スペシャルなことがわかります。後者はV6ツインターボエンジン+モーターという組み合わせ。フェラーリとしては珍しい6気筒ユニットですが、モーターと組み合わせることで既存の概念以上の走りを見せます。

そんな背景を鑑みると、今回ステアリングを握ったモデルは今後価値の上がる一台かもしれません。F8スパイダーです。GWの間、ロングタームテストドライブとしてフェラーリジャパンから借り出しました。
F8スパイダーはF8トリブートの屋根開き版です。F8トリブートはその名の通り、「フェラーリ製V8エンジンを賛美」したモデルで、“トリブート”は英語“トリビュート”と同義語のイタリア語となります。つまりV8エンジンの総決算的なポジションであり、内燃機関のみで駆動させる最後のモデルを意味します。「やっぱクルマはガソリンエンジンでしょ!」、と主張する人には最後のチャンスになる新車で買えるV8ミッドシップフェラーリですね。さらにいえば、ガソリンエンジンでもノンターボの自然吸気にこだわるのであれば、458イタリア&スパイダーが待っています。となると、こちらも価値は高くなるかも。というか、すでに中古車として大人気です……。
それはともかく、2週間近くフェラーリV8スパイダーと生活してわかったことがあります。それはあらかじめ走行ルートを定めれば不自由はないということ。というのも、この手のクルマの最大の敵は道路の段差です。特に広報車はオプションのフロントリフトアップ機能が付いていなかったのでそこに注意しました。顎を擦っては大変ですからね。ちょっとした不注意で何十万円もかかったらたまったもんじゃありません。
そうした中、3つのゴルフ場と富士スピードウェイで開催されたイベントにF8スパイダーで出向いたのですが、段差でヒヤリした場面はありませんでした。ゴルフ場やサーキットの駐車場は広く、タイヤ止めがないところが多かったです。それにガソリンスタンドやコンビニに立ち寄るのもオーケー。都心から離れると車道と歩道の段差が小さいので、そうした立ち寄りポイントも比較的苦労はありません。
とはいえ、油断すると危険は待ち構えています。駐車チケットを手で取ろうとするとホイールをガリってことにもなりません。そこは油断大敵。ゴルフ場やサーキットは問題ないですが、ショッピングモールはケースバイケースなので事前のチェックが必要です。少しでも怪しければ他のクルマに乗り換えて出かけてください。
では、肝心の走りはというと、終始気持ちのいいものでした。特に今回は高速道路の移動が多かった分、走行安定性の高さが目立ちました。そして必要なときに必要なだけのパワーを出して目的地に向かいます。アクセルオンからブレーキングまで作動時間の短さが嬉しいポイント。加減速を含め意のままのコントロールができます。

乗り心地も快適なのに驚きました。細かなピッチングはまったくなく、路面の繋ぎ目もスッとこなします。ドライブモードはデフォルトとなる“SPORT”でしたが、この乗り味は素晴らしいと思います。
スパイダーとしての走りもグッド。高速走行でキャビンに髪を逆立てるような風の巻き込みはありません。一般的なオープンカーとは速度域が異なる分開放感はそれほど求められませんが、ルーフを開けると明らかに気分は変わります。なるほど、これなら世界中のクルマ好きセレブリティに受け入れられるのもわかる気がします。
というのが、今回のロングタームテストの感想です。たまにゴルフ場でフェラーリを見かけますが、オーナーは快適なドライブをしていたのがわかりました。ちなみに、フェラーリでゴルフ場へ行く場合はキャディバッグを助手席に載せます。なので、お一人様乗車。まぁ、今どきゴルフは現地集合現地解散ですからまったく問題ないですね。財力に余裕のある方はゴルフ場までの足にフェラーリをどうぞ。