新車試乗レポート
更新日:2022.03.23 / 掲載日:2022.03.21
【試乗レポート 日産 GT-R】終焉に向かう第3世代GT-R

文と写真●工藤貴宏
日産を代表する、いや日本を代表するスーパースポーツカーの「GT-R」。その圧倒的な走行性能は、国内だけにとどまらず世界的に見ても今なお第一線級である。
しかし、現行世代のデビューは2007年の冬。気が付けば、すでに登場から14年が経過する超ロングライフモデルだ。それは、1989年8月にR32型がデビューし、R33型、そしてR34型へと2度のフルモデルチェンジを経て2002年夏に生産を終了したいわゆる“第2世代GT-R”の3世代合計の生産期間を上回っているとか考えれば、いかに息の長いモデルであるかが理解できる。
即完売となった限定モデル「Premium edition T-spec」

そんなGT-Rに、あらためて試乗してみた。持ち出したのは、2022年モデルとして限定販売された「Premium edition T-spec」。「Track edition engineered by NISMO T-spec」とあわせ、限定120台(当初は100台の予定だったが20台が追加された)が抽選で販売された幻のモデルであり、同時に最新スペックとして特別に仕立てられたモデルでもある。

どのあたりが特別なのか? まずは見える部分、つまり内外装がスペシャルだ。通常モデルとの違いとして外観で目を引くのは軽量素材のカーボン(重量は一般的なタイプの約半分)で作られた専用リヤスポイラーのほか、NISMO系以外のモデルでは唯一となるアウトレットダクト付きのフロントフェンダーもマニア心をくすぐる。また足元を引き締めるアルミホイールも専用デザインとしたレイズ製の鍛造だ。






見える部分……というよりは性能からのセレクトだが、ホイールの中を覗くと、カーボンセラミックブレーキを組み込んでいるのも通常モデルとの大きな違い。サーキット走行を視野に超高速域からのブレーキングを繰り返した際に熱を持ちにくく耐久性にも優れるこのブレーキはその高価なプライスゆえにレーシングカーに使われるのがメインで、市販車への採用は異例だといっていいだろう。
またインテリアもグリーンを基調としているほか、ダッシュボードやサンバイザーまでアルカンターラと呼ぶバックスキン調の素材を張った専用のコーディネート(なんと天井に模様まで入っている!)。漂う上質感は標準GT-Rの比ではなく、単に速いだけでなく移動時間をぜいたくに使おうという狙いが見えてくる。
しかし、見える部分は「Premium edition T-spec」の序章に過ぎない。なぜなら、このモデルのハイライトは専用の味付けとなったサスペンションだからだ。
GT-Rのサスペンションは、デビュー当初に比べるとマイルドになったとはいえ超高速走行に対応するため硬めの設定となっている。しかし「Premium edition T-spec」はひときわしなやかな調律とし、高い運動性能を犠牲にすることなく日常の快適性に配慮。たしかに日常の移動はもちろん、高速道路巡行やワインディングロードを試してもR35型GT-Rのなかで、もっとも優れたバランスに思える。
サーキットを限界走行するようなシチュエーションともなれば話は変わってくるかもしれない(それは超高性能仕様「GT-R NISMO」の役割だ)が、その走りと乗り心地のハイレベルな両立は、毎日のパートナーとして考えた場合のマッチングはベストなバランスだ。
久々に乗ったGT-Rは、以前のモデルに比べて乗り心地が良くなっているだけでなく、パワートレインの洗練度も高まって動作がスムーズになっていることを実感した。以前は乗員に伝わる衝撃だけでなく振動、そしてクラッチのつながりなどにやや乱暴な面があったが、ずいぶん滑らかさが増した印象だ。ひとことでいえば、完成度が上がっていた。
デビュー当初から14年を経ても変わらぬ高揚感

いっぽうで、単に速いというだけでなく、アクセルを少し踏みましただけで味わえる、回転上昇のフィーリングや響く音といったエンジンの高揚感はデビュー時から変わらないGT-R の魅力。搭載するVR38DETT型エンジンは、まさに名機といっていい魅力があり、それだけでGT-Rを買いたい理由となり得る。
前述のように現行世代のGT-Rは登場から14年が経過する。しかし、当初は480psだったエンジンパワーが今では570ps(「GT-R NISMO」では600ps)になるなど、幾度ものブラッシュアップを受けていまだにライバルと互角に競える走行性能を誇るのは凄いことだ。
もちろん、世界には加速も最高速度もGT-Rより凄いクルマは存在する。しかし、路面を選ばず、快適性や運転のしやすさ、さらに実用性まで含めた全方位スポーツカーとして、GT-Rよりバランスの優れたモデルはそうは見当たらない。
欧州での販売を終了。第3世代GR-Rはこのまま終わってしまうのか

ところで、そんなGT-Rは今、新車での入手が難しくなっている。限定車の「Premium edition T-spec」が即完売しただけでなく、すでにハイパフォーマンス仕様「GT-R NISMO」の2022年モデルも受注を終えた。それだけでなく、通常モデルまで新規オーダーの受付を停止しているのだ。
日産はその理由を「世界的な半導体不足と新型コロナウイルス感染拡大による諸外国でのロックダウン等により」と説明するが、そんななか欧州からニュースが飛び込んできた。欧州におけるGT-Rの販売を終了するというのだ。騒音規制をクリアできないからだという(対策を施しても現状の販売台数ではその開発コストを賄えない)。
日本がそれに追従する可能性もないとは言えない。それはすなわち、中古車の値段が上昇傾向にあったGT-Rがますますコレクターズアイテム化してくことを意味するだろう。
日産 GT-R Premium edition T-spec(6速AT・DCT)
■全長×全幅×全高:4710×1895×1370mm
■ホイールベース:2780mm
■車両重量:1760kg
■エンジン:V6DOHCツインターボ
■総排気量:3799cc
■最高出力:570ps/6800rpm
■最大トルク:65.0kgm/3300-5800rpm
■サスペンション前/後:ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
■ブレーキ前・後:Vディスク
■タイヤ前後:255/40ZRF20・285/35ZRF20
■新車価格:1590万4900円(Premium edition T-spec)