新車試乗レポート
更新日:2020.07.24 / 掲載日:2020.07.24
【試乗レポート 日産 リーフNISMO】予想以上に進化を遂げた2020年モデルをチェック!

日産 リーフNISMO 2020年モデル
文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス
そこまで手を入れてきたか!
2020年モデルへと進化した日産リーフNISMO(ニスモ)の内容を知るにつれ、そんな驚きの気持ちに包まれた。見た目の変化が少ないだけに、ちょっとした小改良かと思ったら、予想を大きく超えるほど従来モデルに比べて進化しているのである。
まずは、リーフニスモとはどんなモデルかから説明しよう。ご存じのようにリーフは、日産が世界で初めて専用ボディを持つ量産モデルとして2010年に発売した電気自動車。2017年に初のフルモデルチェンジを実施し、2代目へと進化したのが現行モデルだ。リーフNISMOはそのスポーツバージョンである。
標準モデルとの違いはまずスタイリング。フロントグリル(シールド)やバンパー、サイドステップ、そしてリヤバンパーなどが専用デザインとなっている。それらは空気抵抗を増やすことなく、ダウンフォースという高速走行時に車体の浮き上がりを防いで下に押し付ける力を得ることができる、見た目だけでなく走りにも効く設計だ。18インチタイヤを組み合わせたホイールも専用デザインである。
NISMOのテーマカラーである赤をアクセントとしたコーディネイト

赤く目印を入れたステアリングホイールが目を引く室内。加飾パネルにも赤が使われる
またインテリアは、タイヤの中立位置が一目でわかるように頂点へ「センターマーキング」と呼ばれる目印を入れたステアリングホイールをはじめ、シートなど随所に赤をアクセントとしたコーディネートを実施。内外装ともに、スポーティな装いとなっている。
そして、パワートレインの制御(アクセル操作に対する反応が高まり鋭い加速をより体感できる)、サスペンション、そしてスタビリティコントロールなど車両制御の味付けも専用のセッティングが施されている。見た目だけでなく、スポーティな走りを楽しめるリーフが作りこまれているのだ。
リヤシートの形状はベースモデルと同じながら、赤のステッチが加わる
ラゲッジルームについてはベースモデル同様で使い勝手はスポイルされない
スポーティな走りを気軽に楽しめる「NISMOロードカー」シリーズ

通常モデルと同じようにディーラーで購入できるのもNISMOロードカーの魅力
ちなみに「NISMO」とは、レースなど日産のモータースポーツ活動を担うスペシャリスト集団。そのノウハウを生かした走りを楽しめるクルマとして「GT-R NISMO」を頂点とし、ボトムとして気軽に購入できる「リーフNISMO」や「ノートNISMO」などまでラインナップする「NISMOロードカー」シリーズが用意されている。リーフNISMOはそのシリーズに相当するのだ。
このNISMOロードカーはディーラーで購入でき、味付けこそスポーティだが品質や保証、ローンの扱いなども通常モデルと変わらない。だから気軽に買えるのも魅力であり、「ノートNISMO」はノート全体の販売の約10%を占めるほどの人気モデルとなっているのも素直に頷ける。
ハンドリング性能の大幅な進化が2020年モデルの特徴

2020年モデルではステアリングギア比を変更し、サスペンションのセティングも再調整された
さて、そんなリーフNISMOの2020年モデルにおいて、進化の真骨頂といえるのがハンドリングのリセッティングだ。そのポイントはふたつあり、ひとつはサスペンション、もうひとつはステアリングギヤ比である。
サスペンションは、ひとことでいうと仕立てが全面的に変わっている。サスペンションといえばその味付けを大きく左右する部品はショックアブソーバーとバネだが、従来モデル(2018年モデル)では、標準リーフからの変更点はショックアブソーバーだけに過ぎなかった。しかし新型(2020年モデル)はそれだけでなくバネも専用品を採用。すなわち、完全に新しいセッティングに生まれ変わったのだ。
バネレート(ばねの硬さ)は2018年モデル比で、フロントが約14%、リヤが約45%アップ。それを生かすために、ショックアブソーバーもフロントは伸び側と縮み側どちらも約10%、リヤは伸び側が30%、縮み側が約30%も硬くなった。より走行性能を重視した味付けとなっているのである。
そしてその楽しさを引き延ばすのが、ステアリングギヤ比の変更だ。ステアリングギヤ比とは、ステアリング操作に対するタイヤの切れ角を決める機構。これまで18.3(標準リーフと同様)だったのが、新型ではリーフNISMO専用として14.9と15%ほどクイックになったのだ。
この効果は大きい。ステアリング操作に対するクルマの反応がクイックになり、キビキビ感が強調されたのだ。参考までに14.9というステアリングギヤ比は、フェアレディZなどスポーツカー並み。開発者は「楽しい走りのためにもう一歩踏み込みたかった。そこで目を付けたのがステアリングギヤ比。サスペンションだけでは実現できなかった爽快感を手に入れることができた。ステアリングギヤ比はクルマの特性はガラリと変わる」と教えてくれた。
さらに、制御系もさらなるリファインがはかられた。たとえば「インテリジェントトレールコントロール」と呼ぶ、ステアリング操作に応じて4輪それぞれのブレーキをコントロールして挙動をスムーズにする仕掛けは新しいサスペンションやステアリング系にあわせて挙動を最適化。またトラクションコントロール機能は、いちど介入があってもできるだけ早く通常状態に復帰する(アクセル踏み込み操作を受け付ける)ように煮詰め、限界走行領域での走行性能を高めている。
そのうえで、気持ちよく速く走るためには重要となるブレーキの性能も、電動制御となるブレーキ系統の液圧コントロールプログラムを見直して、踏力に対する制動力をアップ。走る、曲がる、止まるがしっかりと磨き上げられたのだ。
新型のRECARO製シートが選択可能になった

肩のサポートがさらに充実した新型RECAROシート。シートヒーターも搭載
もうひとつ、2020モデルへの進化の注目ポイントのひとつが、RECARO製シートのオプション設定だ。
サーキットや峠道を走るときは、身体が右へ左へブレないことが大切。ブレると正確な操作ができなくなるからだ。
見るからにスポーティなデザインのこのRECAROシートは、しっかりと体を包み込んで姿勢が乱れるのを防ぎスポーツ走行をサポート。さらに、EVらしい設定としてシートヒーターが組み込まれている(EVユーザーは暖房よりも航続距離への影響が少ないシートヒーターを好む)のだから親切、というか日産はよくわかっている。
このシートは背もたれのサイドサポートが大きくて上半身をしっかりホールドするいっぽうで、ノートNISMOなどに設定されているタイプに比べると座面のサイドサポート形状はおとなしい。開発者に尋ねたところ、その理由は「MT設定があるノートと異なり、リーフは常に左足でフットレストを踏んで下半身を支えられる。だから座面はホールド性よりも乗降性を考えた」とのことだ。
RECAROシートを選ぶと標準シートに組み込まれるシートリフター機能は非採用となる。そこで気になるのが座面の高さだが、設計上は標準シートをもっとも下げた位置と同じヒップポイントだ。しかし実際に座ると標準シートより少し高く感じるのだが、それは座った際の座面のたわみ量の違いによるものと思われる。ローポジション好きにとっては、もう少し低いといいかもしれない。
ハンドリング性能の進化でより一体感のある走りを獲得した

アンテナがシャークフィン形状となったのも2020年モデルの特徴(ポールタイプも選択可能)
さて、今回は進化したリーフをクローズドコースで、従来モデルと比較しながら試乗してきた。そこで感じたのは、清々しいまでのスッキリ感だ。最大の進化ポイントであるコーナリングは、ステアリング操作に対するクルマの挙動(曲がる反応)がシャープで、スッと向きを変える動きの素直さに驚く。そのうえでクルマとの一体感が従来モデルよりも高まっていて、それは右から左へと切り返すようなS字コーナーやスラロームで特に顕著。右から左、左から右への振り返し時にグラッとくる不穏な挙動が徹底的に抑え込まれ、スムーズに気持ちよく駆け抜けられるのだ。
そのうえで、強調しておきたいのはハンドリング性能を磨くために乗り心地が犠牲になっていないこと。橋の継ぎ目のような段差を乗り越えてもネコ足のように吸収し、乗員に粗さを伝えないのだ。
エコカーでスポーツカー。そう表現するとちょっと相反するようなキャラクターであるようにも感じるが、実際に乗ってみるとそこをしっかりバランスよくまとめた開発陣のこだわりは、いい仕事をしたなと思う。時にはエコに、時にはスポーティにと2面性があり、1台で2つのキャラクターを使い分けたいクルマ好きにはいい選択肢だ。
新型における操縦性のレベルアップに関して開発者は「18モデルでもかなりの水準まで高めたが、まだまだ進化できる余地があったので踏み込んで20年モデルへ進化させた」という。確かに中身の進化幅は驚くレベルだ。
いっぽうでエアロパーツなどのデザインは変わっておらず、見た目はほぼ変更がないことに関しては「デザインは従来モデルもよくできているので変える必要を感じなかった」とのこと。ちなみに従来モデルと新型を見分けるスタイリングの唯一のポイントはルーフ降誕のアンテナ。従来モデルはポールタイプだが、新型はシャークフィンとなっている。ただし、新型でもオプションでポールアンテナを選べるので少しややこしいが。
ちなみに、ベースとなるリーフは42kWhバッテリーを積んだいわば「普通のリーフ」で、大容量バッテリー搭載の「リーフe+」ではない。これは後者だと重量が大きく異なるため、商品化にはサスペンションの専用開発が必要になることと、重量がかさむのでスポーツ走行には標準車のほうが適しているという理由がある。
日産 リーフNISMO(電気的CVT)データ
■全長×全幅×全高:4510×1790×1570mm
■ホイールベース:2700mm
■トレッド前/後:1530/1545mm
■車両重量:1520kg
■バッテリー容量:40kWh
■モーター最高出力:150ps/3283-9795rpm
■モーター最大トルク:32.6kgm/0-3283rpm
■サスペンション前/後:ストラット/トーションビーム
■ブレーキ前/後:Vディスク
■タイヤ前後:225/45R18