新車試乗レポート
更新日:2026.03.31 / 掲載日:2026.03.31
【eーハイゼットカーゴ・eーアトレー】使い勝手はそのままに電気の魅力をプラス【渡辺陽一郎】

文●渡辺陽一郎 写真●ユニット・コンパス
日本ではエンジンを搭載しない電気自動車の販売が低調だ。乗用車の場合、2025年の電気自動車の販売比率は1.4%に留まった。ハイブリッドが47%に達するのに比べて、電気自動車の売れ行きは圧倒的に少ない。
この背景には、日本では総世帯数の約40%がマンションなどの集合住宅に住み、自宅に充電設備を設置しにくいことなどが挙げられる。電気自動車は車種も少ない。小型/普通乗用車市場で50%のシェアを持つトヨタでも(レクサスを含む)、国内で販売する電気自動車は、bZ4X、bZ4Xツーリング、レクサスRZだけだ。これでは電気自動車が欲しくても、好みや用途に合った車種を見つけにくい。
ダイハツ、スズキ、トヨタの3社で販売される軽電気自動車

この電気自動車の現状を考えても注目されるのが、2026年2月に発売されたダイハツeーハイゼットカーゴ&eーアトレーだ。軽商用バンのダイハツハイゼットカーゴと、その上級モデルになるアトレーの電気自動車仕様になる。スズキにも供給されてeエブリイの名称で販売され、今後はトヨタも扱う。

eーハイゼットカーゴ&eーアトレーが注目される理由は、軽商用バンとあって、街中の短距離移動が多いことだ。電気自動車には「1回の充電で走行できる距離が短い」という批判があるが、長距離走行を可能にすると、駆動用リチウムイオン電池が大型化されてボディも重くなる。モーターの性能をさらに高める「拡大の悪循環」に陥る。価格も高くなる。
しかし軽商用バンなら街中の短距離移動が中心だから、長距離を走る必要はなく「拡大の悪循環」にも陥らない。つまり日本では、電気自動車に最適なカテゴリーは軽自動車だ。軽乗用車の日産サクラも販売が好調で、2025年には、国内で新車として売られた電気自動車の23%を占めた。以前は40%を超えていた。
電気自動車であっても積載量は不変

eーハイゼットカーゴ&eーアトレーは、ハイゼットカーゴ&アトレーのボディを使って電気自動車に変更した。開発者は「使い勝手を低下させないため、荷室容量はエンジン車のハイゼットカーゴやアトレーと同じにした。開発には苦労した」という。eーハイゼットカーゴの荷室長は1920mmで、ハイゼットカーゴの1915mmと実質的に同じだ。

ボディはハイゼットカーゴ&アトレーと同じでも、電気自動車だからメカニズムは大きく異なる。室内空間の下には駆動用リチウムイオン電池が配置され、ベース車がエンジンを搭載する前席の下には電力供給ユニットを設置した。デファレンシャルギアがあるボディの後部には、モーターを含めたeアクスルが搭載されて後輪を駆動する。このようにベース車のエンジンと駆動システムを、電気自動車のシステムに置き換えた。
モーターの性能は、最高出力が47kW(64馬力)、最大トルクは126Nm(12.9kg-m)。電気自動車だから車両重量は重く、荷物を積んでいない時でも1240〜1300kgに達する。そのために運転感覚は、乗用車の電気自動車ほどパワフルではないが、モーターの特性としてアクセル操作に対する速度の増減は機敏だ。
坂道でもゆとりがあり走りは滑らか

例えば登り坂に差し掛かってアクセルペダルを踏み増すと、モーターが即座に駆動力を高めるため、速度を下げることなく滑らかな運転を続けられる。
最大積載量が300〜350kgだから、荷物を積まない状態では、アクセルペダルを踏み始めた時の反応が機敏すぎる印象もあるが、慣れれば違和感はない。
モーター駆動の電気自動車だから、アクセルペダルを戻すと、減速エネルギーを使った回生による発電と充電が行われる。エンジン車でいえば、エンジンブレーキが掛かったようになって速度を下げる。街中での減速感は、エンジン車でいえば4速ATの3速に相当する。
ほかの電気自動車では、回生を積極的に行えるeペダルがあったり、ステアリングホイールの脇に装着されたパドルスイッチで回生/減速力を変えられるが、eーハイゼットカーゴ&eーアトレーはこのような制御を採用していない。

また電気自動車やハイブリッド車の多くは、ブレーキペダルと回生の協調制御を行う。Dレンジで走行中にブレーキペダルを踏んでも、状況によってはディスク/ドラムブレーキは作動せず、モーターによる回生の発電を積極的に行って駆動用電池に充電する。
eーハイゼットカーゴ&eーアトレーは、この機能も採用していない。理由を開発者に尋ねると「Dレンジだけでも十分な回生と減速が行われ、コストも抑えられるから」と返答された。
実際は後輪駆動の採用も関係している。後輪駆動では、回生の発電による減速も後輪のみに生じる。従って荷物を積んでいない後輪荷重が軽い状態で雪道の下り坂に差し掛かり、アクセルペダルを戻すと、回生による減速で後輪の接地性が大幅に下がり、安定性を悪化させる場合もある。
ホンダeは、後輪駆動ながらブレーキ制御を巧みに行ってシングルペダルコントロールを可能にしたが、eーハイゼットカーゴ&eーアトレーはこのような機能を採用せず、ブレーキの協調制御も行っていない。
そのためにほかの電気自動車に比べて回生充電の頻度が下がり、結果的に電力消費量が増えやすい。WLTCモードによる電力消費率は161Wh/kmだ。ブレーキとの強調回生などを行っているN-VAN・eの127Wh/kmに比べると、電力消費量は1.2〜1.3倍に増えている。

そこでeーハイゼットカーゴ&eーアトレーは、駆動用リチウムイオン電池に36.6kWhの余裕を持たせた。N-VAN・eの29.6kWhに比べて1.2倍だ。1回の充電で走れる距離も257kmだから、N-VAN・eの245kmをわずか12kmだが上まわる。
eーハイゼットカーゴ&eーアトレーのボディは、軽自動車だから全幅が1475mmで、全高はその1.3倍の1890mmに達する。縦長のボディだが、後輪がしっかりと接地して走行安定性が優れている。重量物の駆動用リチウムイオン電池を低い位置に搭載するから、重心が下がり、走行安定性にメリットを与えた。後輪の安定性が高い代わりに、峠道などでは曲がりにくい印象も受けるが、スポーティに走るクルマではないから問題にならない。
乗り心地は悪くないが商用車ならではの弱点もある

乗り心地は少し硬いが、突き上げ感は抑えた。軽自動車では足まわりが柔軟に伸縮する。タイヤの指定空気圧は、ボディが重く荷物も積むために前輪が300kPa、後輪は450kPaと際立って高い(タントは前後輪ともに240kPa)。その割に乗り心地は快適だ。

内装の基本デザインと居住性は、ハイゼットカーゴ&アトレーと同じ。一般ユーザーが購入する時は、後席に注意したい。eーハイゼットカーゴ、eーアトレーともに軽商用車だから、税額が軽乗用車よりも若干安い代わりに、後席よりも荷室面積を広く確保せねばならない。

そのために後席の足元空間が狭い。身長170cmの大人4名が乗車した時、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ1つ半に留まる。しかも床と座面の間隔が乏しいため、腰が落ち込んで膝の持ち上がる窮屈な姿勢になる。後席をシートとして使うユーザーは注意したい。
推奨ユーザーとおすすめの使い方

軽商用バンだから、主な用途は配達や荷物の運搬だが、一般ユーザーも趣味の空間として活用できる。
特に親和性が高い用途は車中泊だ。荷室は平らで、荷室長にも余裕があるから就寝しやすい。電気自動車だから100V・1500Wの電源コンセントがインパネに装着され、ホットプレートやヘアドライヤーも使える。調理も可能だから、キャンプのほかに災害時にも役立つ。

買い得グレードと価格の割安度

一般ユーザーが購入するなら、装備の充実したe-アトレーRSを推奨する。両側スライドドアの電動機能、スーパーUV&IRカットガラスなどが標準装着され、内外装も上質になる。ワゴン感覚で使える。
eーアトレーRSの価格は346万5000円だ。N-VAN・eで装備を充実させたe:FUNは291万9400円になる。eーアトレーRSには100V・1500Wの電源コンセント、両側スライドドアの電動機能などが装着されるが、50万円を超える価格差には達しない。機能と価格のバランスを競えばN-VAN・eが割安だが、eーアトレーRSは、余裕のある荷室長など軽商用車の基本機能を高めている。
補助金額を販売店に尋ねると「まだ決まっていない」と返答された。補助金額が分からないと購入できない。販売店では「今のところお客様への納車は行っていらず、購入されたお客様は、(2026年4月から交付を開始する)来年度の補助金を申請する」とのことだ。
つまり2026年2月に発売されながら、本格販売には至っていない。購入する場合も、2026年度の補助金額が分かってから契約したい。
リセールバリューは?
電気自動車で、なおかつ軽商用車だから、リセールバリューは未知数だ。それでも購入したら、なるべく長く乗るのが得策だろう。短期間で売却すると、値落ちが拡大する可能性が高いからだ。