新車試乗レポート
更新日:2026.01.02 / 掲載日:2026.01.02
【iX3】BMW新時代へ。ノイエクラッセ第1弾を徹底解説【渡辺敏史】

文●渡辺敏史 写真●BMW
ドイツ語で新しいクラスを指す「ノイエクラッセ」は、第二次大戦後の再興に乗り遅れたBMWが四輪車メーカーとしても確実なプレゼンスを放つ契機となったモデル群を指している。
ノイエクラッセ世代最初のモデルとなるiX3

その端緒は1961年に発売されたBMW 1500で、モノコックボディにOHC4気筒エンジンを搭載するなど、当時の先進的なエンジニアリングを注ぎ込んだFRサルーンだ。当時はモータリゼーションの勃興期ゆえ、エグゼクティブの乗る大型車か、庶民が選ぶRRの小型車かという選択肢が過半を占めていたわけだが、その中間的な位置づけに商機が生まれたことを示したのがBMW 1500のノイエクラッセたる所以だった。
以降、ノイエクラッセシリーズは現在の5シリーズや6シリーズのルーツともいえるモデルのベースとしても活用されながら、自らは3シリーズの源流というポジションに収まる。BMWにとってノイエクラッセはまさに中興の祖であり、現在の礎でもあるわけだ。

この成功体験を再び……ということになるのだろうか、BMWはまったく新しいBEVのプラットフォームを用いたモデル群をしばしばノイエクラッセと表現してきた。しかし、その初出しとなるiX3が現れると共に、ノイエクラッセはBEVだけでなく内燃機を含めた既存のラインナップ全体を転換するような大号令であることが伝わってきている。
その件については後述するとして、iX3に用いるBEV専用プラットフォームはBMW曰くの第6世代だという。第1世代は08年にリースされたミニEを指しており、カーボンタブを用いたi3が第3世代に相当するなど、BMWのBEVにまつわる長い歴史が再認識できる。
量産電気自動車として最長クラスの航続距離

バッテリーは三元式リチウムイオンの円筒型電池を床面にびっちりと敷き詰める方式を採る。1セルの容積は46✕95mmで、これをタブ&モジュールレス構造としてバッテリーケースに直接並べることで部品手数や工数におけるコストを抑えながら、限られた搭載面積の有効活用を図っている。ちなみに円筒型を採用した理由にエンジニアは、1セルあたりのエネルギー密度の高さとサーマルマネジメントのしやすさを挙げていた。BMWでは46✕95mmの他に、46✕120mmの採用も計画しているようで、こちらは床面の嵩上げぶんをパッケージでカバーできる大型SUV的なモデルに用いられることになるのだろう。
電気系のアーキテクチャーは800Vで構築しており、急速充電の受電能力は最大で400kWと最新のベンダーにも充分対応できる仕様となっている。搭載バッテリー容量は現時点で発表されているツインモーターの50 xDriveで108kWh、航続距離は欧州WLTPモードで805kmと足の長さは量産BEVとしては最長クラスといえるだろう。この数値を実現している背景は、エレメントの省電力化や高効率化を積み重ねているだけでなく、SUVにして0.24という優れたCd値にも現れている。
パノラミックiDriveに代表される新しい試み

初出しということもあってトピックには事欠かないiX3だが、外せないのは新しいインフォテインメント「パノラミックiDrive」を軸にした新たなUIの構築にあるだろう。
そのキーとなるのがフロントガラスとカウルの接合部に帯のように配されたパノラミックビジョンだ。このスペースにはスピードやコーションなどの走行に必要な情報のみならずオーディオや空調、対話型AIによるアシスタンスの応答状況や、更には天候や映像配信のオンデマンドサービスなどの情報を任意選択して並べることも可能だ。バーの画像は虚像投影式で、ドライバーの焦点移動のラグを軽減する配慮も加えられている。
リッチコンテンツや細かな設定は17.9インチのタッチスクリーンモニターに担わせながら、基本的には前方に可能な限りの情報を置くというこのレイアウトは、今後BEVのみならず内燃機モデルの側にも電子プラットフォームの更新に合わせて随時展開される予定だ。

同様に、パワートレインの種別を問わずBMWの新たなアイデンティティとしてiX3からあらかたのモデルに展開されるのがエクステリアデザインだ。
既に欧州でテスト風景をスクープされているフルモデルチェンジのX5やマイナーチェンジの5シリーズは、前後の意匠が艤装越しにもそちらに寄せられていることが伝わってくる。iX3の次にBEV専用プラットフォームを用いるモデルはDセグメント級セダンのi3になることが既に25年のIAAで発表されているが、並行してCLARプラットフォームをベースとする内燃機関の3シリーズもG20系からのマイナーチェンジが予定されているようで、両車の関係は極めて近い意匠のBEVと内燃機が共存する現行ミニクーパーのようなものになると目されている。

このように鳥瞰的かつ長期的にみれば、ここ4〜5年のクセ強すぎる数々のデザインアプローチは、すうっとiX3へと収斂(しゅうれん)したように伺えなくもない。BMWがノイエクラッセと称したラインナップの構築やBEV開発、工場建設などに費やした投資額は3兆円を超えるとされるが、この壮大なプロジェクトに投じたものを鑑みれば、ノイエクラッセは彼らにとってのルネッサンスなのだと慮(おもんぱか)ることもできるだろう。
新しいのに懐かしい。心地よさを感じさせる乗り味

試乗車として用意されたのは日本でも26年央と目される初出しから展開される予定の50 xDriveだ。システム総合出力は469ps/645Nmと、従来なら内燃機で5リットル超相当を示す50の数字を使っている辺りは伊達ではない。一方で、0〜100km/h加速は4.9秒と充分に速いとはいえツインモーターのBEVらしからぬ控えめさだとも感じられる。そして最高速は210km/h……と、これは内燃機車の自主規制値と肩を並べるものだ。
4782×1895×1635mmという車格はまさに今日びのDセグメントSUVの範疇だが、BEVらしさを感じるのは後席空間だろう。特に足元まわりはホイールベースが30mmしか変わらないX3よりひとまわりは広い。BEVの課題でもある床面高も適切で、181cmの筆者が座っても、大腿部が座面から持ち上がるようなことはなかった。



視認性的には一等地に置かれるパノラミックビジョンは情報量のみならず投影式ながら解像度的にも不満はない。取材車はオプションのHUDも搭載されていたが、こちらはナビゲーションの指示をARで表示してくれるため、運転中は手もとの大型スクリーンには殆ど目線を落とすことはない。静的な斬新さだけでなく動的なUIもきちんと考えられていることがわかる。
iX3の大きな見せ場は運動性能と動的質感の両立てをかつてなく高次元に折り合いづけていることだろう。たとえば加速時や減速時はトラクションや駆動・制動配分を精緻にコントロールすることで、沈み込みや前倒れのようなピッチ変化を小さく留めている。そのぶん、サスを乗り心地の側に振っているのだろう、大径タイヤをものともせずiX3は時にフランス車かと見紛うようなアタリの柔らかさもみせてくれる。
脚まわりそのものが柔らかめとあらば、それに比してロール量も大きくなるが、そこを巧くカバーしているのがBEVならではの重心の低さだ。試乗ではワインディングのみならず、クローズドコースでのスラロームや緊急回避、ハイスピードコーナリングなども経験できたが、横力耐性を高めて初動からシャープに応答するという方向性とは異なり、四輪を綺麗にストロークさせながら接地力でふわっと曲がるという方向性で味付けされている。感触的にはE36やE39の代を思い起こさせるような……そんな丸さがiX3には宿っているように感じられた。

味付けといえばもうひとつ特徴的だったのがパワートレインだ。BEVはモーターの特性で初手から最大トルクが立ち上がる、つまり発進から低速時に最大Gがドンとのしかかり、高速域に向かうにつれてドロップするというような加速曲線を描くのが大勢だ。が、iX3は初速に尖りはないが、100km/hを超えてもグイグイと伸びていくような加速曲線を作り出している。いってみれば内燃機の回して走る楽しさのようなものを感じさせようとしているわけだ。
日本での発売は2026年中。新世代BMWがここから始まる

iX3は26年の遅くはないタイミングで日本でも販売が開始される予定となっている。BMWの新時代を示す先駆けとして、店頭に並ぶのを楽しみにお待ちいただきたい。