新車試乗レポート
更新日:2025.12.23 / 掲載日:2025.12.23
【シーライオン6】BYDから398万円のプラグインHVが登場!【工藤貴宏】

文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス
いま、勢いのある自動車メーカーといえば中国のBYDでしょう。バッテリーメーカーとして会社が設立されたのは1995年。わずか5年後の2000年には「モトローラ」に携帯電話用バッテリーを納入するサプライヤーとなり、2002年には「ノキア」にも拡大。本業は自動車メーカーではなく世界最大級のバッテリーメーカーです。
バッテリーからスタートした若き自動車メーカー

そんなBYDが自動車製造を始めたのは2003年。国営だった別の自動車メーカーを買収して参入しました。いずれにしろ創業から30年、自動車を作り始めて22年ほどとまだまだ若い会社です。
いっぽうで、驚くべきはその生産台数。2024年の世界販売は約427万台。まだまだトヨタの半分未満ですが、ホンダ(約373万台)や日産(約334万台)よりも多いと聞けば、その規模をイメージできるのではないでしょうか。ちなみにテスラは約179万台で、BYDはそのダブルスコア以上。けっこう凄い規模なのです。
そんなBYDに関して、多くの人はEV(電気自動車)メーカーだと思っているかもしれませんが、実は違います。これまで日本へはEVしか導入していませんでしたが、エンジンを積んだクルマも作っていて、ついに日本でも販売が始まりました。それが「シーライオン6」。排気量1.5Lのエンジンを積んだPHEV(プラグインハイブリッドカー)です。
すでに日本販売モデルとして「シーライオン7」というモデルがありますが、そちらは純粋なEV。いっぽうシーライオン6は同じシリーズながら車体はひとまわり小さく、EVではなく全車ともPHEVとなっているのがまずは大きな違いですね。何を隠そう、BYDは世界で初めてPHEVを量産し一般販売した会社だったりします。

ボディサイズは全長4775mmで全幅1890mm。「トヨタ・ハリアー」をわずかに大きくしたくらい(全長/全幅とも35mmプラス)をイメージすればいいでしょう。バリエーションは2タイプあり、ひとつは自然吸気エンジンに1基のモーター(フロントに搭載)を組み合わせたベーシックグレード(398万2000円)の「シーライオン6」。もうひとつはターボエンジンに2基のモーター(前後に搭載)を組み合わせ高性能仕様(448万8000円)の「シーライオン6 AWD」。ちなみにターボエンジンはエンジンからのパワーを求めるためではなく、トルク太くして発電量を増やすためなのだそうで。それって日産の「e-POWER」とも同じ考え方ですね。
価格を超える充実の装備

それにしても驚くべきは価格。
たとえばハリアーのプラグインハイブリッドモデルは547万300円から。いっぽうでシーライオン6だと398万2000円からなので、ハリアーは駆動方式が4WDでパワートレインがひときわパワフルとはいえ、その差約150万円(4WDで速いシーライオン6の上級タイプを選んでもハリアーより100万円安い!)。しかも、ここからが大事なのでしっかり覚えておいて欲しいのですが、シーライオン6はベーシックグレードでも15.6インチのタッチディスプレイを組み合わせたナビにガラスサンルーフ、電動テールゲート、前席パワーシート、前席のシートヒーター&ベンチレーション機能まで標準装備。オーディオはなんと泣く子も黙るプレミアムブランドの「Infinity」です。なんという充実度。



シート表皮こそ本革ではなく合皮だけど、それを除けばハリアーだけでなく「三菱アウトランダーPHEV」や「マツダCX-60 PHEV」の上級グレードに匹敵するレベルと言っていいでしょう。アプリをダウンロードしてディーラーオプションのUSB接続マイクを用意すれば車内でカラオケができるというライバルにはない飛び道具もありますしね。
先進安全装備だって充実していて、カタログを見る限り「あればもっといい」と思うのは後方の衝突被害軽減ブレーキとアクセル踏み間違い防止機能くらい。とんでもなくハイコスパなのです。
いまや「スバル・フォレスター」だってもっとも安いモデル(ターボエンジンだけどハイブリッドではない)が400万円を超える時代。そんな時代にプラグインハイブリッドでアンダー400万円なんて、価格破壊もいいところです。ちょっとどころか、かなりやりすぎ(笑)。



想像以上に走りのレベルも高い!

「そうはいっても走りが良くないんじゃない?」と思うひともいるでしょう。でも筆者はそこにも驚いた。だって全然問題ないのだから。むしろ「こんなにいいの?」という方向で驚いたほど。
「スーパーハイブリッド DM-i」と呼ぶプラグインハイブリッドシステムはモーター駆動が中心で、エンジンは基本的に発電機として作動。エンジン駆動のほうが効率が良くなる高速領域などでは、エンジンの動力を機械的に繋げて駆動力とします。すなわち三菱がアウトランダーに使い、ホンダが「e:HEV」と呼ぶハイブリッドシステムと基本的に同じと考えればいいでしょう。効率を求めるとその方向になるのでしょうね。
モーター走行が中心だから、加速感はとてもスムーズ(EVと同じ感覚)。そのうえエンジンの力を駆動力として使う際の切り替えもスマート(正直なところ表示をみていないとわからない)で、ただただ快適です。モーター出力は約197㎰でトルクは300Nmなので、加速(モーターだけに発進は超力強い)は排気量2.5LガソリンエンジンのSUVくらいをイメージすればいいでしょうか(0-100km/h加速は8.5秒)。特筆すべきほどの速さではありませんが、スルスルと軽快で十分な加速です(速さを求めるならAWDモデルだと0-100km/h加速5.8秒)。ちなみにモーターだけでの最高速度は160 km/h。エンジンを掛けずにモーターだけで走れる距離は、カタログ値で100kmです。
そのうえで驚いたのは、コーナリングの爽快感。かなりよくできている。ハンドルを切れば素直に向きを変えるし、旋回中の安定感も右コーナーから左コーナー(もちろんその逆も)の“つながり”とか峠道でのリズム感だって好印象。運転が楽しいクルマです。
安かろう悪かろうではない。そこが脅威

いくら価格が安くても、装備が充実してコストパフォーマンスが高かかったとしても、動的性能や動的質感がイマイチだとクルマ好きにとっては「安物買いの銭失い」になってしまうことでしょう。しかしシーライオン6はそのレベルではない。それが一番の脅威ではないでしょうか。
というわけで、まさに「黒船襲来」といっていいBYDのプラグインハイブリッド車シーライオン6。もちろん筆者は日本人なので、日本車を応援したい気持ちはあります。しかし同時に、他国のクルマでも優れたクルマなら「いいところはいい」と認めないといけませんよね。競合の動向を知っておかないと、迎え撃つ戦いに勝つことなどできません。シーライオン6に試乗して、そんなことを思いました。いま、将来が危ない自動車メーカーが中国にはいくつかあるなんて言われていますが、BYDは必ず残るでしょうね。そして日本の自動車メーカーを脅かす存在となるでしょう。シーライオン6に乗って、そんなことがひしひしと伝わってきました。