新車試乗レポート
更新日:2025.12.04 / 掲載日:2025.12.03

【ヴェゼル e:HEV RS】この価格差なら選ぶ価値あり!【工藤貴宏】

文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス

 ロールーフ車用の機械式立体駐車場に入庫できるヴェゼル!

 バイヤーズガイド視点にたつと、それがホンダ「ヴェゼルRS」の最大のポイントかもしれませんね。

SUVにもっと(駐車場の)自由を!

ホンダ ヴェゼル e:HEV RS

 機械式立体駐車場は頻繁に使う人とそうではない人がいることでしょう。入庫可能な車体サイズはその設計によって違うのですが、一般的なセダンやハッチバックを対象とした「ロールーフ車用」は上限となる全高は1550mmが定番。ミニバンや多くのSUVなどそれ以上背が高いクルマは「ハイルーフ車用」を選ぶ必要があります。

 昨今はミニバンやSUVが増えていますから、かつてに比べると「ハイルーフ車用」の機械式立体駐車場もかなり増えました。しかし、それら背の高いクルマの増加に比べると追いついていないのが現状。そこで何が起きるかというと、「ハイルーフ車用の機械式立体駐車場は満車だけど、ロールーフ車用は空いている」という状況です。全高が1550mmに満たないロールーフ車だと外出先で駐車場の選択肢が格段に広がるんですよね。「背が低くてよかった」なんていうシーン少なくないはず。

 もっといえば、そもそも「マンション暮らしで家の駐車場がロールーフ車用。だから全高1550mm未満のクルマしか買えない」という人もいるでしょう。

 というわけで、そんな人にお伝えしたいニュースがヴェゼルに追加された新グレード「RS」の全高。1545mmで、すなわちロールーフ用の機械式立体駐車場に入庫できるのです(RS以外のヴェゼルは全高1580~1590mmで入庫できません!)。「自宅駐車場の都合で背の高いクルマは買えない」とか「機械式立体駐車場をよく使うからロールーフ車用に収まる車体のSUVが欲しい」なんていうひとにまさにジャストフィット。それがヴェゼルRSの実用面での最大の特徴だと筆者は思います。

「RS」ってなんだ!?

ホンダ ヴェゼル e:HEV RS

 ただし、RSの本質はそこではありません。「“フツーのヴェゼル”よりも運転が楽しい仕様」というのがキャラクターで、スポーティな仕立てが施されています。

 「RS」とは1974年に初代「シビック」へ追加されたスポーツ仕様がルーツ。通常のシビックに対し、出力をアップした高性能エンジンと締め上げたサスペンションを組み合わせて走行性能を高め、「サンセットオレンジ」の専用ボディカラーや砲弾型のドアミラーなどでスタイルもコーディネートしていました。その伝統のグレード名が、今なおホンダ車のスポーツグレードとして受け継がれているというわけ。ちなみに「RS」の意味は世の中によくある「レーシング・スポーツ」ではなく道をヨットのように爽快に進む「ロード・セーリング」なのだとか。

 そんな「ヴェゼルRS」の、普通のヴェゼルに対する変更ポイントは3つ。「スタイリング」「インテリア」そして「走り」です。

RSはここが違う

ホンダ ヴェゼル e:HEV RS

 スタイリングは専用のフロントグリルを組み合わせるほか、前後バンパーの下に専用デザインのパーツを装着してスポーティに演出。このパーツによりフロントは5mm、リヤは40mm長さを延長しています。しかしながら単にスポーティなスタイルを作るだけでなく、標準仕様にはないダーククロームメッキのモールを追加するのがポイント。それによって高級感を醸しているのがポイントだと筆者は考えます。単なるスポーティではなくプレミアムスポーティというのがヴェゼルRSの正体と言っていいでしょう。

 側面(ドア下部分)のクロームモールディングは標準車にも備わっていますが、RSでは前後バンパー同様にダーククロームとしているのもいいですね。またホイールは形状こそ「Z」グレードと同じですが仕立てが「ベルリナブラック&ダーク切削クリア」となりよりダークな印象。ドアミラーもブラック化されているのもRSの目印と言えます。

 エクステリアでいえば、ローダウンサスペンションで車体の高さを15mm低くしているほか、一般的なヴェゼルではルーフ後方にあるシャークフィンアンテナをRSでは取り外してマイナス30mm。サスペンションとアンテナで合計45mmの低車高化をおこなっているのがロールーフ車用の機械式立体駐車場利用を可能としている秘密です。

 ラジオアンテナはシャークフィンアンテナの代わりにガラスにプリントされているわけですが、そう聞くとなかには「ちょっと前までそんなの当たり前だったからそこへ戻っただけでしょ」と思うかもしれません。しかし昨今のハイブリッドやEVはモーター駆動に関連する効きが強いノイズを発生し、アンテナの位置によってはそれを拾ってしまいラジオに雑音が入るのだとか。アンテナが低い位置にあればあるほどしっかりとその対策をしなければならないので、実はけっこう大変なのだそうです。

スポーティと実用・快適性の絶妙な塩梅

ホンダ ヴェゼル e:HEV RS

 インテリアは、まず目立つのがルーフやピラーをブラック化したこと。スポーティな演出というわけですね。インパネやドアの加飾、ステアリング&セレクトレバーのステッチ、ドア&センターアームレストのステッチ、さらにはプライムスムース×ラックススエード×ファブリックにレッドのステッチを入れたシート表皮など、差し色に添えた赤もまたスポーティというわけです。

 ブラック×赤のコーディネートは定番のど真ん中であり冒険はしていませんが「やっぱりこれだよね」と思える落ち着きは悪くないですね。

 そして走りに関して。手が加えられているのはサスペンション(バネ&ダンパー)のチューニングと電動パワーステアリングの制御。結論からいえば、その美点はなんといっても「バランス」でしょう。

 まず前提として、乗り心地が悪くない。こういうスポーティ仕様というと乗り心地が悪化して「ファミリーカーとしてはちょっと……」なんていうこともごく稀にはありますが、はっきりいってヴェゼルRSはそういうのとは無縁です。それでいて運転感覚はスポーティなのはさすがで、具体的にいえば心地いいのはハンドル切はじめのクルマの動き。ハンドルをわずかに切りはじめたときに、反応遅れがなくスッと向きを変える感じがなんとも爽快。これはなにもスピードを出さなくても、ゆっくりと交差点を曲がるようなシーンでも実感できるのがなんともいいじゃないですか。

 そんな適度なスピード感と、悪くない乗り心地のハイレベルなバランスがこのクルマの真骨頂なのだと筆者は考えます。とにかくバランスがいいんですよね。

ハイブリッド+充実装備で実質的差額は25万円ほど

 そんなヴェゼルはハイブリッド専用モデルで、駆動方式はFFと4WDが選べるものの、ガソリン車の設定がありません。そのため価格は374万8800円(FF)~396万8800円(4WD)とちょっと高め(「Z」グレードは326万8100円~344万8100円)。ですが、「RS」だと「Z」ではオプション扱いのナビやETCが標準装備となるので実際の差額は実質的に25万円程。その価格差なら、ロールーフタイプの機械式立体駐車場対応+走りの気持ちよさを求めて選ぶ価値は十分にあると思うのですがが、いかがでしょうか?

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工藤貴宏(くどう たかひろ)

ライタープロフィール

工藤貴宏(くどう たかひろ)

学生時代のアルバイトから数えると、自動車メディア歴が四半世紀を超えるスポーツカー好きの自動車ライター。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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