新車試乗レポート
更新日:2025.11.21 / 掲載日:2025.11.21
史上最速ボルボの意外な素顔【EX30 ウルトラ ツインモーター パフォーマンス】

文と写真●ユニット・コンパス
ほんとうに驚きました。ボルボのスモールSUVであるEX30について、これまで環境にやさしい電気自動車で洗練されたデザインが魅力のおしゃれなクルマといったイメージだったのですが、まさかこんな側面があるとは! 新たに追加されたEX30 ウルトラ ツインモーター パフォーマンスは、クルマ好きにこそ試してもらいたい、運転することにも魅力の持ち主でした。
魅力が広がるEX30ラインナップ

EX30は、2025年8月にラインアップを5モデルに拡大、価格を抑えたエントリーモデルやアウトドア志向のクロスカントリーが加わったことで、一気に選択肢の幅が広がりました。とりわけエントリーモデルのEX30 プラスシングルモーターは、390kmの航続距離を確保しながら479万円という価格を実現。コストパフォーマンスの高さから注目を集めています。
そうした販売戦略上の王道仕様にまぎれて追加されたのが、今回の主役であるEX30 ウルトラ ツインモーター パフォーマンス。降雪地域のユーザーにとって待望のAWDモデル……というのが一般的なパターンなのですが、スペックを読み解いていくとちょっと様子が異なります。
全長4235mm×全幅1835mm×全高1550mmや最低地上高175mmというディメンションはほかのシリーズと変わらないのですが、注目すべきはパフォーマンス面。バッテリー容量は69kWhで、前後で2モーターを搭載、システム合計で最高出力428馬力、最大トルクは543Nmというちょっと前のスポーツカー級のスペックを誇ります。それを電子制御AWDでマネジメントすることで、0-100km/h加速は3.6秒。それがどれくらい速いかといえば、フェラーリ F430スクーデリア(2007年)やランボルギーニ ウルス(2018年)と同等だといえば伝わるでしょうか。
もちろん、クルマの走行瀬能は加速力だけでは評価できません。それでも「ボルボ史上最速」というフレーズを聞くとわくわくしてしまいますよね。
ルックス面での違いは20インチホイール。そしてハッチゲートの「TWIN PERFORMANCE」ロゴのみとわずか。見た目にはそんな超速SUVとは思えません。昔風の表現でいえば“羊の皮を被った狼”といった雰囲気。もともとEX30のスタイル自体が、知的で洗練されているものなので、余計にスーパースポーツ並みの加速の持ち主とは思えません。

扱いやすさが考え抜かれたインテリア

実際に乗り込んでみても、いい意味でこれまでのEX30と印象は変わりません。シンプルでクリーン。それでいて北欧ブランドに期待する居心地の良さはそのままでした。
操作も簡単。キーを持った状態でシートに座り、ブレーキを踏みながらステアリングコラムの右側にあるシフトセレクターを動かすと、そのまま走り出すことができます。もはやスタータースイッチを押す必要すらありません。ちなみにクルマから離れるときも、Pレンジに入れてドアを施錠すれば自動的にシャットダウンされます。アクションがひとつ減るだけですが、慣れるとなかなか快適です。




試乗ルートは海岸線の自動車専用道から箱根の山道を往復する王道コース。クルマの総合的な力が試されます。
走りだしたときの印象は、あれ?意外に普通といったもの。それもそのはずで、ドライブモードが「ノーマル」のときは基本的に後輪モーターだけが使われます。クルマが状況を判断し、無駄のなく走れますし、高性能であることを特別に意識しないで済みます。こうした賢いマネジメントのおかげで、ウルトラ ツインモーター パフォーマンスの最大航続距離は約535kmと、シリーズでもっとも航続距離の長いシングルモーター エクステンデッドレンジの560kmとほとんど変わらない使い勝手のよさを実現しています。
期待以上の加速力と想像もしていなかった心地よさ

モンスターの片鱗を見せてくれたのは山道での登り坂。アクセルを深く踏み込んだ瞬間、まるでクルマから重さが消えたように加速が始まり、スピードメーターの数字がグングン増えていくのです。AWDだけあってクルマの動きは安定したまま。なるほど、これは速い!
山道に入ってモードを「パフォーマンス」に切り替えアクセルを踏み込むと、このクルマのパフォーマンスが解放されます。加速は確かにスーパーカー級で、公道では長い時間アクセルを踏み続けることはできません。では、この高性能にどんな意味があるのか。ゆっくりと走らせながら色々と考えていたら、このクルマのよさがジンワリと染み込むように伝わってきました。
スポーツカー顔負けの速さはもちろん魅力なのですが、ゆっくり普通に走る時にほとんどアクセルを踏み込む必要がなくて、その楽さというか、余裕が気持ちいい。アクセルに乗せた足に力をそっと込めるだけで、クルマが滑るようにスーッと加速していきます。アクセルを踏まない楽しさとでも表現しましょうか。これはクセになる。ドライバー本人は楽しいのに、周りをびっくりさせることも、同乗者の頭を揺らすこともありません。もっと大きなクルマで感じたことのある気持ちよさですが、スモールSUVでこの加速感はとても新鮮でした。
電気自動車だから実現できた唯一無二のキャラクター

これまでのクルマは、高性能モデル=大きなエンジンを積んだ中・大型車という図式でした。ところが電気自動車では、性能を左右する要素がバッテリー容量、そしてモーターの数や出力というように大きく変わりました。
だからEX30のような小さなSUVでスーパーカーのようなパフォーマンスが出せるようになったのです。トップスピードではまだまだエンジン車の強みがありますが、今後の進化が期待できる可能性をEX30 ウルトラ ツインモーター パフォーマンスから感じ取ることができました。なによりも、アクセルをほとんど踏み込むことなく、周囲の流れをリードできるのは快感そのもの。体感したらこれだけでも欲しくなるひとは少なくないと思います。
ボルボは安全でおしゃれでスマートなクルマといったイメージが強いですが、じつは昔からモータースポーツにも力を入れています。クルマとしての本質にこだわってきたブランドとしての骨太な技術力が電気自動車時代になってもしっかり受け継がれているのです。