新車試乗レポート
更新日:2025.10.29 / 掲載日:2025.10.29
クラウンシリーズ最終結論〜「エステート」の魅力〜
いつの時代も抜群の存在感 「やっぱり」いつかは乗りたい!
新世代のクラウンには4つのモデルが展開されており、いずれのモデルも上質な乗り味と先進技術がもたらす快適な移動を体感できるが、なかでもエステートは、レジャーやプライベートの時間を豊かにしてくれる。今回はシリーズ最新のクラウンエステートで東京〜伊豆半島のロングコースをめぐり、新世代のクラウンが持つ魅力を改めて確認することにした。
●文:川島茂夫 ●写真:奥隅圭之
TOYOTA クラウンエステート

伝統を打ち破る革新で新時代の高級車をアピール
「プレミアム」や「高級」といった言葉には、伝統や保守的なイメージがつきまとう。しかし、16代目として誕生したクラウンは、その固定観念を打ち破った。用途や嗜好、ハードウェアが細分化・多様化する現代をカバーするため、4つのカテゴリーを持つ新しいクラウンが誕生した。その大トリとなるのが、クラウンエステートだ。
随分前のモデルになるが、先代のエステートは、リヤオーバーハングが長いステーションワゴンパッケージ。一方、現行型はリヤオーバーハングが短く、全高の高いSUVパッケージングを採用している。これは、ワゴンに代わってSUVがレジャー用途の主役になりつつあることを考えれば納得できる。高いアイポイントと広々としたキャビンは、長距離ツーリングを得意とするこのモデルにふさわしい。
進化した駆動制御で上質な走りを披露
興味深いのはそのハードウェア構成だ。プラットフォームは上級FFモデル向けのGA‐Kを採用。横置きエンジンのレイアウトは、優れたスペース効率という利点をもたらす。エステートを含むGA‐Kプラットフォームのクラウンは、全モデルが4WD(E‐Four)を採用している。
大きな負荷がかかる加速時には前輪寄りの駆動力配分になるが、通常走行では後輪の駆動力を積極的に活用することがポイント。急な加減速をしても、反応も挙動も滑らかだ。E‐Fourはただの4WDではなく、進化した駆動トルク制御システムとも言える。スポーツ性能や悪路走破性のためではなく、上質な走りを支えるためにE‐Fourを使っている点は、伝統モデルらしいアプローチだ。
今回の試乗では悪路走破性を試す機会はなかったが、エステートの最低地上高は4つのクラウンの中で最も高い。本格的なSUVには及ばないものの、Z(ハイブリッド)は175㎜を確保している。悪路走行用のドライブモードは設定されていないが、ひどく荒れていなければダート路でも十分に対応できるだろう。
軽快なフットワーク。滑らかな走りを体感できる
ボリューム感のある外観に反して、フットワークは軽快だ。鋭く切れ込むタイプではなく、操舵の初期から回頭や旋回力の立ち上がりが滑らかに追従してくれる。コーナリング中の制動も安定しており、ワインディングロードでも車体サイズや重量を意識せずに扱える。もちろん、高速走行も得意。直進安定性も高く、レーンチェンジなどで修正舵が必要になることもほとんどない。
GA‐Kプラットフォームのクラウンは全車に、速度や操舵操作量、挙動などに応じて後輪を操舵する電子制御4WDシステムDRSを標準装備している。これにより、幅広い速度域で安定したハンドリングを実現している。全長が5m近いにもかかわらず、最小回転半径はRAV4と同じ5・5mという小回りの良さも特筆ものだ。
プライベートなひとときを楽しむための特別なクラウン
高速道路や有料道路では、ACCやLKAを試したが、先行車への追従時の加減速も、走行ライン維持の補助も違和感がない。自動補正操舵とぶつかったり、手放し警告の誤作動も一度もなく、運転のストレスを軽減してくれた。ストレスが減れば、車内の会話も弾む。これもエステートのツーリング性能のひとつと言えるだろう。
SUVなのか、ワゴンなのか。トヨタの公式サイトではSUVに分類しているが、その定義はあまり意味がないかもしれない。レジャーを核にしたプライベートを楽しむためのクラウンというカテゴリーが、一番しっくりくる。さらにRS(プラグインハイブリッド)なら、ショーファードリブン用途向けの機能まで付加され、公私を多様に使い分けられる。クラウンエステートは、新生クラウンが切り拓いた新しい高級車像を実感させてくれるモデルだった。
主要諸元(クラウンエステート Z) ●全長×全幅×全高:4930×1880×1625mm ●ホイールベース:2850mm ●車両重量:1890kg ●乗車定員:5名 ●パワーユニット:2487cc直4DOHC(190ps/24.1kg-m)+モーター(134kW/270Nm) ●トランスミッション:電気式CVT ●駆動方式:E-Four ●WLTCモード総合燃費:20.3km/ℓ ●ブレーキ:ベンチレーテッドディスク(F)/ベンチレーテッドディスク(R) ●サスペンション:マクファーソンストラット式(F)/マルチリンク式(R) ●タイヤ:235/45R21







TOYOTA クラウンスポーツ

スポーティ&カジュアルな独自イメージを武器にする
スポーティでカジュアルな2BOXのプロポーションを最上級クラスに投影したモデル。全長とホイールベースが他モデルより短く、よりパーソナル志向を重視したショートワゴンと捉えることもできる。威風堂々とした従来のプレミアムクラスとは対極にあり、新生クラウン4モデルの中でも最も「新しい世代」を感じさせる。クラウンとしては比較的コンa富んだグラマラスな造形はとても魅力的だ。走行ハードウェアはエステートとほぼ同じ構成だ。GA-Kプラットフォームにスプリット式ハイブリッドシステムとE-Fourを組み合わせ、ハイブリッドとプラグインハイブリッドが設定されている。


TOYOTA クラウンクロスオーバー

セダンとSUVを融合させた新しい価値観を創造
新生クラウンの幕開けを飾ったモデルであり、既存の高級車像を破壊するほどのインパクトがあった。サイドシルエットはファストバックだが、ハッチバックではなく独立したトランクを持つ3BOX型だ。スポーティセダンの構成に、クラッディングパネルなどでSUV的な要素を加えている。そして車名が示す通り「クロスオーバー」だ。そのコンセプトを明確にするのがパワートレーンの設定。標準系はスプリット式ハイブリッドシステムを採用する一方、RSには2.4ℓターボのパラレル式ハイブリッドを採用し、さらにE-Fourの後輪駆動モーターも高出力型になる。高揚感のある走りを求めるモデルの設定から、走行性能の面では従来のアスリート後継と考えることができる一台だ。
TOYOTA クラウン(セダン)

トヨタのフラッグシップセダン
クラウンの伝統的な価値観を継承したモデルだが、保守的と断じることはできない。上級FR車向けのGA-Lプラットフォームをベースとし、駆動方式は2WD(後輪駆動)のみ。ショーファードリブンにも使われるモデルであるため、保守的な印象があるかもしれない。しかし、パワートレーンはかなり先進的だ。変速機構付きのスプリット式ハイブリッドを搭載するハイブリッド車に加え、水素を燃料とするFCEV(燃料電池車)も設定。多角的なエネルギー戦略を掲げるトヨタの未来を担うモデルという役割も持たされている。走りも最上級クラスらしい重厚で上質な乗り味を示すなど、トヨタブランドのフラッグシップであることを実感させてくれる。
新世代クラウンの魅力とは?

「いつかは」から「どう楽しむか」へ。それぞれの個性が光る4つのストーリー
クラウンの伝統を未来につなげると、そこにはクラウンセダンがある。一方、既存の価値観の外側で自分たちの新しい高級車を求める若い世代は、クラウンスポーツを選ぶだろう。そして、スポーツの価値観を家族や友人とのプライベートタイムにまで広げると、クラウンエステートに行き着く。クラウンクロスオーバーは、アスリートの立ち位置にSUV的な演出でカジュアル感を加え、ファントゥドライブ志向のドライバーズカーとしての印象を強めている。言うまでもなく、この4モデルはすべて、プレミアムな設えと余裕のある走行性能を土台としている。
かつて7代目が謳った「いつかはクラウン」は、ステータスシンボルとしての高級車をストレートに表現していた。しかし、新世代クラウンは、そのステージに到達してから「クルマをどう楽しむか」を問いかけてくる。言い換えれば、乗り手や選び手のセンスやライフスタイルの主張こそが、クラウンを選ぶ醍醐味であり価値だ。現行の4つのクラウンには、おのおのに存在感の強い4つの個性が宿っている。
ライタープロフィール
オーナードライバーに密着したクルマとクルマ社会の話題を満載した自動車専門誌として1959年1月に創刊。創刊当時の編集方針である、ユーザー密着型の自動車バイヤーズガイドという立ち位置を変えず現在も刊行を続けている。毎月デビューする数多くの新車を豊富なページ数で紹介し、充実した値引き情報とともに購入指南を行うのも月刊自家用車ならではだ。
オーナードライバーに密着したクルマとクルマ社会の話題を満載した自動車専門誌として1959年1月に創刊。創刊当時の編集方針である、ユーザー密着型の自動車バイヤーズガイドという立ち位置を変えず現在も刊行を続けている。毎月デビューする数多くの新車を豊富なページ数で紹介し、充実した値引き情報とともに購入指南を行うのも月刊自家用車ならではだ。