新車試乗レポート
更新日:2025.10.11 / 掲載日:2025.10.11
【ID.Buzz】可愛い顔して中身は質実剛健【九島辰也】【フォルクスワーゲン】

文●九島辰也 写真●ユニット・コンパス
VWの新型車ID.Buzz(アイディーバズ)のステアリングをようやく握ることができた。発表から随分経ってしまったが、乗る機会がなかったのが事実。このクルマに関しては親しみがあるだけに楽しみにしていた。
ルックスはかつてのタイプ2似だが……

親しみがあるのはかつて空冷VWの専門誌に長く携わっていたから。しかも2000年代初頭は空前のタイプ2ブーム。王道ビートルを彷彿するほど人気を集めていた。中心になったのは初期型で“金太郎マスク”と“サファリウィンドウ”がアイコンになっていた。当時、何度かショップのクルマを運転させてもらったことがあるが、そのシンプルかつ合理的なつくりにはいつも感心したモンである。
その現代版として生まれただけにID.Buzzへの期待は膨らんだのだが、正直それとは別モノだった。室内空間のつくりはT4以降のトランスポーターで、全体的にT5やT6に近い。そのエクステリアを初代タイプ2(T1)に化粧した感じだ。

そんなID.Buzzの概要だが、このクルマは言わずもがなのBEVで、内燃機関を搭載しない。リチウムイオンバッテリーを床下に敷き詰めリアアクスルを駆動させる。RWDという面ではT1と同じだ。グレードは2つで、ProのノーマルホイールベースとProのロングホイールベースという設定。前者が84kWh、後者が91kWhの駆動用バッテリーを搭載する。マックスパワーはどちらも286psで、最大トルクは560Nmを発生させる。電力量の違いは車両重量で相殺されるのだろう。標準ホイールベースが2550kgなのに対しロングホイールベースはそれ+170kgとなる。
気になる一充電あたりの走行距離は524kmと554kmで、ロングホイールベースの方が少しだけ長くなる。フロアが広く使える分バッテリーをたくさん積めるののが要因だ。とはいえ、積み過ぎは重量増加に直結するので、バランスを考えた上での量が積まれていると思われる。
では、実際に走った印象へ話を移そう。
人気のロングホイールベース仕様をチェック

お借りした試乗車はロングホイールベースであった。受注の状態からしてこちらの方が人気が高いというのが選んだ理由だ。確かにどうせこのタイプのミニバンを購入するならそれなりに容量があった方がベター。長さでいえば250mmの差だし、ロングを選んでも全長は5mを超えないのは嬉しい。全福、全高は同じで、ホイールベースがそのまま250mm伸びていることから、キャビンが広々するのは想像しやすい。今回の試乗はリアシートに座ってみたが、足元を含めスペースはかなり広く仕上がっていた。
乗り込んでまず感じたのはコクピットがシンプルなこと。センターの液晶モニターと小さなメータークラスター、それとほんの少しの物理スイッチがあるだけで、かなり簡素に思える。というのも、このクルマは商業車ユースを念頭に置いている。アッセンブリーがハノーバーの工場というのもそうだし、あちらには窓のないバンタイプも存在する。その意味ではまさにT5やT6と同じ系統だ。



20インチでも乗り心地は快適

ただ、走り出してみると乗り心地がかなりいい。フラットなところはもちろん、高速道路の繋ぎ目でバタバタすることはなく、路面のギャップをスーッとこなしていく。そこはリアサスの4リンク式サスペンションが秀逸なのだろう。意外にお金がかかっている。もしかしたらカーゴバンのリアサスはトレーリングアームかもしれないが。
それでいてタイヤが20インチなのは立派。車体が大きいから気づかなかったが、20インチでこの乗り心地は素晴らしい。ノーマルホイールベースは19インチだから、次回はその辺を乗り比べてみたい。
また、試乗は箱根のワインディングを走ったが、コーナリングもワルくなかった。というか、自然なロールの消し方は絶妙で、コーナリング中でも姿勢は常に安定している。その時のステアリングフィールもグッド。ステアリングセンターが重すぎず、しっかり感をドライバーに与えてくれる。この辺の味付けは個人的にも好みで、ゴルフにも通じる操作して楽しいフィーリングを感じ取れる。
大型BEVトランスポーターと考えれば納得

と言ったID.Buzzの価格はノーマルホイールベースが888万9000円、ロングホイールベースが997万9000円となる。プロモーションでタイプ2を強調すると高い気がするが、このサイズのBEVのトランスポーターと考えれば納得。メルセデスVクラスがこれに近いからだ。なので必要なのはそこを鑑みたマーケットとのコミュニケーション。それ次第では化ける要素がないことはない。