新車試乗レポート
更新日:2025.10.06 / 掲載日:2025.10.06
【プレリュード】誕生したことに感謝! そのうえで注文も【工藤貴宏】【ホンダ】

文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス
車両本体価格617万9800円(消費税10%込み)は高いのか?
やっと公道試乗がかなった「ホンダ・プレリュード」を富士山麓や箱根周辺で、そんなことを考えながら試乗しました。
600万円オーバーは適切な価格か?

たしかに絶対的な金額としては高い。いくら昨今は新車価格が大幅に上がっているとはいっても、600万円オーバーはさすがに高額車だ。
いっぽうで、コストのかかったハイブリッドシステムを搭載したうえで同じホンダの「シビックType R」のシャシーと共用部品が多いと聞けば、なんとなく納得できたりもする……ような気もする。ちなみにシビックType R(のうち現在オーダーできる「RACING BLACK Package」)の現在の車両価格は617万9800円。100円単位までプレリュードと同じなのが単なる偶然ではないだろう。
ただ、プレリュードと違ってハイブリッドではない(ナビもついていない)けれど車体サイズ的には同じクラスとなる「トヨタGR86」は293万6000円から361万6000円。たとえこれをハイブリッド化したとしても、400万円から450万円くらいにおさまるはず。そう考えるとGR86はとても安い。
まあ、同じくハイブリッドのスポーツモデルである「レクサスRC300h」のベースグレードが最終的に626万2000円だったことを踏まえると、プレリュードの値付けもまずまずといったところだろうか。
そんな話をすると「プレリュードといえば昔は200万円台だった」なんて言う人もいるかもしれないけれど、それに対しては「30年前はいい時代でしたね」と返事をするしかない。デートカーとして「走りは力を入れていないけれどカッコよくて価格は手頃」というポジションだったプレリュードも、今は「走りも磨き込んだハイブリッドスポーツカー」なのだから(「プレリュードっていつからそうなった?」という疑問はさておき)。
いずれにせよこのスポーツカー冬の時代にスポーツカーを送り出したこと。まずはそこに拍手をしようじゃないか。クルマ好き、スポーツカー好きとしては。
クルマとの対話が楽しめる「走りの気持ちよさ」

というわけで、やっと公道走行がかなったプレリュードである。全体の印象として声高にお伝えしたいのは「走りが気持ちいい」ということ。操縦性もパワートレインも雑味がなくてとてもスッキリしている。路面とのコンタクトやクルマとの対話を楽しむかのように運転する感覚は、まごうことなきスポーツカーだと実感する。とても爽快だ。
おもしろいのは「Honda S+ SHIFT」と呼ぶパワートレインのギミック。新しいプレリュードはハイブリッドカーで、エンジンの動力とモーターの力をミックスして使う。低中速領域はほとんどモーター駆動だから電気自動車のようにシームレスで滑らかな走りが特徴となるわけだけど、スポーツカーとして考えるとそれは滑らかすぎる。そこで考えられたのがこのギミックだ。

一般的にハイブリッドカーでは、アクセルがコントロールするのはエンジン回転数ではなくパワートレインの出力。しかしスイッチを押してHonda S+ SHIFTをオンにすると、あえて有段変速機のような「段」をつけて仮想上のシフトアップ/ダウンをおこない、アクセルでエンジン回転をコントロールする制御となるのだ。つまり、ハイブリッドではないエンジン車の運転感覚になるというわけ。
近い仕掛けはヒョンデが電気自動車でやっているけれど、それと異なるのはプレリュードでは本物のエンジンを組み合わせていること。変速機の感覚こそ“疑似”だが、エンジン回転の感覚は“本物”なのだ。
このHonda S+ SHIFTの効果は絶大で、無味無臭気味になりがちなハイブリッドのフィーリングに躍動感を与えている。運転感覚はDCT(デュアルクラッチ式トランスミッション)に近く、率直に言ってパドルを操り無駄にシフトアップ/ダウンを楽しみたくなるほど楽しい。

いっぽうでHonda S+ SHIFTを起動させなければ、これまでホンダ式ハイブリッド同様に(というかハード面はそれらと共通だから)モーター駆動主体のパワートレインらしい滑らかな走りを実現する。Honda S+ SHIFTは、スポーツカーとして運転を楽しみたいときは「オン」、デートカーとして快適性を高めたいときは「オフ」と、2つの顔を持って使い分けられるのだ。
デートカーといえば乗り心地が気になるところ。プレリュードはちょっとコツコツする感じはあるけれどスポーツモデルだと考えれば十分だ。不快さは全くない。だからオシャレなクーペ的に活用するのも大いにアリだろう。それは実際に走ってしっかり実感できた。
この快適な乗り心地は、選ぶ走行モード(「コンフォート」「GT」「スポーツ」の3パターン)によってサスペンションの硬さが変化する電子制御式減衰力調整式ダンパーのおかげで実現できている。
いいじゃないかプレリュード。値段の話はともかくとして、クルマとしての出来に関して筆者は心からそう思う。



ただ、600万円を超える商品としてみたときには「もうちょっと」と思う部分もある。たとえばシート。プレリュードのシートは完全手動調整式だが、この価格帯となれば電動シート欲しい。車両周囲を映像で確認できる360度モニターだって欲しい。
「スポーツカーにそんなのいらない!」という意見もあるだろうけれど、600万円を超えるクルマを買う人の多くはすでにそれなりのクルマを所有しているはずで、シートは電動調整だし、車両周囲を映像で確認できるのはあたりまえだろう。そういった人がプレリュードを手にしたときに「どうしてないの?」とガッカリしないことが、商品としては大切だと思う。オプションでもいいからそれらを用意すれば、プレリュードは大人の上級クーペとしてももっと魅力的になるに違いない。
そして個人的には、かつてのプレリュードの定番装備だった助手席シートの運転席側脇にある、助手席を倒すためのレバーも備えて欲しかったと思う。必要かどうかではなく、プレリュードらしさを感じさせる演出として。
昨今「クラウン」など上級セダンでは、助手席の背もたれ脇に助手席を運転席や後席から電動で操作するためのスイッチが備わっている。ホンダでも「アコード」には組み込まれているのだから、プレリュードもシートを電動化したうえでそれをつければいいと思う。
登場してくれたことを喜びつつ、あえて提言をするとすれば

というわけで、運転する気持ちよさが詰まったスポーツカーとしては高く評価できる新型プレリュード。金額を考えると使い勝手装備はもう少し充実させてほしいとも思うけれど、きっとどこかの改良のタイミングで手が入り、商品性をより高くしてくれるに違いないと信じている。
ただ、筆者が新型プレリュード対して本当に欲しいと思っているのはシビックタイプRのエンジンとトランスミッションを押し込んだ「プレリュード TypeS」。ハイブリッドと同価格で用意し、「プレリュードは先進のハイブリッドモデルと、内燃機関を極めたエンジン車が同価格で選べます」なんてグレード構成にしたら面白いと思うけれど、どうだろうか。