新車試乗レポート
更新日:2025.09.24 / 掲載日:2025.09.24
リリック、アメリカから来た美しい電気自動車【九島辰也】【キャデラック】

文●九島辰也 写真●ユニット・コンパス
今年3月、キャデラック初のBEVとなるリリックが日本でお披露目された。これまで幾度となくワールドプレミア的な情報が流れていたので、ようやくといったイメージがなくもない。直近では2023年11月のオーストラリアがそうで、そこで右ハンドルのリリックがアンベールされている。つまり、今回の日本仕様も右ハンドルということになる。
キャデラックが満を持して登場させた電気自動車

さらに言えば、リリックのプラットフォーム「アルティウム(Ultium)」は2020年に公開された。リリックはもちろん、シボレーボルトEVやハマーEVを想定した次世代BEV用プラットフォームである。
特徴は画期的なバッテリーセルの形状で、それにより大容量セルをバッテリーパック内に効率的に積み重ねることができる。GMは多額の投資を行いそれを手に入れた。要するに独自開発。
ただ開発当初とは世界情勢が異なり、ヨーロッパを中心にBEVの販売が鈍化しているのは事実だし、日本ではインフラをはじめ環境設定がそれほど進歩していない。となると、リリックの好調なスタートは見込めないが、デザインやスペックはなかなか魅力的に仕上がっているように思える。

事実、リリックを目の前にして驚いた。写真よりも数段カッコいい。全高1640mmは低めのSUVというかクロスオーバー的なのだが、ボンネットが低くトレッドが広いことからかなりスポーティに見える。フロントにエンジンを積まないことで低くできるBEVの特性をうまく利用したパッケージングだ。ラグジュアリーブランドでありながらアグレッシブな走りができそうな佇まいである。
スポーティに振ったのには理由がある。キャデラックレーシングの活動が活発になっているからだ。ご存じの方は多いと思うが、2026年から彼らはF1に参戦する。つまりブランドをレーシーな方向へ向かわせる算段である。キャデラックレーシングは2000年から3年間ル・マンに参戦した経験があるし、それ以降もアメリカ・ル・マンシリーズで戦ってきただけに期待はできるだろう。もちろんF1は“別モノ”ではあるが。
それはともかく、スポーティな中に伝統が宿っているのもキャデラック風。フロントのLEDでデザインされた縦に光るシグネチャーライトもそうだし、リアの低い位置にある縦長LEDコンビネーションライトもそうだ。こちらは1967年型エルドラドのオマージュとなるらしい。ボディサイズは全長4995×全幅1985×全高1640mm。5m内には止まるが、それなりのボリュームだ。テスラモデルXよりは若干小さめになる。

パワーユニットは前述した独自開発のバッテリーセルをモジュール化した電池で2モーターを駆動させる。前後輪に1モーターずつ配置するAWDシステムは、最高出力384kW、最大トルク610Nmを発揮する。バッテリーの容量は95.7kMh。一充電あたりの走行距離は510km(WLPT)となるから悪くない。充電は100Vまたは200Vの普通充電と日本仕様の急速充電に対応する。
キャデラックに期待する高級感を身につけている

では走らせた印象だが、乗り込んで目に入るのは33インチのアドバンスドカラーLEDディスプレイ。湾曲された画面は先進的だ。新世代キャデラックのアイコンとなりうる装備だろう。で、走り出すとやはり新世代。音もなくモーターがスーッとタイヤを駆動させる。とにかく静かだ。ロードノイズも消され、高級車としてのマナーを見せつける。
ドライブフィーリングはガソリン車に近く、大排気量エンジンを低回転で動かしているような味付け。トルクの出方は自然で、アクセルを精緻にコントロールすればピーキーな加速はしない。長く乗っているとモーターで駆動していることを忘れてしまうフィーリングだ。兎にも角にも扱いやすさが際立った。乗り心地も21インチとは思えないほど快適。バネ下が幅広く働いていて、大きな突き上げは当然のことピッチングもきれいに消してくれる。

ドライブモードのデフォルトは「ツーリングモード」で、それ以外に「スポーツモード」「スノー/アイスモード」「マイモード」がある。「スノー/アイスモード」が挙動の変化に対して早目の制御が入るので、雨の日にもより良い効果を発揮してくれるだろう。



今後もニューモデルが登場予定
といったリリックだが、来年はさらに兄弟車であるBEVのオプティックやビスティックが上陸する予定。ハイパフォーマンス版のリリックVもそうだ。つまり、今年は日本におけるキャデラックのBEV化元年。ここからキャデラックショールームの景色が変わっていく。