新車試乗レポート
更新日:2025.08.10 / 掲載日:2025.08.10
スズキ 初の電気自動車「eビターラ」 巧みな戦略とユーザー視点で磨いた完成度

スズキが初の電気自動車を公開[eビターラに込められた技術と戦略]
文と写真●ユニット・コンパス
(掲載されている内容はグー本誌2025年8月発売号「噂のクルマNEWS ニュースキャッチアップ/スズキが初の電気自動車を公開[eビターラに込められた技術と戦略]」記事の内容です)
クルマに関する気になる話題を掘り下げたり、ニューモデルの試乗記事を紹介するコーナー。最新トレンドをわかりやすく、詳しく解説します。
ユーザー目線を忘れないスズキらしい電気自動車
自動車の近未来は、市場や用途によってエンジンとモーターがグラデーションを描くマルチソリューションだと言われている。エンジンはなくならないが、電気自動車も用意する必要がある。この度スズキが発表したeビターラは、そういった状況を反映した非常にスズキらしい現実的な電気自動車だ。
eビターラのボディサイズは、スズキ車でいうところのスイフト級。そのSUVというのは、いま世界的にニーズがある。車体が小さく軽ければ、十分な航続距離を確保しても、バッテリー関連のコストを抑えられる。製造はスズキのインド工場。しかもトヨタと協業し、アーバンクルーザーとしてOEM供給する。トヨタの販売力を考えれば、スケールメリットも期待できる。
メカニズムのコアも上手に他社の力を借りている。バッテリーはBYD系メーカーから供給されるリン酸鉄リチウムイオンバッテリー。安価で安定性・安全性が高いとされている。さらにモーターを含む駆動ユニットはトヨタ系メーカーから調達。どうしてもエンジン車に対して割高になってしまう電気自動車だからこそ、協業でコストを抑えているのだ。
試乗では、初の市販電気自動車とは思えない完成度に驚かされた。いいものを安く作る。eビターラにスズキの真骨頂を見た思いだ。
[CLOSE-UP]航続距離500km級のコンパクト電気SUV

他社との協業でコスパを磨き上げる

電気自動車専用プラットフォーム「ハーテクトe」を採用。車体中央部にバッテリーを効率的に搭載する構造になっているのが従来の「ハーテクト」との違い。モーターを中心とする駆動ユニットのeアクスルは、トヨタ系のブルーイーネクサス製。バッテリーはリン酸鉄リチウムイオンで、容量は49kWhと61kWhを用意。航続距離は400kmから500kmを想定している。
独自の出力制御で走行性能は高次元

動力がエンジンからモーターに変わっただけでなく、電気自動車だからこそ実現できる価値にもこだわった。それが特に形になっているのがデュアルモーターを搭載するAWDモデルで、前後のモーターを制御することで、走行性能と安定性を高次元で両立していることが確認できた。これにはEV化による車体剛性の向上に加え、マルチリンクのリアサスペンションも貢献。世界戦略車として走りにも手を抜いていないことがわかる。
トレンドを踏まえたインテリアデザイン

水平基調のインパネに、センターディスプレイとメーターを一体化させたトレンドのデザイン。ステアリングは上端と下端をフラットにした異形デザインで、乗り降りのしやすさとメーター視認性を考えたものだという。シフト操作はセンターコンソールの上のダイヤルで行う。アクセルペダルだけで加減速が行えるワンペダルモードやドライブモードも用意されている。

現時点の電気自動車として考え抜かれた商品

現状では電気自動車のマーケットは限られている。またバッテリーのコストを吸収するため、プレミアムカーにせざるを得ない現実がある。ある意味スズキが最も苦手とするジャンルだ。その難問に対する解として、eビターラは見事だ。最近のスズキは方針と技術、双方がハイレベルだ。