新車試乗レポート
更新日:2024.10.30 / 掲載日:2024.10.30
好きなんだからしょうがない!【トヨタ ランドクルーザー 70】【九島辰也】

文●九島辰也 写真●ユニット・コンパス
ランクル70をテストドライブした。今回は一般道。市街地と高速道路を行き先を決めずに走ってみた。ステアリングを握るのは久しぶり。今年5月に愛知県にある「さなげアドベンチャーフィールド」でオフロード走行を試して以来となる。その時のことはよく覚えている。
走りはいたってオールドスクール。80年代に四駆雑誌でアルバイトをしていたが、その時代のことを思い出した。堅牢なラダーフレームと機械式デフロックとのマッチングは保守王道で、そこから生まれる走りのフィーリングはまさに“ヨンク”の醍醐味であった。
あっという間に完売してしまった新型70(ナナマル)

そんなランクル70は……と説明する前にひとつ断っておくと、かなり肩入れしている。というのも、何度か書いたことがあるが、こいつは個人的に買おうとしたモデルだからだ。昨年11月、値段が発表された日にディーラーへ元気よく足を運んだ。が、そこは御多分に洩れず秒で撃沈。買うことはもちろん、予約すら受け付けてもらえなかった。
では、その詳細だが、多くの部分は先代と変わらない。基本骨格もそうだし、エクステリアとインテリアの設や装備に大きな変更はない。目につくのは丸型ヘッドライトとグリルセンターのTOYOTAマーク。このマークはUS TOYOTAみたいで、通常のバッジより断然カッコよく見える。ハイラックスでいうところのスタンダードモデルとGRスポーツの差だ。
とはいえパワートレインは別物。先代はガソリンエンジン+MTだったが、今回は2.8リッター直4直噴ディーゼルターボ+ATの組み合わせ。最高出力は204ps(150kW)、最大トルク500Nmを発生させる。駆動方式はパートタイム4WDだ。

まるで仕事場のような無骨さ漂うインテリア

インテリアに関してはイメージ通りシンプルそのもの。化粧っ気はなく、無骨なつくりとなる。直立したダッシュボードや飾り気のないセンターコンソール、汎用品的なシフトノブや副変速機レバーの形状、エアコン操作パネルのピクトグラムは、80年代のものといっても通じるであろう。




さらにいえば、ドライバーのポジションがそう。シート座面は高く少し上から見下ろす感じになる。これはオフロード走行を軸足に置いた結果だ。この方がクルマの四隅の感覚が掴みやすいのと、路面状況を視野に入れることができる。林道でボンネットの先の感覚がつかめれば、運転は楽に感じる。ちなみに、これと同じようなポジションのクルマがある。それは初代ランドローバー・ディスカバリー。彼らはそれをコマンドポジションと呼んでいたが、個人的には「風呂屋の番台」といつも形容していた。まぁ、1989年に生まれたそのクルマは日本製オフローダーを勉強してつくられたと語られるのだから、そうなるのもわからなくはない。



ゆっくりマイペースで走りたくなる

そんなことを考えながらエンジンをかけ走り出す。視界は良好。設計が古い分各ピラーが細いので死角が少ない。これはグッドな副産物。古くてもメリットはしっかりある。
ただ、音に関してはネガティブさは拭えない。ディーゼルエンジンのアイドリングは大きく、信号待ちではキャビンにそれが侵入する。なんとなく、仕事感が強くなることだろう。ユニークなのは、その音が気にならなくなるシーンがあること。それは高速道路での走りで、そこではさらに大きな風切り音がエンジン音を消し去る。ほぼ垂直のフロントウィンドウと風洞実験を行っていないであろうドアミラー周辺の風切り音の方が一枚上手だ。
なので、高速道路はそれほどがんばって走る必要はない。エンジンも瞬間的なトルクは感じるが、グイグイ加速していくようなスペックの持ち主ではない。なので、左車線をマイペースで走ることをおすすめする。
そんな走りだが、乗り心地は悪くない。というのも足元は肉厚の16インチタイヤ。細かい振動はしょうがないとしても、大きな入力にはタイヤがそれなりにクッションになっている。なので、舗装路をずっと走っていても振動で身体が揺さぶられ疲れてしまうことはなさそうだ。

あくまでも趣味性の高いマニアックな乗り物

なんていろいろこのクルマを味わいながら走らせていると、やはり「痘痕も靨(エクボ)」になってしまう。ディーゼルエンジンのうるささや大きな風切り音も愛らしく感じさせる。「クルマの走りってのはそもそもそういうものだろう!」ってな感覚だ。ダルい加速と高速コーナーでの深いロールもそれに付随する。
つまり、このクルマは万人向けではないマニアックなもの。その意味でこいつを一般的な評価軸で語るのは無理がある。好きな人が乗ればいい! そんな言葉しか頭に浮かばない。