新車試乗レポート
更新日:2024.10.15 / 掲載日:2024.10.14
「N」の魅力はレーシングサウンド【ヒョンデ IONIQ5 N】【九島辰也】

文●九島辰也 写真●ヒョンデ
ヒョンデ(HYUNDAI)にハイパフォーマンスバージョンがあるのをご存知でしょうか? BMWにMがあるように、メルセデス・ベンツにAMGがあるように、ひとつ上のパフォーマンスを発揮するサブブランドがあるんです。その名は“N”。わかりやすいような、わかりにくいような気がしますが、慣れればしっくりくると思います。BMWの“M”だって、最初はなんだかよく理解できませんでした。
名前の由来は彼らのR&Dセンターがある韓国のナムヤンと開発テストに使ったドイツのニュルブルクリンクの頭文字だそうです。Nブランドの誕生は2015年。2017年には最初の市販車を発売しました。また、このチームはレース活動も担当しています。2018年にはWTCRのドライバー部門チャンピオンを獲得しました。これは2019年と2022年も獲得しています。2019年と2020年はWRCのコンストラクター部門総合チャンピオンにも。確かにWRCではトヨタと争っている姿をよく見ますよね。

でもって彼らはIONIQ5のNバージョンを昨年グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードでお披露目しました。今回スポットを当てるのはそれです。今年6月から日本でも発売。先日箱根のワインディングを試乗してきました。
見た目はIONIQ5をそのままカスタムした感じです。そもそもデザイン的に完成度の高いモデルですからエアロパーツやスポイラー類はつきますが、大きく手を入れていません。その辺のセンスはいいですよね。メーカーとしてはスタンダードモデルとの違いをアピールしたくなりますが、派手に仕上げたいところをグッと抑えた感じです。ただ、タイヤはピレリP ZERO。サイズは275/35ZR21ですからこのサイズのクルマとしてはオーバースペックなので目を惹きます。かなりのロープロ&大径。強者であることを隠しきれません。
パワーユニットの最高出力は478kW/650ps。スタンダードモデルが225kWですからその違いは明らかです。リチウムイオン電池の容量は84kWhで、最高速度は260km/hに到達します。
ではさっそく乗った印象に移りたいのですが、その前にスタンダードモデルのIONIQ5自体かなりよく出来ていることをお知らせしておきます。典型的な電気自動車的フィーリングやピーキーな挙動は一切なく、まるでガソリン車を走らせているような感覚です。しかも、ボディ剛性のカッチリしたドイツ車のような仕上がり。正確なステアリングとキレイな足のサバキに驚いたことを今も覚えています。

では、そのハイパフォーマンス版はどうかというと、さらに楽しくなっています。足はさらに引き締まりスポーティさが増します。聞くところによると、この足を仕上げるのに日本の道を相当な距離走ったとか。ちなみに、ヒョンデはヒュンダイと呼ばれていた時代に一度日本から撤退しましたが、その間も横浜にR&Dセンターを置いていました。主にトラックなどを扱う部署ですが、その間も日本の道を研究していたのは事実です。これが今回のIONIQ5 Nのセッティングに大きなメリットとなったと思います。最終的な味付けは本国よりも少し柔らかく、北米に近くなったそうです。

といった基本性能もそうなんですが、IONIQ5 Nの魅力は“音”に違いありません。エキゾーストサウンドがまんまレーシングカーなんです。スポーツモードにしてアクセルを踏んでいくとまるでギアがあるようにシフトアップし、ターンパイク下りのコーナー手前ではブレーキを踏むとキレイにシフトダウンする音を聴かせてくれます。歯切れの良いブリッピング音は最高。もっと言えば、アクセルオフでバックファイアも。いやはや走らせて10分後には電気自動車であることを忘れさせます。まるで、プレステで遊んでいるような感覚ですね。デジタルの扱いが上手いのかな。アバルト500eに初めて乗ったときそのサウンドに感動しましたが、正直こちらの方が上。だってあちらはレーシーなエキゾーストサウンドをアイドリングから放ちますが、シフトアップしないんです。言うなればCVTみたいな感じ。
ということで、電気自動車の世界もにわかにおもしろくなってきました。電気だからできること。走り以外にもその辺に活路はあるのかもしれません。