新車試乗レポート
更新日:2024.07.01 / 掲載日:2024.06.27

乗って、触って、新型フリードここが変わった!【工藤貴宏】

文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス、ホンダ

 ホンダの人気ミニバン「フリード」がフルモデルチェンジして3代目へ進化。まだ発売前ですが、さっそく実車に触れ、テストコースでドライブすることができたので報告しましょう。

新型フリードの「変わったところ」と「変わらなかったところ」

フリード e:HEV AIR EX

 まずフリードのポジショニングの再確認から。立ち位置は「コンパクトミニバン」です。いま国内のミニバン市場はトヨタ・アルファードなどが属する「ラージ」、トヨタ・ノア/ヴォクシーや日産セレナ、そしてホンダ・ステップワゴンなどの「ミディアム」、そして「コンパクト」の3タイプが主流。コンパクトクラスにはフリードのほかトヨタ・シエンタも存在し、直接ぶつかり合うライバル関係となっています。

 ちなみに一般的なコンパクトカーとフリードのようなコンパクトミニバンの違いは、ミニバンだと3列シートのレイアウトとなっていること。またスライドドアを備えるのも多くのコンパクトカーとの違いです。

 そんなフリードの新型について理解するには、「変えなかったこと」と「変えたことを」を知るのが近道でしょう。

フリード e:HEV AIR EX

 “変えなかったこと”の筆頭に挙げられるのは、車体のサイズ感です。ボディサイズは従来型に対して全長が45mm伸びた4310mm、全幅は25mmプラスの1720mm。全幅が1700mmを超えたことでついに3ナンバー化されましたが、コンパクトなボディであることに変わりはありません。フリードの魅力はやっぱり「3列シートで多人数乗車できるのに、車体は小さくて運転しやすい」ということですが、そこはしっかり継承されているのです。

 いっぽうで“変えたこと”は、まずはデザイン。そしてハイブリッドシステムです。新型に搭載しているハイブリッドはフィットやヴェゼルなどホンダ車に幅広く採用されている「e:HEV(イー・エイチ・イー・ブイ)」と呼ぶシステムで、日常領域ではモーターを主体とするもの。高速領域ではエンジンの動力を直接駆動力とするモードも使いますが、日常域ではエンジンを発電機として使い、そこで起した電気を使ってモーターを回して駆動力とするもので、モーターがメインなのです。

 ちなみに従来型のハイブリッドシステムは、あくまでエンジンがメインでモーターはサポートに徹していました。つまり新型のハイブリッドはエンジンとモーターの主従関係が逆転したといっていいでしょう。

フリード e:HEV AIR EX

 変えたことはさらにあります。たとえば快適性の向上。2列目シートのひざ回りスペースは3cmほど拡大し、また3列目は窓を大きくして解放感をアップ。フリードの2列目や3列目はステップワゴンなどに比べるとスペースに制約があるのは否めませんが、そんななかでも最大限の快適性を追求したのです。

 快適性といえば、夏の快適性をアップする新アイテムとしてリヤクーラーを新たに搭載。コンパクトミニバンのウィークポイントのひとつが真夏に後席が熱くなることでしたが、それの解消に飛び道具を用意したのです。ガチンコライバルであるトヨタ・シエンタにリヤクーラーの設定はなく送風機能のサーキュレーターに留まるので、大きなアドバンテージと言って間違いありません。

 また、3列目シートを折りたたむ構造の改良も注目すべき部分。左右跳ね上げ式であることに変わりはありませんが、跳ね上げた位置を下げることで窓がふさがれる量を減らしつつ、背の低い人でも上げ下げがスムーズにできるように配慮。また畳んだシート間の左右方向の間隔が従来モデルに対して160mmも拡大し、積める荷物の量が増えたのも見逃せません。

フリード e:HEV AIR EX

2列シート5人乗りを選べるのは「CROSSTAR」だけ

フリード e:HEV CROSSTAR

 そんな新型フリードシリーズのラインナップは、「AIR(エア)」と「CROSSTAR(クロスター)」の2つの柱で展開。「CROSSTAR」は従来型でも展開していたアクティブな雰囲気のモデルですが、「AIR」は新型で初登場。……なのですが、実はステップワゴンでも展開している名称。「標準仕様」につけたネーミングと言ったほうがわかりやすいかもしれません。デザインはシンプルです。

フリード e:HEV CROSSTAR

 スタイリングは好み次第ですが、ちょっと注意が必要なのはスタイリングとシート配列の関係。新型フリードのシー トレイアウトは“3列シートの6人乗り(2列目セパレートシート)” “3列シートの7人乗り(2列目ベンチシート)”、そして“2列シートの5人乗り(2列目ベンチシート)”を用意していますが、そのうち“5人乗り(2列シート)”を選べるのは「CROSSTAR」だけなのです。

フリード e:HEV CROSSTAR

 といっても「3列シートが選べるなら問題ない」という人がほとんどかもしれませんが、実は5人乗りだけのアドバンテージもあるのです。それは広い荷室。実は2列シート車の荷室は3列モデルよりも床が低く、その床を活用してより多くの荷物を積めるようになっているのです。標準装備する可動式のボードを使い、荷室を上下分割して立体的に使うことだってできるのだから、魅力的じゃないですか?

 そのうえ2列車は2列目(シート構造や畳み方が3列車の2列目ベンチシートとは異なる)を倒し、可動式ボードを活用して1列目以降をダブルベッドに近いサイズのフラットな床にすることだって可能。つまり車中泊派にもピッタリというわけです。

フリード e:HEV CROSSTAR(2列シート)

 それが「AIR」で選べないのはちょっと悩ましい気がするのは、筆者だけでしょうかね。

フリード e:HEV CROSSTAR スロープ

 また、2列シート車の発展版として「CROSSTARスロープ」という仕様も用意。なんと荷室と地面の段差をなくすスロープがついているのです。こういったモデルは従来であれば「車いす仕様車」とするのが一般的でしたが、新型では自転車やアウトドアで使うキャリーワゴンに荷物を載せたまま畳まずに積んだりと幅広く活用することを提案。アウトドアが趣味の人にとってはこういう選択もありですね。ペットを飼っている人がペットバギーを畳むことなくそのまま載せるのもいいかもしれません。

新型フリードに乗って感じた3つのポイント

フリード AIR EX

 さて、今回はそんな新型フリードの発売に先駆けて一足はやくテストコースで試乗してきました。そこで感じたポイントを3つ紹介しましょう。

 ひとつめは、前方視界&斜め前方視界と開放感が高まったこと。実は従来型と新型を比べると、前方が開けて開放的になりました。大きな理由はメーター配置。従来はダッシュボードの上にあったメーターが新型ではダッシュボードの中に埋め込まれ、ドライバーの前方がスッキリしたのです。おかげで視界が開けて、解放感も高まりました。

 そして斜め前方は、Aピラーの配置が大きく変化。従来はAピラーの後方に補助的なAピラーがあり、結構太くて存在感があったのですが、新型では位置が後方(ドア付け)となり細くなったことで、気にならなくなったのです。それは解放感だけでなく斜め前方の死角を減らして視界の拡大にも貢献する進化なので、たとえば交差点を曲がる際に歩行者を見やすくなるなど安全上も多くのメリットがあるのです。ますます運転しやすいクルマになりましたね。

 ふたつめは静粛性。新型は走行中の騒音が静かになって、たとえば1列目と3列目でも普通に会話できるのにはちょっとびっくり。ハイブリッドモデルでは日常領域でモーター走行がメインとなり、エンジンがかかる頻度が下がったことでエンジン音が気になるシーンがグッと減ったことを実感しました。

 また「Bレンジ(従来はLレンジ)」に入れてアクセルオフで減速する際、従来は「ゴーッ」っとエンジン音が急激に高まる大きな音を発生したのですが、新型のハイブリッドはその音が全くしません。理由は、これまでエンジンブレーキで発生させていた「Bレンジ/Lレンジ」でのアクセルオフによる減速を、新型ではエンジン回転を高めることなくモーターによる回生ブレーキとしたからです。これは、燃費の向上にも効いてくるでしょう(回生ブレーキは減速時のエネルギーを回収できるが、エンジンブレーキはエネルギーを捨てている)。

フリード e:HEV AIR EX

 もうひとつはハイブリッド走行の滑らかさと力強さ。モーター走行中心のハイブリッドへとシステムが刷新されたことで、日常領域での走りはスムーズかつパワフル。明らかに余裕があり、まるで排気量が大きなエンジンを積んでいるような感覚です。

 ハイブリッドといえば燃費のためというイメージがありますが、フリードでは滑らかさや快適性、そして動力性能のゆとりのためにハイブリッドを選びたいとテストドライブ後の筆者は思いました。

フリード AIR EX

 いっぽうでガソリン車は「単に安い仕様」と思うかもしれませんが、こちらは軽快な走りが魅力。ハイブリッドに対して約100kg軽い車両重量だけでなく、あえて身のこなしの良さを強調する味付けのハンドリングもあって運転する楽しさでも魅力的でした。

ライバルとの違いは?

 そんなフリードをライバルのシエンタと比べると、実はシートレイアウト(フリードは2列目セパレートシートがあるけれどシエンタにはない)や3列目格納方法(フリードは左右跳ね上げ式でシエンタは床下格納式)など実用面でも明確に異なる部分も意外に多かったりします。購入の際は、それらを比較しながら選んでみると堅実なコンパクトミニバン選びになりそうです。

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工藤貴宏(くどう たかひろ)

ライタープロフィール

工藤貴宏(くどう たかひろ)

学生時代のアルバイトから数えると、自動車メディア歴が四半世紀を超えるスポーツカー好きの自動車ライター。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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