新車試乗レポート
更新日:2023.10.21 / 掲載日:2023.10.21
VWと「R」の関係を考える【九島辰也】

文●九島辰也 写真●フォルクスワーゲン
今年7月VW(フォルクスワーゲン)からゴルフR 20 Years(トゥエンティーイヤーズ)というモデルが発売されたのをご存知でしょうか。その名の通りゴルフRシリーズの日本導入20周年を記念した特別仕様車となります。マニアックなモデルだけにこのニュースをスルーした方は多くいらっしゃると思いますが、クルマ好きの観点からすれば触手が伸びる一台です。

そもそもゴルフRシリーズのスタートは4世代目のゴルフをベースに仕上げられました。3.2リッターV6エンジンをフロントにマウントした4MOTIONとなります。いわゆる“四駆”ですね。自動車雑誌編集部員だった当時このクルマには驚かされたのを覚えています。なんたって3.2リッターはゴルフにとって大排気量ですからかなりフロントヘビーになると思われました。がしかし、走らせるとそれがちゃんとバランス良く出来ていて、よく曲がります。俗に言う“直線番長”ではなく、ヨーロッパ車らしいコーナリングの楽しいクルマだったんですね。

そんなV6エンジン搭載の初代ゴルフRが2002年だったことからドイツではこのゴルフR 20 Yearsは昨年販売されました。20年目ですからそうなります。ですが、日本でのゴルフRは2003年1月だったことから2023年の今年20周年と言うことで導入されたようです。変なところ律儀ですよね。ちなみに、R 20 Yearsの最高出力は333ps。パワーソースはもちろん2リッター直4ターボとなります。同エンジンを搭載したベースモデルのゴルフRが320psですから13ps馬力アップしています。装備だけにとどまらず細かいところにも手が入っていると言うことですね。でもどうせなら20周年なので20psアップにすればよかったのに。

なぜこんな話をするかというと、先日VWからT-ROC Rをお借りしたからです。昨年T-ROCのマイナーチェンジの機会に、日本での販売が開始されました。エンジンは2リッター直4ターボで最高出力は300ps、ギアボックスは7速DSG、駆動方式はもちろん4MOTIONとなります。スタンダードモデルが150psですからパワーはまさに2倍。T-ROCの可愛らしい見かけからは想像できない数字と言っていいでしょう。
T-ROC Rをあらためて乗った理由は特にありませんが、日々気になっていたのは確かです。街中でT-ROCを見るたび、リアのエンブレムやホイールサイズをチェックしていました。まぁ、さすがにスタンダードモデルに比べてRを目にする機会は相当少ないですがね。運よく見つけると、四つ葉のクローバーでも探し当てたような気になります。
それじゃなぜRは少ないのかというと、そもそもVWにそれを求める人は少ない気がします。ゴルフRやかつてのシロッコRのようにスポーティな走りと結びつくモデルは別として、それ以外はイメージが湧かないのではないでしょうか。もちろん、見た目はスポーティでカッコよくなるので、Rラインのようなお化粧で満足できちゃうと言う意見もあるでしょう。そもそもVWの走りは定評ありますから。大きくないパワーであってもハンドリングを楽しめるのがVWの魅力です。

おもしろいのはこれがBMWになるとガラッと変わることです。BMW好きの多くがMに憧れますし、Mスポーツへのこだわりも強くなります。90年代のM3あたりはもはや神ですね。ワタクシも2000年代初頭Z3ベースのMロードスターに乗っていましたが、けっこう羨望の眼差しを集めました。それくらいMに対する憧れは強かったと思いますし、今もそうだと感じています。
それと比べると、やはりカスタマーはVWにそこまでスポーティさを求めていないのは確かでしょう。残念ながらT-ROC Rを街中で走らせて視線を感じたことはありませんでした。ゴルフRは絶対的に必要ですが、T-ROCとティグアンにRは不要かもですね。それよりアルテオンにRがあってもいい気がします。走りもそうですし、あのカッコいいスタイリングがよりクールになるでしょう。日本は確かRラインまでだったかな。ドイツ本国にはアルテオンRがラインナップされていたような……。
なんてR話は内燃機関搭載モデル限定ですが、ID.4のRってどうなっているんでしょう。ID.4にもRがラインナップされる話を以前海外の記事で読んだ気がします。ハイパワーBEVも珍しくなくなってきましたから、そんなアナウンスがもうすぐ聞けるかもしれません。それにしてもゴルフR 20 Yearsはカッコいいなぁ。