新車試乗レポート
更新日:2022.12.28 / 掲載日:2022.12.21

【アウディ Q4 e-tron】ユーザーが求めるアウディらしさをEVで表現した

文●大音安弘 写真●ユニット・コンパス

 今秋よりアウディのコンパクトSUVタイプとなる新EV「Q4 e-tron」が、正式販売が開始された。

 年始の導入発表以降、予約受注が開始されており、既に2000台以上のバックオーダーを抱えるというから、その船出は好調といって良いだろう。

 現在、アウディは、「e-tron」シリーズと名付けたEVを展開しているが、これまではフラッグシップモデルのみ。アウディが普及型と位置付けるモデルは、この「Q4 e-tron」が初となる。さらにアウディは、電動車シフトを表明しており、その流れを示すべく、既存のモデルラインに組み込んだ。つまり、SUVラインの「Q3」と「Q5」の間に位置するモデルとして位置付けている。

ガソリン時代のアウディと変わらないオーソドックスなスタイリング

Q4 e-tron

 Q4 e-tronの最大の魅力は、アウディらしいことだろう。

 フラッグシップモデルとなる4ドアクーペ「e-tron GT」やSUV「e-tron」は、EVであることの強調する内外装を与えた。もちろん、Q4 e-tronも、ショートノーズ&ロングホイールベースというEVプラットフォームらしいスタイルとなっているが、クルマに詳しくない人は、このクルマがEVだとは気が付かないだろう。何よりも「アウディ」であることを優先してデザインしたと感じられる。当たり前の事に思えるが、オーナーにとっては、EVに乗っていることよりもアウディに載っていることが大切。だから、アウディネスを追求するのは、非常に大切なことなのだ。

 出だしの良さのもうひとつの理由は、価格。

 エントリーは、599万円と上級EVとして注目を集めるSUVタイプの国産EVとも競合できるプライスを掲げたことで、多くの関心を集めたのは間違いない。もちろん、実質的な価格帯は、より装備を強化した仕様なので、600万円後半から700万円前半となるが、上位のe-tronシリーズよりも、圧倒的に安い上、価格帯も、ほぼQ3とQ5の間に収めているので、アウディの顧客にとっても、選びやすいものとなっている。

 スタイリングは、かなり躍動感に溢れており、スポーティ。アウディファンだけでなく、スポーティなSUVを好む層が受け入れやすいデザインだ。そして、繰り返しとなるが、一目でアウディと理解できる。

 フロントグリルは、エンジンを持たないため、ダクトレス仕様となるが、デザインパターンが表面に施されているので、他のQシリーズと似た雰囲気になっている。

 ボディ形状は、スタンダードSUVとクーペSUV「スポーツバック」のふたつを用意。ボディサイズは、全長4590mm×全幅1865mmは全車共通。全高は、ボディ形状と足回りで異なるが、全高は、1630mm~1600mmに収まるので、大きな差はない。2765mmのロングホイールベースも共通だ。

EV化の恩恵を感じるのは後席スペースが広くなったこと

Q4 e-tron

 コクピットに目を移すと、こちらもEVを意識させる演出は薄め。ドライバーズシートを中心としたスポーティなデザインに仕上がられている。

 特徴的なのは、フローティング構造のセンターコンソールだが、前後操作のシフトレバーなど、操作性もエンジン車に近い。EVを意識させるのは、常に静かな事と、デジタルメーターの表示に、タコメーターが無く、パワーフローメーターや航続距離、電池残量が表示されることくらいだ。

 EV化の恩恵が強く反映されるのは、サイズに対して、後席が広くなったことだ。足元はフラットとなり、ロングホイールベース化で、前席との間のゆとりも増している。ラゲッジスペースも、EVの影響はなく、標準で520Lを確保。驚くべきは、スポーツバックの方が、より広い535Lを確保していることだ。ボディサイズは、Q3に近いのに、車内の広さは、Q5に迫る。このように実用性も高いEVに仕上げられている。

 室内とラゲッジスペースの広くできた秘密は、EV専用プラットフォーム「MEB」の採用にある。

 EVに特化した最適なレイアウトを行っているので、効率良くシステムを収めることが出来るのだ。因みに、同プラットフォームでVWは、同じくEVのSUV「ID.4」を開発している。パワーユニットである電気モーターは、後輪側にセットされ、後輪のみを駆動する。そう、Q4は、アウディとしては珍しい後輪駆動車なのだ。後輪駆動を採用する現行型の他モデルは、スーパーカー「R8」だけだ。

 モーター性能は、最高出力150kW、最大トルク310Nmを発揮。フロア下に82kWhの駆動用バッテリーを搭載し、航続距離は594km(WLTC)と公表される。全グレードで、モーター性能や電池容量、航続距離は共通だ。充電性能は、200V普通充電が、3kWに対応。オプションで最大8kWまで強化することも可能。出先で重宝する急速充電は、最大94kW(CHAdeMO規格)まで対応している。

ガソリン車から乗り換えても違和感を感じない乗り味

Q4 e-tron

 Q4 e-tronから運転操作に、新たな演出が加わった。それはスタートボタンの操作を行わずとも、着座してブレーキペダルを踏み込めば、スタンバイモードとなること。

 シフトを「D」にすれば、そのまま発進できる。また「P」と「パーキングブレーキ」操作が連動しているため、「P」ボタンが廃止され、停車時は、「パーキングブレーキボタン」のみの操作でオフモードとなり、そのまま降車することができる。つまり、EVのメリットを運転に必要な動作の簡略化を図っているのだ。

 走りについては、新たなアウディチューンが施される。上位のe-tronシリーズは、電動車感を高めるべく、アクセルレスポンスに直結感を与えていたが、Q4では、少しエンジン車のような良い意味で溜めを与えている。だから、ガソリン車と変らないアクセル操作を可能とする。

 もちろん、モーターの発進時からの最大トルクを発揮できる強みを活かす事も忘れておらず、EVらしい俊足も持ちあわせる。このマイルドになりすぎないスポーティさも持ち合わせた出力チューニングは、次世代アウディ車の味となっていくのだろう。さらにQ4 e-tronより回生ブレーキも、パドルシフトにより調整可能な減速力が強まっており、ダウンシフト的な使い方もできるようになったのも朗報だ。

 そして、高速巡行時は、空力特性の磨き上げと遮音対策により、静粛性は極めて高い。この辺は、他のアウディ譲りのプレミアムな世界だ。ただ静かすぎる感もあるので、ラジオや音楽を聴く時間は増えそうだ。

 また試乗車は、Sラインであり、標準の19インチよりもさらに大きい20インチホイールを装備していたが、乗り心地は快適そのもの。さらにハンドリングもスポーティで走行安定性も高い。これは最新のEV専用プラットフォームがもたらす良い影響だ。基本的には好印象であり、簡単に表現するならば、クルマ好きが乗っても、満足できる走りを実現している。個人的には、同じSUVでも、フラッグシップモデルのe-tronよりも、断然、Q4 e-tronの方が好みだ。

まとめ

 アウディは、2025年に最後となるエンジン車の新型モデルを投入し、2026年以降の新型車は、全てEVとすることを明言している。Q4 e-tronの登場は、その未来の布石となるものだ。

 我々がイメージするアウディらしさは、EVでも表現可能なことを示せたのは確かだ。特にQ4 e-tronスポーツバックは、スタイルと内容の両面で、アウディファンを虜にしてきた先進感が上手に表現されている。これまでも時代の先を行く先進感でファンを増やしてきたアウディだけに、Q4 e-tronは、その将来を占う一台となりそうだ。

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大音安弘(おおと やすひろ)

ライタープロフィール

大音安弘(おおと やすひろ)

1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。

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1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。

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