輸入車
更新日:2025.11.18 / 掲載日:2025.11.18

【ロールス・ロイス】アートピースになったファントム【九島辰也】

文●九島辰也 写真●ロールス・ロイス

 ご承知のとおり、自動車メディアの仕事をしているとかなりの数のクルマに触れます。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を長年つとめていることもあり、毎年リリースされる新型車はほとんど。軽自動車もそうですし、スーパーカーもそうです。

 ただ、正直縁遠いクルマ(ブランド)もなくはありません。その筆頭は今回のロールス・ロイス。年に一度も試乗する機会のないこともあります。

 それでも印象的なモデルはあります。ドーン(Dawn)です。「朝焼け」と名付けられたそれは2ドアのオープントップモデル。ロールス・ロイスのラインアップの中ではプライベート感の強い1台となります。それを南アフリカのケープタウンで走らせたのだから忘れるわけがありません。トップを開けて気持ちよく大西洋沿いの海岸線を走りました。2015年頃だったと思います。

 でも、それよりインパクトが大きかった出来事があります。それはBMWが買収した後に誕生したファントム。今から20年くらい前だったと思います。場所は那須。山間のワインディングを本社スタッフを助手席に乗せて駆け抜けました。かなりアグレッシブに走れと言う指示のもと。きっとBMWテクノロジーを体験させたかったのでしょう。大きな4ドアサルーンが小気味よく向きを変えていく感覚を今も覚えています。

 しかも、その時のオーディオから流れていた選曲が良かった。コールドプレイ(Coldplay)のクロックス(Clocks)。それを本社スタッフがボリュームを上げてガンガンに響かせてくれました。その様子はまるでロンドンの若手起業家がITでボロ儲けしてロールス・ロイスをスポーツカーのように走らせているといった感じ。当時の世相を感じます。

 先日そんなファントムの100周年を称えるイベントが東京で行われました。初代は1925年デビューってことですね。戦前のモデルです。それを起点にそこから今日のシリーズ8まで進化してきました。

ロールス・ロイス センテナリー

 イベントのメインは100年を祝ってつくられた世界限定25台のプライベート・コレクション「ファントム・センテナリー」です。3年にわたる開発期間を経て、4万時間以上の作業が行われたそうです。なんたってロールス・ロイスは素材から開発していますから。ゴールド、ウッド、レザー、ファブリック、それと塗装と刺繍がスペシャルなんです。展示車の細部には24金が輝いていたくらい。

 まぁ、ロールス・ロイスはほとんどがビスポークですから、こうした光景は驚きはしません。素材開発は日々行われていると思われます。その意味では、その集大成がこのクルマということです。

 会場ではこの他に、ファントム・シンティラ、ファントム・オリベ、ファントム2コンチネンタルが飾られました。

ロールス・ロイス オリベ

 その中でユニークなのはオリベでしょうか。ロールス・ロイスとエルメスがコラボしたモデルで、前澤友作氏のためにつくられました。両社のビスポーク部門のデザイナーや職人が結集したというのですから楽しそう。プロフェッショナル同士のやり取りには興味があります。

ロールス・ロイス オリベ

 ただ、個人的には違和感があります。なぜならこれまでロールス・ロイスは他ブランドとあまりコラボはしてこなかったからです。彼らが持ち出すテーマは、自然環境や宇宙に関するもの、それとアール・ヌーヴォーのような時代です。一つのブランドよりももっと壮大なものにインスパイアされてきました。

 それはともかく、ロールス・ロイスはやはり他のカーブランドとは違うステージにいる気がします。飾られたクルマを眺めているだけでアート作品を干渉しているような感覚になるからです。フェラーリに代表されるイタリアのスーパーカーならわかります。流れるようなフォルムに魅了された人はたくさんいらっしゃいます。「見ているだけでお酒が進む」、みたいな言葉を口にしながら鑑賞する人たちです。

 でも考えてください。ロールス・ロイス・ファントムは4ドアサルーン。巨大な四角いフォルムをしています。決してエキゾチックなものではありません。ですが、アート作品に見えるから不思議。このオーラはすごい。やはりベントレーやマイバッハとも大きく異なりますね。唯一無二の存在とはきっとこういうものを言うのでしょう。お見事です。

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九島辰也(くしま たつや)

ライタープロフィール

九島辰也(くしま たつや)

外資系広告会社から転身、自動車雑誌業界へ。「Car EX(世界文化社 刊)」副編集長、「アメリカンSUV(エイ出版社 刊)」編集長などを経験しフリーランスへ。その後メンズ誌「LEON(主婦と生活社 刊)」副編集長なども経験する。現在はモータージャーナリスト活動を中心に、ファッション、旅、サーフィンといった分野のコラムなどを執筆。また、クリエイティブプロデューサーとしても様々な商品にも関わっている。趣味はサーフィンとゴルフの”サーフ&ターフ”。 東京・自由が丘出身。

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外資系広告会社から転身、自動車雑誌業界へ。「Car EX(世界文化社 刊)」副編集長、「アメリカンSUV(エイ出版社 刊)」編集長などを経験しフリーランスへ。その後メンズ誌「LEON(主婦と生活社 刊)」副編集長なども経験する。現在はモータージャーナリスト活動を中心に、ファッション、旅、サーフィンといった分野のコラムなどを執筆。また、クリエイティブプロデューサーとしても様々な商品にも関わっている。趣味はサーフィンとゴルフの”サーフ&ターフ”。 東京・自由が丘出身。

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