輸入車
更新日:2024.07.29 / 掲載日:2024.07.27
ショールームが物語るブランド価値【九島辰也】

文⚫️九島辰也 写真●マセラティ、ロールス・ロイス
カーメーカーにはそれぞれブランドがあります。トヨタ自動車にはトヨタとレクサスがあり、日産自動車にはニッサンとインフィニティがあるように。メルセデス・ベンツもそう。同名のブランドの他に、メルセデス・AMGやメルセデス・マイバッハなんかがあります。かつてはAMGもマイバッハも別物でしたが、今はそんな使われ方をしています。この業界、いろいろ変わるのが常です。
これらのブランドにはそれぞれCI(コーポレート・アイデンティティ)があります。ブランドのマークやイメージカラーを取りいれたものです。けっこう細かく決められているので、扱いは慎重に行わなければなりません。CIのルールに則って物事を進めないとメーカーの知的財産部からお叱りを受けるかも。特に海外ブランドはより厳格なイメージがあります。まぁ、そういうこだわりがブランドの価値を持続させていくのでしょうね。
そうして守られるCIで構築されているのがディーラーです。単なる新車を展示するショールームではなく、箱物全体がブランドの目印となります。一目で見て、どのブランドかわかるようなつくりが理想的でしょう。

先日、リニューアルしたばかりの「ロールス・ロイス・モーター・カーズ東京」に行ってきました。新ビジュアル・アイデンティティに基づいて装いを新しくしたロールス・ロイスのショールームです。場所は東京・紀尾井町。ホテルニューオータニガーデンコートの一階になります。麹町や市ヶ谷に近いのはイメージがいいでしょう。知ってますか? 麹町や市ヶ谷は第一次“山の手”と呼ばれていることを。骨太なお金持ちのエリアとなります。
彼らの表現する新ビジュアル・アイデンティティは強烈です。入口のドアがキラキラしています。モチーフにしたのは、なんとクルマの象徴であるパンテオングリル。それが開くと、目の前にロールス・ロイスの世界観が広がります。
内装はコンテンポラリーラグジュアリーを表現します。つまり、保守王道のクラシックではなく、現代的なデザイン。世界のラグジュアリーブランドのトレンドはここ数年そこです。毛足の長い絨毯や大理石のマントルピースはありません。


キモは充実したビスポークエリアでしょう。そこには、クルマに使われるウッドパネル、レザー、刺繍糸、ラムウールやテキスタイルのサンプルが並びます。インテリアのレザーサンプルは、ロールス・ロイスの象徴とも言える傘の持ち手をあしらったバーに巻かれます。うん、いい感じ。おしゃれな演出です。


ちなみにここを運営するのはコーンズ・モータース。1964年の自動車事業スタートから60年間ロールス・ロイスを販売してきたそうです。なるほど。2つの会社が強いパートナーシップで結ばれているのが想像できます。というか、日本におけるロールス・ロイスにコーンズは切っても切れない間柄ということでしょう。
紀尾井町の新しいショールームでそんなプレゼンテーションを聞いた日の午後は「マセラティ 目黒」へ行きました。ここはマセラティの新グローバル・コンセプトを採用した日本一号店だそうです。

新グローバルストアコンセプトは、ニューヨークを拠点とする“エイト”との協業で生まれました。表現するのはイタリアのサルトリア(仕立て屋)とオフィチーナ(工房)。まさにイタリアを代表するコンテンツがそこにあります。きっとスーツを仕立てるようにクルマをビスポークするってことでしょう。



ショールーム内は照明を落としてアートギャラリー風に演出されていました。スポットライトが当たるクルマはまさにアート作品。MC20以降のモデルはその世界観にハマりそうですね。ショールームに置かれたモダンファニチャーとの相性もよさそうです。
ということで、近頃この辺のクラスのブランドが積極的にリニューアルを進めています。きっとそこへの投資がブランド価値を高め、クルマの販売に直接的につながるのでしょう。確かに、クルマだけ最新型でも飾っている場所がダサかったらひきますよね。つまり、ショールームはブランド側にとっても大切なコミニュケーションツールということです。まぁ、取材以外なかなか足を踏み入れる機会はありませんが、こういう世界を知ることも勉強ですね。いつか来る華やかな未来を信じて、ショールーム取材も続けように思いました。