輸入車
更新日:2024.07.06 / 掲載日:2024.07.06
500万円で買える電気セダンの実力は?【九島辰也】

文●九島辰也 写真●BYD
BYD(ビーワイディー)というカーメーカーをご存知ですか? 中国のBEV専門の会社です。長澤まさみさんがテレビCMに出演していて話題になりました。同じ東アジアでもHYUNDAI(ヒョンデ)との違いは国もそうですが、BEV専門と言うのがポイントになります。そもそもはバッテリー製造の会社で、2020年にはトヨタと合弁会社を中国で設立していました。その経験がきっとクルマつくりの礎になっているのかもしれません。
そんなBYDの新型車に乗りました。SEAL(シール)です。これは“アザラシ”のことでしょう。その前のモデルがドルフィンでしたから海獣シリーズです。よってデザインにも海をモチーフにした仕掛けがいくつか見受けられます。

そのデザインを担当したのはヨーロッパでメジャーなモデルをいくつも手がけてきたヴォルフガング・エッガー氏。ドイツ人ですがイタリアの大学でデザインを勉強しアルファロメオでキャリアをスタートさせました。その後、セアト、ランチア、アウディ、ランボルギーニ、イタルデザインなどで腕を磨いてきた人物です。ワルター・デ・シルヴァ氏のもとではかなり活躍したことでしょう。アウディのデザインが一気によくなった時代のデザインチームの主要メンバーです。
そんなことが関係するのか、デザインの印象はグッド。セダンですがシュッとしていてスタイリッシュに仕上げています。BEVなのでグリルレスですが、ヘッドライトとバンパーの形状でうまい具合にキャラを印象付けています。鼻先にBYDのエンブレムをあしらったのもいいですね。RANGE ROVER以外ではあまり使わない手法です。
このBYDの社名は“Build Your Dream”というメッセージというかスローガンから付けられたそうです。その辺は後付けかもしれませんが、グローバルブランドに育てていく意味では悪くありません。欧米での印象はいいはずです。
ステアリングを握ったSEALには2つのグレードあります。ベースモデルはリアにモーターを積んだSEAL、それとフロントにもモーターを積むSEAL AWDです。要するにRWDとAWD。ベースがFWDではなくリア駆動と言うのが少しおもしろいですね。“走り”の面でそうしたのかパッケージング的な優位性でそうしたのかわかりませんが、走りにはいい結果になっていると思われます。トルクステアのない素直なハンドリングでした。フロントにメインモーターを積むとどうしてもトルクステアが発生しますが、それがありません。思いのほか上品な走りでした。

乗り心地も良かったです。フロントはダブルウィッシュボーン、リアは5リンクとそれなりにコストをかけていますし、油圧可変ダンパーが効いています。これはセンサーで反応する電子制御式ではなく入力に対して油圧が変化するシンプルな機構ですが、セッティングが日本の道に合っているのでしょう。セダンとしての上質感がありました。タイヤはコンチネンタルのエココンタクト6Qで前後ともサイズは235/45R19。エコタイヤとしての性能もそうですが、静粛性にこだわったタイヤです。
それにしてもSUV全盛のこのタイミングでセダンを出すのはチャレンジだと思います。個人的にはSUVに飽きているのでセダンを応援していますが、今も多くの方がSUVメインでのクルマ選びをしています。ただ、Dセグメントのセダンを要望する声は一定数あると考えられます。フォーマルな印象がありますから、冠婚葬祭用にセダンを指名する層は少なくないでしょう。
そして何よりもこのクルマの目玉は値段。ベースモデルSEALの導入記念キャンペーン価格は495万円。それに補助金を加えると大きく500万円を切ります。Dセグメントのセダンと考えればこれは魅力的。もちろんBEVなので充電環境とかいろいろ条件はありますけどね。そこをクリアすればショッピングリストに入れていいかもしれません。ディーラーも増えているようなのでそこはポジティブに受け止めましょう。目新しいブランドなので買ってからのことを考えれば、対面が安心です。特に我々昭和世代としては。
と言うのがSEALの初見。以前乗ったドルフィンよりもクオリティは高まりました。その意味では今後の成長が楽しみですが、BEV専門は日本ではネックかもですね。過渡期なのでなんとも言えませんが、まだまだその動向を見守る必要はありそうです。