新型車比較・ライバル車対決
更新日:2024.05.22 / 掲載日:2024.05.22
ホンダ・ZR-V大研究 〜見どころ&ライバル対決〜
ホンダの躍進を支えるクルマとして、やはりSUVの人気モデルは外すことができない。特に昨年から今年にかけてデビューした「WR-V」と「ZR-V」は、ホンダらしい小気味の良い走りが楽しめることもあって、かなりの人気を集めている。ここではZR-Vの魅力に迫ってみたい。
●文:川島茂夫
HONDA ZR-V 見どころチェック


主要諸元(ZR-V Z 4WD) ●全長×全幅×全高(mm):4570×1840×1620 ●ホイールベース(mm):2655 ●車両重量(kg):1630 ●パワーユニット:1993cc直4DOHC(141PS/18.6kg・m)+モーター(135kW/315Nm) ●トランスミッション:電気式無段変速 ●WLTCモード総合燃費:21.5km/ℓ ●ブレーキ:ベンチレーテッドディスク(F)/ディスク(R) ●サスペンション:マクファーソン式(F)マルチリンク式(R) ●タイヤ:225/55R18
見た目はスポーティだが
実用性もなかなかの優等生
実質的なCR-Vの後継モデルであり、プラットフォームもCR-Vと同系統となっている。にもかかわらず、車名をZR-Vとしているのはキャラの違いを明確に主張するためだ。
CR-VはミドルSUVの中心的な位置付けにあり、キャビン実用性や乗り味などアウトドア趣味のレジャー用途向けの設計がなされている。
一方、ZR-VはCR-Vより70mm低い全高や外観デザインからも推測できるようにスポーティ&スペシャリティなイメージを強めている。少し流麗な雰囲気が増したこともあって、レジャーワゴンとしての雰囲気や実用性はCR-Vよりも低下するのだが、それを最小限に抑えて、新たにスポーティ&スペシャリティのキャラをプラスできていることがZR-Vの見どころになっている。
キャビンはCR-V比で室内高が低下しているが、その差は約40mm。シート座面高の設定を上手に調整したことで、後席のヘッドルーム上の余裕は不足ない。閉塞感も少なく、乗員快適性も損なっていない。
荷室スペースは特段大きくはないが、後席格納に左右不等分割のワンタッチダイブダウン式を採用。荷室積載性の良さも重要視されるミドルSUVでも後席格納はシングルフォールディング式が一般的な選択なのだが、ZR-Vはなかなか凝った仕組みになっている。こういう部分にもCR-Vが持っていた使い勝手の良さを踏襲した設計思想が注がれている。
スポーティが際立つ走り
オンロードで真価を発揮
パワートレーンはCR-Vと同様に2ℓのe:HEVと1.5ℓターボの2タイプを設定。4WDシステムはどちらのパワートレーンも多板クラッチ式トランスファーを用いた電子制御カップリング式を採用している。サスはFF/4WDともに前ストラット式/後マルチリンク式で、これもCR-Vと同形式になる。
走りはオンロード志向を重視しているが、スポーツ志向が強いモデルでありがちなローダウンサスは採用せずに、高めの最低地上高190mmを確保。それでいて低重心と長いサスストロークの相乗効果もあって、しなやかさなフットワークを示してくれる。軸足はしっかりスポーティなのだが、粗さや硬さは感じさせないタイプだ。
ハンドリングは最近のホンダ車に共通する味付け。神経質な反応は控えめで、低速から高速コーナーまで安定したラインコントロールが可能。高速走行時のスタビリティも高く、山岳路でも余計な雑味が感じられないので、安心して走らせることができる。
e:HEVは、高速巡航では余力感十分のパラレル式、加速時や低中速ではペダル操作に従順なシリーズ式で制御されるが、エンジン直動を含めた駆動力の切り替えが極めて自然で、ミドルSUVの上級パワートレーンにふさわしい性能を持つ。一方でターボ車は、2ℓNA級と比べると中庸域のトルクや加速の伸びやかさで優れるものの大同小異といった程度で、e:HEVに比べると、高速や登坂路での余裕に物足りなさを感じてしまう。ただ、ドライブフィールにスポーティな感覚を求めるならば、内燃機をコントロールする楽しみを味わえるターボも魅力的だ。
時代を反映した電動のe:HEVと、ターボの内燃機の楽しさの2タイプから選択できるファントゥドライブもZR-Vの特徴。走り応えと実用性のどちらも追求していきたいというユーザーにとって最適なモデルだ。
ZR-V スタイリング
短めのオーバーハングで、全長はミドルSUVとしては少々小振り。さらに低めの全高設定もあって数値よりもコンパクトに見える。上級グレードはボディ同色のクラッディングを採用するなど、SUV色を薄めることでスポーツワゴン的な雰囲気も纏わせている。


ZR-V キャビン&ユーティリティ
低めの全高のためキャビン容量はミドルSUVとしては平凡だが、ダイブダウン式後席格納の採用などでアレンジ機能、積載性を高める工夫が盛り込まれている。インパネ周りのデザインやレイアウトはシビックやアコードの流れを汲んだもの。SUVを強く意識させるような演出は少なめだ。





ZR-V 試乗インプレッション


走りはスポーティだが不快さとは無縁
ZR-Vのフットワークは硬柔で評価するならスポーティ寄りといえる硬めのサスチューンである。これはもちろん、オンロードの操縦安定性を強く志向した結果といえる。
ただ、ドライバーに乗りこなしを求めるようなマニアックさはなく、どちらかと言えば誰にでも扱いやすい特性。思い通りのラインを描いてくれて、それでいて妙な違和感も感じさせない。運転感覚も、乗り味もストレスが少ない。
また高速長距離時に重宝するLKAの補正のかかり具合も上手。車線内の位置取りよりも車線方向と車体軸線の一致を優先させた制御が印象的で、システム側からの補正操舵と自身の操舵感覚がぶつかることも少ない。現実的な状況で使いやすい制御だ。
優等生のZR-Vの登場でミドルSUV選びはどうなる?《ZR-V vs ライバル4モデル》

ZR-Vは万能タイプ
どのライバルとも戦える
クロスオーバー系のSUVは、クーペ風のシルエットや独特な加飾処理をプラスすることで、独自のスタイリングを主張するモデルが多いが、ZR-Vも、SUVの王道スタイルから多少外れているのは間違いない。
低い全高パッケージという点では、ZR-Vはレヴォーグ レイバック(以下レイバック)と同系統といえるが、ZR-Vはレイバックほどワゴンに寄せていない。レイバックはモデル名からも分かるように、外装クラッディングパネルを装着しリフトアップさせることで悪路走行性能を強化したSUVで、今回比較する5車の中では最も悪路に適した動力性能を持つが、最も乗用車に近いパッケージが与えられている。
ZR-Vとレイバックを除いた残りの3車は、全高も高くSUVらしいパッケージングを採用しており、キャビン実用性も優れているが、キャラはかなり異なっており、それぞれに独自の工夫やアプローチが目立つ。
まずハリアーはオンロード志向を前面に出したプレミアムSUVで、内装加飾も本革仕様をイチオシするほか、スタイリングもクーペ的な流麗なイメージでまとめられている。CX-5はハリアーに近いキャラだが、最近はオフロードテイストを強めたグレードを設定するなど、どちらかというとプレミアムスポーティ寄りの設定。ハリアーほど尖っていない。
そして少し毛色が異なって見えるのがエクストレイルで、内装加飾や装備設定こそプレミアムモデル寄りだが、最新の電動技術の採用もあって、アウトドアレジャーでも活躍できる駆動メカニズムが与えられている。
さらにパワートレーン設定も見どころのひとつ。ミドルSUVは他のカテゴリー以上に走りの良さが重要視されており、なかでも動力性能の優劣はモデル選びの大きなポイントになっている。
レイバックはターボ、エクストレイルはe-POWER(HEV)の1系統だが、のこりの3車は複数設定。ZR-Vはターボとe:HEV、CX-5はディーゼルターボとガソリンNA、ハリアーはガソリンNAにHEVとPHEVを設定している。
おのおのに強みがはっきりとしており、価格に見合った魅力を持っているのだが、ZR-Vはe:HEVとターボを選び分けることで、多様なライバルたちと四つに組んで戦うことができる。実用面のコスパの良さと走りのファントゥドライブ、さらに幅広い価格レンジによる選びやすさがあることが、ZR-Vの強味になっている。
HONDA ZR-V

NISSAN エクストレイル

最新電動技術を惜しみなく注入。価格の高さがウイークポイント
新世代e-POWERやツインモーターのe-4ORCE、可変圧縮比エンジンの採用など、走行メカニズムは日産の最新ハードウェアを惜しみなく搭載している。特に4輪の駆動力配分制御を操安性の向上にも活かしたe-4ORCEは、エクストレイルの目玉機能で、雪路やダート路のような抵抗が低くなる路面状況だけではなく、オンロードでも恩恵を実感することができる。ファントゥドライブも走りの質感も高水準で纏めていることも強みだ。
キャビン実用性も良好で装備機能も申し分ない。ただ、ミドルSUVの中でも価格は高めな設定で、プロパイロットを標準装備した4WD車ともなると、最低でも価格が400万円を超えてしまうのが難点だ。




TOYOTA ハリアー

プレミアムキャラが魅力のベストセラーSUV
プレミアムワゴンを思わせる内外装を持つことも同車のセールスポイントだが、プラットフォームやパワートレーンはRAV4と共通。RAV4で採用されているダイナミックトルクベクタリングAWDやマルチテレインセレクトは非採用だが、最低地上高は190mmであり、得意と言わないまでも、オンロードだけのクルマではない。
パワートレーンは2ℓガソリンNA、2.5ℓHEV、2.5ℓPHEVの3タイプを設定。ガソリン車は300万円台前半からと価格的にも魅力があるが、ハリアーらしさを楽しめる内装仕様を選ぶと価格も上がってしまうのが難点。プレミアム性と高性能視点では最上級のPHEVも魅力的だが、価格が620万円と1クラス以上も上になってしまう。




MAZDA CX-5

オンロード志向は強いがマツダ車で最もバランスが良い
流麗なスタイリングを武器としている「魂動デザイン」を大きくアピールしていることもあって、アウトドア志向を強めたフィールドジャーニーをラインナップした後でも、都会派SUVの印象が強い。
走りは、引き締まった乗り心地や、応答性と収束性に優れたハンドリングを備えるなど、オンロードでの走りの質を意識させるタイプ。
また、HEVはないものの高速巡航時の余力感と燃費に優れるディーゼルターボ車を選べることも、CX-5のアピールポイントになっている。ライバルに比べるとキャビンスペースは多少狭めだが、内装質感のレベルも高い。マツダ車の中では、もっとも実用性とプレミアム性のバランスが良いモデルだ。




SUBARU レヴォーグ レイバック

オン/オフ問わない良質な走り。走り重視ならZR-Vの好ライバル
レヴォーグのバリエーションとして捉えてもいいが、サスチューニングが専用になるだけでなく、クロストレック同様に悪路向けに開発されたサスを採用している。スバルSUVでお馴染みの悪路走破機能「X-MODE」は非採用だが、200mmの最低地上高のおかげもあってラフロード性能も十分に確保されている。
走りはしなやかな乗り心地と確かなハンドリングを持つことが魅力。オンロード性能はクラストップレベルで、高速ツアラーとしてのまとまりがいいことが強み。ZR-Vとは走りの方向性や質感の演出は少し異なっているが、ZR-Vの好ライバル。汎用性が高く安心感を軸とした走りを求めるなら相当魅力的な一台だ。



