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掲載日:2021.08.27 / 更新日:2021.11.22

バイポーラはリチウムイオンに取って変わるのか?【池田直渡の5分でわかるクルマ経済第20回】

文●池田直渡 写真●トヨタ

 新型アクアに搭載されたバイポーラ型ニッケル水素電池が話題になっている。「これはもしや電動化のゲームチェンジャーになるのでは?」という期待である。

 筆者に言わせればそれはかなり楽観的で、そんなに簡単にゲームチェンジが起きたら苦労はしない。電動化、あるいはEV化の流れをガラリと変えるほどのインパクトは期待しすぎである。

 ただし、枝葉末節なのかというとそれも過小評価。ゲームチェンジャーとまでは行かないがゲームの行方に影響を与える程度には凄い技術である。

なぜバイポーラが画期的なのか

 全体像から説明すると、バイポーラとは、バッテリーセル内部の積層構造をコンパクト化する技術である。クルマという限られたスペースにバッテリーを積むためには、バッテリーの体積は小さいほどよい。ついでに言えば運動体なので軽いほど良い。ちまちまと削ってきたそういう集積度を、割と大幅に向上させたのがバイポーラの凄いところだ。

 バッテリーとは2枚の電極の間に電解液を満たして、極の間を電子が移動することで電気を発生させる仕組みだ。そのためには2枚の電極に電子の放出し易さの差がなくてはならない。

 分かり易さのために、乱暴に説明する。原始的な電池を例に挙げれば、正極が電解液で溶けた時、放出された電子が陰極に集まる。これはもうそう言う特性だと覚えて欲しい。電子の偏りが生じるので、これが外部導線を伝って正極へと流れようとする。要するに正極と負極の間で化学的に電位差を作ってやっているということだ。これが電流である。

 この電極-電解液-電極で構成される原単位をセルと呼び、ちょうど乾電池の様に扱われる。乾電池と乾電池を直列に繋ぐためには配線で繋がなくてはならない。

 バイポーラでは、一枚の薄い金属箔の両側にこの正極と負極に相当する正極剤と負極剤を塗って、本来隣り合うセルを一体にしてしまった。つまり電極(正極剤)-電解液-(負極剤)電極(正極剤)-電解液という具合に連続構造化したのである。

 イメージとしてはパンを3枚使って左右で異なる具を仕込んだサンドイッチのようなもの。あれが4枚も5枚も続くのである。こうすることで、金属箔の枚数はトータルでおよそ半分になる。一番外側の一対は片面塗布でないと成立しないので、およそと言っているわけだ。

 メリットは3つある。いくら薄い金属箔とは言え、新型アクアの様にセルの数が168個にもなるとそれなりの厚みなので、これでコンパクト化可能になる。コンパクト化に貢献するのはもうひとつあって、セルとセルを配線で繋ぐためのタブの様な出っ張りが無くなって、無駄なスペースが削れる。これが2つめ。

 3つめは、配線は太さによって電流容量が決まってくるため、大電流を流そうとすると太くしなくてはならない。細かいことを言えば高圧化すればいいのだが、それはまたシステムの都合もあるので、簡単ではない。太くするしかないとするとスペース的にも重量的にも不利になる。

 バイポーラ型では正極剤と負極剤を塗る集電体そのものが隣のセルと電気的に繋ぐ配線の代わりを担ってくれる。「太さ」とは面積なので、これはもう配線ではあり得ないほど太い、つまり大容量ということになる。3つの合わせ技によって、バイポーラ構造は、コンパクトで大電流に対応可能なバッテリーを可能にしたわけだ。

 ただし、エンジニアリング的に見て、コンパクトにするメリットをどう活かすかによって、出口は2つある。従来と同じ容量で構わないならバッテリーは小さく軽くできる。めでたしめでたしなのだが、電動化の文脈の中で「容量は十分」などという話は、どこを見回しても現状全くない。コンパクトにするなら容量を増やせるチャンスと捉えるのが普通。

 そうなると、バイポーラにしたなら、セル数は増える。先代で120個だったセルは168個に増えている。セルが増えればコストが上がる。だからアクアでは、最廉価モデルの「B」には48セルのリチウムイオン電池(0.74kWh/4.3Ah)が、それ以外のグレード「Z、G、X」には168セルのバイポーラ型のニッケル水素電池(1kWh/5.0Ah)が搭載されている。従来の常識「ニッケル水素電池よりリチウムイオン電池の方が高価」という常識とは話が逆になっている。

 さて、ここで一度表題に戻る。「バイポーラはリチウムイオンに取って変わるのか?」という問いはそもそもおかしいのだ。

 バイポーラはあくまでも集積の構造の話であり、リチウムイオンだとかニッケル水素だとか言うのは、先に触れた「化学的に電位差を作るための素材」の話。つまり今回トヨタが出した、素材:ニッケル水素、構造:バイポーラという組み合わせは、素材:リチウムイオン、構造:バイポーラでも成立する。

 化学的に電位差を作る仕組みは様々な順列組み合わせがあって、コストやパワー、耐久性や温度依存など様々な条件によって一長一短がある。一般にニッケル水素に比べてリチウムイオンはエネルギー密度に優れているが、コストが高く、発火リスクが高い。ところが、昨今入手に問題が発生しているコバルトの調達リスクを考えると、相対的な優位性が失われつつある。

 という中で、これまでエネルギー密度の低さで遅れを取っていたニッケル水素電池やリン酸鉄電池、ナトリウム電池などが再注目を浴びており、それらエネルギー密度が低い電池を搭載セル数を増やすことで、再び戦線に復帰させようという動きがある。そうした動きの一環として今回のバイポーラ型ニッケル水素は、とてもトレンドに乗った技術だと言える。

今回のまとめ

・バイポーラはバッテリーを進化させる技術のひとつ
・新技術バイポーラの登場によって、バッテリー素材の選択肢が増えた
・電動化用バッテリーは今後も製法の進化や素材の入手条件などにより変化を続ける

執筆者プロフィール:池田直渡(いけだ なおと)

自動車ジャーナリストの池田直渡氏

自動車ジャーナリストの池田直渡氏

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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