車の最新技術
更新日:2025.09.12 / 掲載日:2025.09.12
スズキ 未来戦略の開示姿勢【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●ユニット・コンパス、スズキ
9月9日、スズキは「技術戦略説明会2025」を開催した。「おや? 最近矢継ぎ早だなぁ。前回の技術戦略説明会からそんなに日が経っていないのに」と思った。調べてみたらあれは去年7月17日。1年以上過ぎている。いや光陰矢の如しである。
さて、昨年行われた技術戦略説明会は、10年ぶりとのこと。前回の好評さに気を良くしたのか、スズキは今後、年に一度技術戦略説明会を開催するつもりとのことだ。
具体的な中身を見ると、昨年の内容は正常進化している。しかしスズキのど真ん中にある行動理念は「小・少・軽・短・美」でこれは全くブレていない。その行動理念で実現するのは「エネルギーの極小化」だ。

日本自動車工業会(JAMA)の方針はあの狂乱のEVシフトの時から変わらずマルチパスウェイであり、マルチパスウェイを成立させるのは、BEVやFCVなどのゼロカーボン系技術と、循環型CO2を使うカーボンニュートラルに大別される技術群である。スズキも当然これにコミットしている。
循環型CO2を目指すということは、つまりカーボンニュートラル燃料(CNF)へのシフトだが、これらは現状コスト高である。それに加えてダイレクトエアキャプチャー(DAC)などのCO2回収技術開発を進展して行くにしても、エネルギーの極小化は有利に働く。
平たく言えば好燃費なら燃料価格の高さをその分オフセットできるし、DACで回収する目標量も少なくて済む。後始末を楽にする最善手はエネルギー消費を小さくすることだ。
というのが今年も引き継がれた昨年の内容。しかし今年はそれらの進捗報告が加わっている。まずはエネルギー極小化の真打とも言える「軽量化」だ。軽くて安全な車体技術を新たに「Sライト」と名付けた。

対象となるのは、スズキでも最も軽いアルトクラス。元が軽いほどハードルが高いはずなのだが、昨年スズキが掲げた減量目標設定はなんと100kg。その時点では目標に過ぎなかったが、1年間の技術開発によって80kgの減量に目処を付けた。今後、さらに部品のひとつひとつ、ボルトの1本に至るまで軽量化を進め、加えて全体最適化を推し進めることで100kgの目標を達成すると宣言している。
内燃機関に関しては、大別して2種類の技術がある。まずはスズキのハイブリッドシステムであるスーパーエネチャージ。これは軽さを生かしたシステムで、すでに燃費改善目標の達成には目処が付いたことを発表。
もうひとつはインド向けのCNF技術である。二輪・四輪ともにバイオエタノール20%のE20燃料に全モデルが対応済み。加えてバイオエタノールでもガソリンでもOKなフレックスフューエルヴィークル(FFV)を今年度内に投入予定だ。
さらに、スズキはすでにインドで販売するクルマの3台に1台は天然ガス(CNG)車で普及が進んでいるが、今年の発表ではこのCNG車に牛糞由来のバイオガスがそのまま導入できることを発表。昨年まで実証実験としていたが、今回公式に使用が可能になった。これによって牛糞が換金可能になり農村の所得向上へとつながる。

また昨年に引き続き「SDVライト」を提言。使うか使わないかわからない電子ガジェットがたくさん付くことは、「小・少・軽・短・美」の行動理念に沿わない上、ラーメン二郎のようなあれもこれもの山盛りは、嗜好品としては否定しないが、スズキが目指す人々の生活に寄り添うインフラモビリティという概念とは別物である。
必要以上の装備はタダで付いて来るわけではない。ちゃんと製品代金に含まれている。環境負荷も無駄に上がるわけで、スズキは本当に価値ある必要な装備を峻別(しゅんべつ:はっきりと区別すること)して「ちょうどいい」「これでいい、これがいい」を考え抜き、“お求めやすい価格”を実現していくと宣言している。
ということで、しっかり説明を聞けば非常に共感できる技術説明会だった。ただ筆者にはちょっと心配がある。二郎のラーメンは説明が要らない。誰が見ても一目で異質さが伝わるのだ。けれども「ちょうどいいラーメン」は、ぱっと見、なんの変哲もないただのラーメンに見える。そこがそうじゃないとちゃんと説明してあげるのは筆者の仕事でもあるのだが、消費者ひとりひとりを呼び止めて説明するわけにもいかない。スズキはこの正しい理念をどう伝えていくかのコミュニケーションプランも同時に進化させていかなければならないと思う。