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更新日:2025.02.10 / 掲載日:2025.02.10
名車「GT-R」の走りを未来へ エンジニアが語るEV化プロジェクトの裏側

GT-Rを愛するエンジニアがEVを選んだ理由[R32 EVコンバージョン開発の裏側]
文●ユニット・コンパス 写真●ユニット・コンパス、日産
(掲載されている内容はグー本誌2025年3月発売号「GT-Rを愛するエンジニアがEVを選んだ理由[R32 EVコンバージョン開発の裏側]」記事の内容です)
クルマに関する気になる話題を掘り下げたり、ニューモデルの試乗記事を紹介するコーナー。今回のテーマは、日産が東京オートサロン2025で公開したR32 EVコンバージョンについて開発者に話を聞いた。
目的はEV化の先にあるよいクルマ体験の共有
「みなさんごめんなさい!」。R32EVプロジェクトでリーダーを務める平工良三エンジニアにコメントを求めたときに、まず出てきたのが謝罪のコメントだった。
伝説的な名車であるR32 GT-RをEV化するプロジェクトを進めるにあたって、さまざまな議論が起きることは想定していたが、想像以上に反応が大きく驚いたという。GT-Rの魂ともいえるRB26型エンジン。そこに強い想いを重ねるファンにとってショッキングだったのだろう。
だが、そもそも彼らもおもしろ半分な気持ちでこのプロジェクトに取り組んでいるわけではない。原動力になったのは、クルマとクルマ作りに対する熱い想いだ。
「若いエンジニアに昔の名車と呼ばれるクルマに乗ってもらうと、おもしろいと口を揃えます。今はまだ現車が存在しますが、30年後はどうでしょう。『こういうクルマがおもしろいんだ』という感覚が共有できないと、日産らしいクルマ作りはいつしかできなくなるかもしれない。そこで、30年後にも維持管理できる部品でR32 GT-Rを再構築するというプロジェクトを立ち上げました」
つまり、EV化は手段であり、運転することで感動できるクルマとはどのような要素でできているのかを、エンジニアリングとして解明し再現することが真の目的になる。たとえばエンジン音も、あえて収録したものを再生するのではなく、音を分析して回転数や負荷に応じてサウンドを再現している。
つまりこれはクルマ版「ノアの方舟」なのだ。この取り組みが成功すれば、シルビアなどほかの名車たちも、デジタル化して後世に伝えることができると平工さんは話す。将来、令和生まれのエンジニアたちとR32 GT-Rについて熱く語り合えたらうれしいし、そんな人の作ったクルマに乗りたいと素直に思う。
ちなみに、このR32 EVは、元の姿に戻すことができるように考えて制作されている。もちろん取り外したRB26型エンジンも、ほかのパーツたちも、きちんと保管されているのでご心配なく。
[CLOSE-UP]GT-Rの魅力を後世に伝えるために

将来的に維持できるEVへコンバージョン
RB26の性能と4WD技術であるアテーサE-TSを再現するため、最大340Nmのトルクを発生するモーターを2基搭載。バッテリーは、リーフのレーシングモデル用に開発されたものを流用し、重心や重量配分を考えて後部座席のスペースに搭載している。重量が増した分のストッピングパワーを増強するため、ブレーキは強化品に。それを収めるためにホイールも特注した18インチに交換されている。


エンジン車の走りの魅力を電動化時代に残すために

R32 EVコンバージョン制作の理由は、後世のエンジニアがエンジン車、特に名車の走りを体験できること。車重は増加しているが、トルクウェイトレシオはR32 GT-Rと揃えている。
名車のGT-Rだからこそ巻き起こったファンの反応

貴重なGT-Rだから大切に保管してほしいという考え方もある。だが、EV化することで今後数十年にわたり、多くのエンジニアの学びになるのであれば、それもGT-Rにとって幸せな時間ではないだろうか。今後の展開にも期待したい。