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更新日:2026.02.10 / 掲載日:2026.02.06
フィジカルAIと人協調ロボット 2つのアプローチ【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●テスラ、豊田自動織機
フォーブスやロイター、ウォール・ストリートジャーナルなど外紙各紙の複数回にわたる報道によれば、米テスラは、フリーモント工場でのモデルSとXの生産を終了し、製造施設を人型(ヒューマノイド型)ロボット「Optimus」の生産に転換(https://forbesjapan.com/articles/detail/90735)するという。
またロイターの記事では、テスラの求人広告の1つに “The code you will write will at term run in millions of humanoid robots across the world.(あなたが書くコードは世界中で何百万台の人型ロボットで実行される)という記載があったとのことで、つまりテスラはOptimusを数百万台単位で販売することを、少なくとも意図はしていると思われる。
さて、この人型ロボットは、長らく人類の夢だった製品だ。しかもAIによる学習型プログラムを搭載して、どんどん学びながらできることを増やしていく。こうしたロボットは総称として「フィジカルAI」と呼ばれ、いま注目を集めている。

それが「我が家」や「我が社」にやってきて、家事や仕事を代行してくれるというビジョンである。ロボットなので単純作業に飽きることもないし、労働基準法も関係ないので24時間動作させられる。遠い夢やSFのストーリーが現実になるということで大変夢がある。
かつて鉄腕アトムで夢見た子供たちが、ホンダでASIMO計画に従事した話は多くの感動ストーリーとなって世に広まった。こうしたイメージしやすく、一方で実現の難しい夢を事業化する話は、とてもエモーショナルである。
「難しい」と言うのは、人ができることの多くを実現しようとするからだ。そのためには人間同様に、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚という五感を判定できるセンサーと、両手、両足などに代わるアクチュエーターが必要であり、それらを統合制御できるソフトウエアと、手順を組み立てるAI(LLM:大規模言語モデルまたはLAM:大規模行動モデル)が必要だからだ。もちろん足腰の筋力も含め、各アクチュエーターの負荷を支えられる骨格による体幹の物理強度と制御も求められる。

そうなるとどうしても複雑で高価で重くなる。軽くしようと思えば高価な軽量高強度素材が必要になってさらに価格が上昇する。
例えば荷物を運ぶというごく基本的な動きに際して、対象物が、卵やガラスのコップなどの割れ物、あるいは紙のような薄くてダメージを受けやすいもの、金属インゴットのような重くて硬いもの、それぞれに応じた制御精度や強度や重量が異なるものを、特性に応じて扱えなくてはならないわけだ。
それを全部ロボット側だけで何とかしようとすると大変だが、あらかじめ必要な養生をした上でパレットに乗せてしまえば、自動運転の電動フォークリフトでも扱えるし、その方がコストも価格も有利だ。ロボットとインフラの組み合わせで解決した方が楽なのは間違いない。
例外処理を全部ロボット側だけで解決しようと思うと、とても難しい。それこそが人型ロボットの難しさなのである。もっと長期的には、パレットの様な間接的な道具を調達したり作ったりできる様になるのかも知れない。

なので汎用性をある程度制限したアプローチも考えられる。例えば、以前の記事で紹介した豊田自動織機の人協調ロボット「LEAN」の様に、できることを限定して、その代わり小さく軽く安く作るというやり方だ。特に家庭や職場で人間と一緒に稼働させるには、何百キロもの重量のあるロボットは危険である。万が一倒れたりした時に、人が下敷きになったら命に関わる。
例えば自動車の工場では、6軸のロボットがたくさん稼働しているが、ある大きさ以上になると、安全確保のために防護柵で囲って、作業環境を人と隔離しなくてはならない。そういう規制がある。現状で考えると自立して動ける人型ロボットは、そこそこの重量物を動かせるだけのフレームと、自重も含めた負荷を支えられる脚部の構造強度とアクチュエーター能力、そして妥当な稼働時間を支えるバッテリーが必要だろう。バッテリーだけでも50kgは下るまい。となると総重量は普通に考えて200kgくらいにはなる。
ちなみに人間の骨や筋肉の比重は1.1程度だが、鉄は7.85、アルミでも2.7だ。70kgの人間の比重をアルミに置き換えたら189kg。比重はあくまでも体積比であって強度比ではないが、それにバッテリーが加わるのだ。テスラは2021年のプレゼンで、Optimusの重量を125lbs(約57kg)と発表しているが、流石にその数字は信じがたい。
有線動力だとしても軽すぎる。参考までに、搭載モーター1個のe-bike(電動スポーツ自転車)でも車両重量で20kg辺りが現実だ。
ちなみにe-bikeの場合、ドライブユニット(モーター)重量が6〜7kg、バッテリーが2〜3kgほど。Optimusは数十個のモーターが搭載されているというので、仮にe-bike用のモーター重量の半分としても1個3kg。20個積めばこれだけで60kg。バッテリー容量を10倍として30kg。駆動システムだけでおおよそ100kgになる。だから200kgと考えるのだが、現在の技術を超越した革新的なスーパーテクノロジーがあったとして、公称の倍、つまり130kgだとしたら驚異的に軽いと思う。
人型ロボットはとても夢があるが、100kgオーバーとなれば、おそらくは安全性と価格の両面でかなり実現は難しいのではないかと思う。対して、LEANはアプローチが逆である。最初に人と一緒に働くことを前提に置く。だから重量を軽くしなければならない。セグウェイの様にモーター2輪駆動の倒立振子(https://ja.wikipedia.org/wiki/倒立振子)構造を持たせた結果、その重量はわずか65kg。しかも小さいので、万が一周辺の人に倒れ掛かっても、大怪我には至らない。
ただし、汎用作業はこなせない。できることは限られている。その代わり、制度やインフラのハードルが低く、すぐに活躍が可能だ。
OptimusとLEANの間には、言ってみれば、「高い理想を掲げ、勝機は前進する意思によって掴む」という方法の人型ロボットと、「今すぐできることからコツコツと実現していく」人協調ロボットという違いがある。人協調ロボットはどうしても地味で、話題を集めたりしにくい。当然、株価を爆上げさせたり、社債などを高値で売りたいのであれば、人型の方が向いている。
そういう意味では創立以来、夢のある壮大なストーリーで投資を募ってきたテスラらしいやり方だと思う。一方で豊田自動織機は、株式の非公開化へ邁進中。企業広報によって投資を集めるつもりがない。手持ちの資金でコツコツと地道に続いて行くスタイルである。
資金調達に対する経営方針がそのまま製品開発にもつながっていると考えるととても興味深い。