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更新日:2021.08.27 / 掲載日:2021.08.20
電動化時代に86・BRZがフルモデルチェンジできた理由【自動車ジャーナリスト九島辰也が解説

文●九島辰也 写真●トヨタ,スバル
GR86とスバルBRZがモデルチェンジを行いました。まぁ、市販車ですからフツーのことです。でも、冷静に考えると、そうとも言えなくないかと。というのも、まさに時代は電動化。ガソリンエンジン一本のモデルが2021年現在堂々と発表されるのは不思議な気がしなくもありません。
なぜなら、ボルボとメルセデスは2030年に、ジャガーに至っては2025年までにすべてのクルマをEVにしようとしています。EVメーカーへのシフトです。他の欧州メーカーもそれを追従しています。
その背景には、英国では2030年に、EUでは2035年までに新車の販売をすべてEVだけにしようという目論みがあります。ハイブリッド車もダメというから厳しいですね。確かにそうなれば新車の二酸化炭素排出量はゼロになりますが、本当に可能なのでしょうか。ちょっと疑問は残ります……。
というグローバル事情を知っていると、やはりちょっと違和感を覚えます。なので、まだ市販前のクローズドで行われた試乗会で、そんな質問をぶつけました。すると、「このプロジェクトがスタートしたのは、そういった社会情勢の前です」と。なるほど。でも、本当にそうなんですかね。社会情勢を鑑みた結果後から計画を白紙に戻す、なんてことも過去にはあったんじゃないでしょうか。想像ですが
2社による協業プロジェクトであることがフルモデルチェンジを後押し

トヨタ GR 86
なんて話をすると、このクルマにネガティブな印象を持っていると思われそうですが、そうではありません。まったくの逆。この英断に拍手です。我々クルマ好きに内燃機関の新型車がこのタイミングに出るなんて感動的です。海外のクルマ好きやジャーナリストたちに自慢したいくらいです。日本は素晴らしい。
それじゃなぜ無事にモデルチェンジにたどり着いたかですが、その答えは試乗会のインタビューの中にありました。それはこのプロジェクトが2社で行われていること。トヨタかスバルどちらか一社では不可能だったかもしれません。
というのも、開発に関する投資を2社で分けられるからです。つまり、コストは半分、リスクも半分ということです。ビジネスとして至極真っ当な話ですよね。電動化もそうですが、SUV全盛の中2ドアクーペをつくるのですから、いくら走らせて楽しいクルマを世に送り出すという命題があっても、ゴーサインはなかなか難しいと思います。
なんて能書きはともかく、2つのモデルは発売に漕ぎ着けます。スバルは7月に予約注文を開始しましたし、トヨタも秋に販売をスタートします。2社のタイミングがずれたのは、クルマの仕上がりに関係します。そもそも86はGRではなくトヨタでしたから、それほど個性を前面に押し出すことはなく、2つのモデルはかなり近いテイストにつくられる予定でした。従来型と同じ範囲の違いでしょうか。90年代にアメリカ車がよく“バッジ違い”でたくさんクルマを売っていましたが、それに近かったかもしれません。コストもグッと抑えられます。
でもそうはならなかった。トヨタ社内でGRブランドが立ち上がり、それが活性化していくと、86はGRの方がいいのでは?となったようです。
思うに、そこにはGRスープラが関係したのではないでしょうか。BMWのシャシーに手を入れているうちにいろいろ気づいたのではないかと。BMWレベルであれば教科書になっても不思議ではありません。
結果、2つのモデルは目に見えないところでかなり異なった仕様になりました。ダンパーの減衰圧やショックのバネレートはもちろん、フロントスタビライザーの径、リアスタビライザーの径と取り付け位置、リアトレーリングアームのブッシュまで変えています。そうそうパワステのセッティングも。一足早く仕上がったBRZを共通のセッティングと想定すれば、そこからGRらしさを強調できるように手を加えました。
実際に走るとそれは明確で……、という話は次週へ送ります。書き始めると終わらないですから。ただ、今回ステアリングを握ったのはサーキットという特異なステージなので、個人的には早く一般道を長距離走ってみたいと思います。実は従来型をけっこう気に入っているんですよね。特にスバルBRZ。デビュー時2週間の約束で広報車をお借りしたのですが、あまりに楽しくて2ヶ月延長したことがあります。ロングタームテストドライブに計画を変更して。そんなタイミングが待ち遠しい今日この頃です。
8月27日更新 GR 86、SUBARU BRZのサーキットインプレッション
新型のデザインコンセプト

スバル BRZ
今回はGR86とスバルBRZの話パート2をお届けしたいと思います。前回よりもより車両に寄った話。この秋の話題ですからね。
で、まずはデザインですが、担当したのはトヨタです。ですが、従来型はトヨタのスタジオを使いましたが、新型はデザインから開発の2年弱トヨタのデザインチームがスバルに通ったそうです。CADもスバル側のシステムを使ったとか。
狙ったのはシンプルさ。スポーツカーとして長く愛されるデザインを目指しました。確かに奇抜なものでは長く乗れません。でも、それは従来型もそうだと思います。気を衒わないデザインが高評価を得ました。キープコンセプトってところですかね。変えないで欲しいというユーザーからの声が多かったと耳にしました。
出来上がったデザインをインタビューでは“大人のデザイン”とも言っていました。従来型を40歳で買った人が48歳とか49歳になったことを想定すると、五十路になっても乗れるものでなくてはならないと考えたそうです。確かにそうなりますね。
ちなみに、2シーターにしようかと考えなかったかと質問したところ、初めから2+2というパッケージングは変わらなかったそうです。従来型からの乗り換えを考えると、そこはキープした方がいいという結論でした。確かに、ユーザー目線で言えばそうですね。
では、GR86とBRZの違いですが、目につくのはやはり顔。GR86はGRファミリーの“ファンクショナルマトリックスグリル”をBRZは“ヘキサゴングリル”を採用します。そこは両者のアイデンティティですね。当初は単にバッジ違いにするアイデアもあったそうですが、個人的にはやはりそれぞれの個性を出せてよかったと思います。特にGRはこれからのブランドですから、アイデンティティは大事にするのが宜しいかと。とはいえ、リアにまわるとほぼ同じなんですがね。
走り味の違いをサーキット走行で確認

トヨタ GR 86
では、ハードウェアへ話を移しましょう。
2リッターから2.4リッターへ排気量アップされたエンジンは、数字のまま力強さが増しました。アクセルを踏み直した時のトルクの立ち上がりとその吹け上がりにパワフルさが足されます。ただ、それは特別強烈ではなく、それなりといったところ。イマドキは排気量をダウンして過給機を付けたりモーターでパワーアップするクルマが多いですが、そこで感じるような劇的さはありません。
もちろん、そこは意図的なところだと思います。そもそも86もBRZも軽量ボディをそれほど大きくないパワーで操るのをテーマにしてきました。それが楽しいのがこのクルマなのだと。ということで、今回は謙虚なパワーアップでとどまります。このコンセプトを理解していれば、好印象です。
それじゃコーナリングはどうか。サーキットでの印象では、どちらも正常進化といった領域でした。コーナリングスピードは若干上がり、キャビンをフラットに安定させる力が強まっています。ステアリングフィールはそれほど変わりませんが、路面からのダイレクトさはそれなりにあって楽しく走れます。コーナー入り口での鼻先の入り方が好きです。ニュートラルステアからの弱アンダーステアって感じですかね。素晴らしい。
ただ、ここまでは両者それほど挙動は変わらないのですが、そこからスピードが上がっていくと個性が出ます。GR86はピーキーさが顔を出してくるので、ある程度スピードが上がるとドライバーは緊張します。「リアの粘りがこのあとどうなるのだろう」ってところでアクセルを戻すか、さらに踏み込むか、ですね。そういえば開発の方が「限界領域でクルマと対話できるクルマです」と言っていました。腕に自信のある方はぜひ対話してみてください。
それに対しBRZはジワジワとドライバーにリアの粘りを伝え続けます。しかも車体は常に安定していて、ドライバーに緊張感を与えません。「この辺で限界かな」ってところでアクセル一定から戻し始めると気持ちよくコーナーを駆けます。ドライバーにとって扱いやすいと思いました。コントローラブルってところです。スバルの開発者はそこに雪道でのテスト走行の経験が生かされている話をしていました。確かにタイヤの滑り出しをどう制御するかという意味では両ステージとも似ているのかもしれません。
ATとMTでは、多分速く走れるのはATだと思います。ステアリングとアクセルに集中する分、クルマの挙動を確かめながらドライブできます。ですが、MTも侮れません。比較的ショートストロークでシフトチェンジのおさまりもいいです。それに希少性は格別。なんたってイマドキMTをラインナップしてくれるクルマなんてそうそうありませんから。電動化の時代、ますますレアになるのは必至です。
というのが、サーキット試乗したGR86とBRZの印象でした。次回は一般道で走りたいですね。街中での操作性や走りなどまだまだ気になるところは山ほどあります。BRZは想像つきますが、GR86はどうなんですかね。この秋興味津々の両者です。

スバル BRZ
執筆者プロフィール:九島辰也(くしま たつや)

自動車ジャーナリストの九島辰也氏
外資系広告会社から転身、自動車雑誌業界へ。「Car EX(世界文化社 刊)」副編集長、「アメリカンSUV(エイ出版社 刊)」編集長などを経験しフリーランスへ。その後メンズ誌「LEON(主婦と生活社 刊)」副編集長なども経験する。現在はモータージャーナリスト活動を中心に、ファッション、旅、サーフィンといった分野のコラムなどを執筆。また、クリエイティブプロデューサーとしても様々な商品にも関わっている。趣味はサーフィンとゴルフの”サーフ&ターフ”。 東京・自由が丘出身。