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更新日:2018.11.29 / 掲載日:2017.07.07
大幅値下げも! ルーテシア ルノー・スポールはマイナーチェンジで魅力さらにアップ

文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス
フランスでもっとも売れている車種であり、欧州全体でもゴルフに次いで2番目の売り上げを誇るモデルがルノー ルーテシア。ルーテシアR.S. (ルノー・スポール)は、そのコンパクトカーをルノーのモータースポーツ部門である「ルノー・スポール」が鍛え上げ、スポーツカーに仕立てたホットハッチだ。
その方向性はメルセデス・ベンツでいえば「AMG」、BMWでいえば「Mモデル」のようなもの。搭載するエンジンは標準車の1.2Lターボに対してひとまわり大きな1.6Lターボ(なんと日産製!)だし、最終組み立て工場も標準のルーテシアとは違い、レーシングカーも製造している、ディエップにあるルノー・スポールのファクトリー。嗜好性が強い、好きモノのための特別なクルマだ。


そんなルーテシアR.S.がマイナーチェンジを受けた。
マイナーチェンジを受けること自体はクルマが進化するのだからじつに喜ばしいことである。しかし、私の心中は穏やかではない。なぜなら、マイナーチェンジ前モデルのオーナーだから。自分の愛車が旧型になってしまう瞬間に立ち会ってしまったのだ。その事実に、なんとも言えない悲しい気持ちにならないわけがない。しかし、愛車の進化をしっかりと見届けられるのは人生においてそうある機会ではないし、普段から接している人間だからこそ気がつく部分もあるだろう。そこで今回は、オーナー目線の主観に満ちたレポートをお届けしよう。
今回のマイナーチェンジの大きな変更点はエクステリア、とくにフロントマスクである。パッと見たところ大きく違わない(灯火類とバンパーの細部以外は変わらないのでたぶん50m離れると見分けがつかないだろう)のは旧型オーナーとしてひと安心だが、細かく見るとけっこう悔しい。
形が変わらないように見えたので、油断していたらうっかりスルーしかけたが、危ない危ない。まず、ヘッドライトがLEDになっていることに気がついた。私の愛車のヘッドライトはハロゲン(よく考えたらハロゲンランプのクルマを買うのは20年ぶりだった)。マイナーチェンジ前モデルは、LEDどころかキセノンだって標準でもオプションでも用意されていなかったのだ。それが一気に標準装備としてLED化されるなんて悔しすぎるじゃないか!
さらに私の愛車はバンパー内にデイライトが組み込まれているのだが、はっきりいって直線的に並んだだけの無難なデザインであまり面白みはない。「ついていますけど何か?」くらいだ。
ところが新型は「R.S.ビジョン」と呼ぶチェッカーフラッグをイメージした片側3灯、左右合計で6灯のポジションランプ兼フォグランプ兼ハイビーム兼コーナリングランプという多機能かつ「これカッコいいでしょ?」と主張するライトユニットを内蔵。はっきりいってカッコいい。凝ったデザインがまた悔しい。
チェッカーフラッグをイメージした「R.S.ビジョン」。
ヘッドライトのLED化とバンパー内のライトユニットのカッコよさ。その2点が新型のうらやましいポイントだ。これだけで20万円分くらいの価値はあるから、さぞかし値上げをしているのだろうと思いきや、全グレードともに値下げというのだから聞いてひっくり返りそうになってしまった。「シャシースポール」では、なんと23万5000円もの大幅値下げだ。大丈夫かルノー? 本当にいいのか? サービスしすぎて利益が減って「もう次からはR.S.は輸入しない」なんてことになりやしないか心配である。
そのほかエクステリアはテールランプが新デザインになり、ホイールの形状が変わり、テールゲートのエンブレム自体のデザインやエンブレムの貼り付け位置が変更になった。 いずれにせよ、デザイン的にはパッと見て違いが分かるほど大きく変わっていないことで旧型オーナーとしては心拍数を上げないで済んだ。(LEDライトはうらやましい。そして、できれば愛車にもつけたいのだが……。)

いっぽうインテリアの最大のトピックはシート表皮の変更。より滑りにくい素材になったから機能的にも進化し、ドアトリムが変わって質感がアップしている。ここはいい。しかし、自宅の駐車場所が機械式立体駐車場で入庫するたびにドアミラーを畳まないといけない身としては、ドアミラースイッチが変更になりドアロックに連動して自動的にミラーが畳まれる(ドアロック解除で自動的に開く)オート格納ドアミラーが採用されたのは羨ましい。さらにルームミラーが自動防眩になるなど、さりげなく機能が充実しているのは……プレスリリース(報道資料)にも書いてないことだし気が付かなかったことにしておこう。
ここで本音をさらけだしておくと、じつは今回のマイナーチェンジは大きな安心もしている。その理由は、走りに関しての進化はアナウンスされていないから。走りの楽しさを求めてルーテシアR.S.を買った身としては、やっぱり走りが気になるからだ。もし走りが大きく変わっていたらきっと今ごろ、ルノー販売店に行って愛車の下取り価格を確認しつつ、新型に買い替えるためのローン審査を受けていたに違いない。
グレード構成も変更も受けた。ルーテシアR.S.はサスペンション設定の違いにより「シャシースポール」、「シャシーカップ」、「シャシートロフィー」の3タイプが用意されているのだが、マイナーチェンジ前はある時期から「シャシーカップ」がラインナップから落ちていた。それが今回復活し、3タイプのサスペンションから好みに応じて選べるようになった。
ちなみに「スポール」はワインディングロードをターゲットにした味付け、「カップ」はサーキットを視野に入れてフロントサスペンションを27%(3mmローダウン)、リヤサスペンションは20%ハードに設定。そして「トロフィー」はカップに比べてフロントを20mm、リヤを10mm下げて低重心とし、より高い次元の走りを実現している。またエンジンも、「トロフィー」だけは20馬力増しの220馬力仕様で動力性能も高い。

試乗車のグレードはシャシーカップ。
サーキットを走らないなら「スポール」、サーキットを走るなら「カップ」もしくは「トロフィー」というのはよく言われる選択のアドバイスだが、何を隠そう私の愛車は「トロフィー」である。サーキットを走る機会なんて年に1度あるかどうかもわからないのに。
選択理由は単純で「どうせ買うならなら一番尖った仕様を」という冷静に考えれば間違えすぎのモノ選びだ。でも、自慢じゃないが満足感は高い。
そもそも「R.S.」がレーシングスピリットを込めたスペシャルなモデルなのだから、とことん走りの性能を追求したモデルがいちばんオモシロイだろうという判断。その決断は間違っていないはず。ひとたびワインディングロードに入れば水を得た魚のようにグイグイと曲がっていくのだから。コーナリングの気持ちよさは異次元レベルで、「ずっと曲がり続けていたい」と思えるほど。ドライバーをそんな気持ちにさせるR.S.ってやっぱりすごい。
ただ、「トロフィー」の乗り心地はきわめて悪い。だからもしファミリーカーとして使うことも考えているのであれば、家庭内に不穏な空気が流れるのを防ぐ意味で「スポール」くらいがいいだろう。

ファミリーカーといえば、ルーテシアR.S.は実用性の高い5ドアのハッチバックで、トランスミッションはMT同様にダイレクトなフィーリングながらAT免許でも運転できるデュアルクラッチ(ルノーは「EDC」と呼ぶ)。だからスポーツカー好きのパパが「ファミリーカー」として家族を説得して買えるスポーツモデルだってことは大きな魅力だ。
ちょっとだけ装備の話をしておくと、「スポール」は唯一、液晶ディスプレイではないオーディオを装着し、エアコンもオートではなくマニュアル式(「カップ」や「トロフィー」はオート式)。オーディオはともかく、エアコンを考えると「カップ」か「トロフィー」を選ぶのが個人的にオススメである。
じつは日本におけるルーテシアの販売台数の約2/3はR.S.なのだとか。ひとりのオーナーとして言わせてももらうと、このクルマは本当にオススメである。実用的でカッコよくて、とびきり楽しい走りを与えてくれるからだ。そして旧型オーナーから見た新型は……ぜんんぜんうらやましくなんてないもん、と言いたいところだがやっぱりうらやましい。とにかくLEDヘッドライトとバンパー内のR.S.ビジョンが……。

【ルノー ルーテシア R.S. シャシーカップ(6速AT・EDC)】
全長 4105mm
全幅 1750mm
全高 1435mm
ホイールベース 2600mm
重量 1280kg
エンジン 直列4気筒DOHCターボ
総排気量 1618cc
最高出力 200ps/6000rpm
最大トルク 24.5kgm/1750rpm
サスペンション前/後 ストラット/トレーリングアーム
ブレーキ前/後 Vディスク/ディスク
タイヤ前後 205/40R18
販売価格 284万円~329万円(全グレード)
ボディカラーはグリ プラティヌ メタリック。