カー用品・パーツ
更新日:2019.03.06 / 掲載日:2019.03.06
最新冬タイヤのすべらない話
“冬の怪物”アイスガード6を擁するヨコハマが、北海道・旭川でスタッドレスタイヤの勉強会・試乗会を開催。特別に製作された非売タイヤの試乗など、貴重な体験を通して滑らないタイヤの秘密に触れることができた。
●文:川島茂夫 ●写真:横浜ゴム
最新冬タイヤのすべらない話

一般タイヤに留まらない技術的裾野の広さを実感
このイベント、タイトルには「勉強会」とも記されている。単なる新製品試乗とは違うのだ。昨年はスタッドレスコンパウンドのスリックタイヤ氷上試乗が設定されていたが、今年もなかなかの趣向が凝らされていた。
新製品ではクロスオーバーSUV向けのジオランダーX‐CVが用意されていた。箱根でドライ路面における中高速域の試乗を終えていたが、H/Tタイヤにして「M&S」規格獲得という雪の部分をテスト。詳細は別項に記したが、SUVにとって「使えるオールシーズン」タイヤである。
今回の目玉のひとつは国内未発売のブルーアース4S(AW21)とアイスガード6(iG60)の比較試乗。AW21はオールシーズンタイヤであり、高速性能の高さがセールスポイント。トレッドパターンもスポーツラジアルに細かな刻みを入れたような感じだ。肝心の氷雪上性能は2、3世代前のスタッドレス相応の印象。スケートリンクのような氷盤でも苦もなく走れた。もちろん、iG60の方が氷雪上性能のすべてに上回る。特に方向安定と横滑りからの回復性の差が大きい。降雪極低温地域には厳しいが、積もるかどうか微妙という地域ならAW21はかなり魅力的だ。ちなみに転がり抵抗のラベリングは「B」相当とのこと。
技術理解を進める今年の試作品は吸水材(マイクロバルーン)3倍増のiG60。微細な穴による吸水効果とバルーン表面の樹脂による引っ掻き効果がマイクロバルーンの氷上グリップの要点。3倍増でグリップ性能が1割くらい向上する。だったら3倍増を市販化すればとも思うのだが、耐摩耗性等の総合性能では市販状態がベストなのだろう。ちなみに無闇に増量すると接地面積が低下によって氷上グリップも低下。3倍増が限界値と考えてもいいだろう。
同乗試乗となったが大型トラック用スタッドレスも体験できた。試乗車の駆動輪には国内未発売の455/55R22・5という超ワイドトレッドタイヤが装備されている。幅50cm近いトレッド面を高速走行でも形状維持できるのが不思議。聞いてみれば周方向の剛性を高めるのが重要で、周方向ベルトを1本のワイヤーで巻き上げていくスパイラルループ構造が決め手。こうしたトラック用超ワイドトレッドタイヤを製造できるのは世界でも他に1社しかないという。
汎用技術として擦り傷が自然に回復する自己修復コート材のデモもあれば迫力のトップラリーストの同乗試乗もあり、得られた経験も知識も盛り沢山。横浜ゴムの技術的裾野の広さを実感できた。
【1】吸水剤3倍盛り(!)スタッドレスタイヤ比較テスト
特別製作のスペシャルタイヤで吸水剤の働きを体験
市販のアイスガード6とともに用意されたのは、吸水剤のみ3倍量配合した特製アイスガード6。氷盤路でのスラロームおよび20km/hからのブレーキングでその違いを体験した。
アイスガード6(iG60)

「氷に効く/永く効く/燃費に効く」に「ウェットと音に効く」を加えた、ヨコハマの最新・最高性能スタッドレスタイヤ。
氷盤スラローム比較

氷盤制動比較
市販品
吸水剤3倍
【1】まとめ:氷盤制動が約1割短縮
トレッドコンパウンドに含まれるマイクロバルーンの量を3倍に増量した結果、氷上制動距離は約1割短縮していた。同様にスラロームでの滑り出し限界が向上。氷上グリップ向上の効果は明白だ。ならば市販でも3倍増にすればいいと思うのだが、耐摩耗性やコスト等々の問題もある。方向安定やグリップ特性は標準仕様とほとんど変わらず、安心感の高さがiG60の重要な特徴と確認もできた。
吸水剤の○と×
【○】氷をガッチリつかまえる!
【×】コスト上昇/過剰だと耐久性低下
評価技術を独自開発
横浜ゴムは金沢大学との共同研究により、氷上路面と摩擦中のゴムの接地状態を可視化する評価技術を開発した。高速度カメラを搭載した試験機で接地状態を可視化するとともに解析技術を確立。ゴムの吸水性や排水性を数値的に評価することに成功した。
ひと目でわかる!
吸水剤あり
吸水剤なし
ミクロレベルの画像を秒間100万枚撮影可能な装置により、実際に接地している部分を黒く映し出す。冬用タイヤの吸水効果評価に有効な新技術だ。
【2】スタッドレスvsオールシーズン! キャラクター比較テスト
日本未発売のオールシーズンタイヤの実力は?
欧州向けオールシーズンタイヤ「ブルーアース4S AW21」をテスト。圧雪ハンドリング路や氷盤路でのスラローム&制動テストを実施。比較対象は高性能スタッドレスのiG60だ。
ブルーアース4S AW21

欧州で一般的なオールシーズンタイヤで、夏タイヤのドライ&ウェット性能を維持しつつ、雪上性能をプラス。日本では未発売。
圧雪ハンドリング比較

氷盤スラローム比較

氷盤制動比較
ブルーアース4S AW21
アイスガード6
【2】まとめ:非積雪地域の冬には十分
氷上制動や雪上ワインディング路で見せたAW21のグリップ力にはちょっと驚かされた。iG60には及ばないにしても多少速度を落としてやれば十分に氷雪上に対応できるグリップ性能だ。ただし、その効果は加減速において発揮され、iG60に比べると方向安定性が劣る。そこが圧雪轍等での直進保持も重視される降雪地域で使うには難点のひとつ。やはり降雪非降雪の境となる地域向けである。

冬用タイヤのタイプ別の特徴。氷雪上性能はやはりスタッドレスが最高峰だ。
【3】マッド&スノータイヤをインプレッション
ジオランダー X-CV

スーパーカー的な車種まである高性能SUVをターゲットに開発。M+S(マッドアンドスノー)規格と速度記号W(270km/h)を両立している。
圧雪ハンドリング

パイロン間隔30m/27mのコースを往復。
ドライ路面では…

11月、ドライの箱根ターンパイクで試乗。
【3】まとめ:SUVに最適なオールラウンダー
クロスオーバーSUVをターゲットに開発。H/T型、つまり高速性能を重視したSUVタイヤなのだが、降雪路対応の「M&S」規格を獲得しているのが特徴だ。乗用車用で言えばスポーティラジアルとオールシーズンタイヤの融合させたようなタイプである。本領は高速ツーリング性能の高さにあり、ドライ路面の試乗ではしっかりしたケース剛性やトレッドパターンがもたらす追従性と収束性、直進の据わりのよさ、高周波騒音を抑えた静粛性が印象的。SUV向けのアドバンdBとも言いたくなるような性能を示した。ドライ路の印象が良かっただけに反動で雪上性能に不安もあったが、そこは「M&S」規格、というか同規格でも雪上性能はトップクラス。駆動制動だけでなく方向安定もいい。正に雪の備えで悩むSUVユーザーのためのタイヤである。
【EX】興味津々、特別メニュー
■トラック/バス用タイヤの世界
加減速時のグリップ性能は当然として横滑り時のグリップ回復も早いのが印象的だった。特性はアイスガードと同様のようだ。ただし、乗用系以上に高い耐摩耗性や省燃費が求められるのも特徴である。また、後輪のウルトラワイドベースタイヤも注目。ダブルタイヤを1本にまとめた訳だが、この超ワイドトレッドはベルトを1本のワイヤーで巻き上げる横浜ゴムの特許技術によって可能となった。
■自己修復するコート剤

低温での実演だったため、お湯をかけて回復時間を短縮。
塗面に破損のない擦り傷くらいなら自己修復する塗装技術はすでに一部のクルマに採用されているが、横浜ゴムが開発した自己修復コートはポリッシュ加工が可能、つまり再塗装や修復加工が可能なのだ。また、塗面回復に必要な温度も従来品より低く、常温で十分。試しに掌で暖めたらすぐに回復したほど。ただし、経年により徐々に回復に時間が掛かるようになり、5年ほどで効果がなくなる。

■ラリー同乗走行

ADVANラリーチームの奴田原文雄選手の走りを体験。
ほどよく雪の乗った圧雪で路面状況は良好。振り込んで大スリップアングルを維持したままコーナーに進入する。4輪ドリフト状態でパワーを掛けて回り込んでいく。トラクションを旋回力に変えたコーナリングは大迫力だ。操る腕前も凄いが、滑らせながらも高いトラクションを持続するiG60の性能も驚かされた。ここまで出来るのだから多少スリップしても安心は当然、と妙に納得させられた。