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更新日:2025.08.09 / 掲載日:2025.08.08

自動車税13年問題について考える【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●ユニット・コンパス

 ご存知の通り、自動車税と自動車重量税は新車登録から13年すると、割り増しになる。この話はクルマ好きの間でよく話題になるのだが、結構いろんな要素がごっちゃになって議論されていると常々思っていた。なので今回はその議論の整理をしてみようと思う。

 ちなみに、タイトルには耳に馴染んだ「自動車税」という言葉を使ったが、実は2019年から、「自動車税種別割」という名前になっている。こういうところが役所が嫌われる要因なのだが、さも割引の様な名前を付けて、実際には割り増しされるクルマの方が少なくない。

自動車にかかる税金の種類(経済産業省「自動車関連税制」より引用)。新車登録から13年が経過すると「自動車種別割」は税額が割り増しになる

 ざっくり言えば、ガソリン車は13年経過以後はこの自動車税種別割が約15%割り増しになる。これは毎年5月に郵送されてくるアレだ。もうひとつ、車検時に払う重量税も約40%の割り増し税がかかる。重量税に関してはこの上に18年経過以後はさらにプラス10%の割り増しが適用される。合計で50%となるわけで、流石にどうかと思うところだ。

 さて、これをどう考えるべきだろうか。よく言われるのは、ドイツでは新車に長く乗ると、むしろ自動車税が割引になる制度があるという話だ。1997年に導入されたこのヒストリックナンバープレート(Hナンバー)は、新車登録から30年以上経過し、なおかつオリジナルの状態が保たれたクルマを、クルマ文化遺産を保護しているとして税優遇を与えるものだ。自動車文化先進国はかくあらねば……という議論は頻繁に耳にする。

ドイツのHナンバー制度は、製造から30年以上経過、オリジナル状態を保っている、無理なく走行可能という条件を満たしたクルマに優遇が与えられるというもの。ナンバープレートの最後の文字が「H」になっていることで区別できる

 では日本ではどうして古いクルマを冷遇しているのかと言えば、それにはそれなりの理由はある。たとえばキャブレター時代のクルマのCO2排出量やエミッションを見ると、最新のクルマと比較して、ものによっては100倍にも達する恐ろしい環境負荷がかかっている。端的に100台分の排ガスを出すとなれば捨ておけないことはわかる。

 意外に思われるかも知れないが、筆者は一定の条件付きでこの日本の割り増し税を容認するスタンスである。少なくとも10年前の時点では、CO2を含む排ガスの低減は重要な課題だったと思う。平成12年排出ガス規制(2000年)は、昭和53年排ガス規制以後もっとも基準値が厳しくなった規制だった。だからこの平成12年排出ガス規制に準拠していない古いクルマに対して、割り増しによって淘汰を進める制度は一定の評価をすべきと考えている。

 しかし、そういう環境負荷が高い古いクルマは、すでに十分に淘汰されたのではないだろうか。2025年から13年前と言えば2012年。すでにポスト新長期規制をクリアしたクルマである。もはや100倍負荷理論は成り立たない。つまり割り増し税による淘汰はすでに一定の効果を上げ、役割を終えたと考えている。

光化学スモッグに覆われた東京の街並み。工場や自動車から排出される窒素酸化物などが原因で1970年代以降社会問題となった

 2012年と言えば3代目プリウスの大ヒット中で、各社のハイブリッドがグングン普及した時期。車名別ランキングのトップ5をハイブリッドがほぼ独占していたことは記憶に新しい。バッテリーという貴重な資源を搭載したこれらハイブリッドは、生産時に高いCO2負荷がかかっている。ハイブリッドは割り増し税によって廃車を促すより、長く使った方が環境にいい。むしろリユースやリサイクルを促進しなければならない状況下で、まだまだクルマとして使えるものを政策で廃棄に持ち込むのは、基本的な理念に逆行していると考えられる。よって、そろそろこの「自動車税種別割」に引導を渡す時期が来ているように思う。

 また教科書的に言えば、税の役割には所得の移転効果もある。そういう意味では経済的事情でクルマが買い替えられないとか、中古車しか買えない人の方が担税額が多くなる制度は、本来制度設計としておかしい。環境負荷というお題目が役割を終えた今、庶民の正当な生活防衛を認めるべきだろう。これ以上この制度を続けてもそこに環境の正義はなく、むしろ自動車メーカーに忖度して、新車販売を促進しようとする霞ヶ関の太鼓持ちのお追従に見えてくるだけだ。

 もうひとつ。では例えば、ドイツのケースに見られるような、本当に歴史的価値があるヒストリックカーへの税はどうあるべきかだ。これについては、割り増し税で良いと思う。文化財の保護というのはお金がかかるもので、言ってみれば金持ちの道楽である。文化的価値があると言っても、もうひとつの面が社会に対して環境負荷をかける遊びである以上、わがままな遊びをオフセットする程度の割り増し税はむしろ進んで払うべきだと思う。

 そもそもそうした文化財レベルのクルマは維持費が掛かる。それをメインテナンスし、維持しようとするならば、どうしたって潤沢な資金が必要だ。そういう人にとって割り増し税程度は誤差のレベルだと思う。それが誤差だと思えない人はおそらくメインテナンスもギリギリで、歴史的価値の保護者としては十分な働きはできないはずだ。

 ということで、自動車を巡る税の話は、あっちもこっちも旧態化している。ここらで少しグランドデザインからの刷新を求めたい。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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