車種別仕様・中古車評価・まとめ
更新日:2018.11.29 / 掲載日:2014.10.01
【徹底紹介】フォルクスワーゲン アップ!

シンプルイズベストを体現した最小ワーゲン

環境問題の深刻化や高止まりする石油価格、そして新興国の自動車需要の急拡大。いくつもの要因が重なり、スモールカーの重要性がますます増しているのが今のクルマ界だ。
そこでVWに注目すれば、かつてポロの下に存在したのはルポだ。しかし、ルポは一代限りで消滅。その後を継いだフォックスも一部地域への導入で終わり、日本市場に姿を見せることはなかった。つまり、VWのAセグメント戦略は、やや迷走した時代があったのだ。
とはいえ、迷走の時代をバネとして、革新的なスモールカーを生み出すことができたのだから、結果としてはオーライ。そう、いまのVWのスモールカー戦略を担うのは、言うまでもなくup!(アップ)だ。
さすがにコンセプトカーで示したリヤエンジンを採用するわけにはいかなかったが、4つのタイヤを四隅に置くムダのないパッケージや、ワルター・デ・シルヴァの真骨頂といえるクリーンなスタイルは、量産型でもほぼそのまま。スモールカー界に新風を吹き込むことになった。
しかも、up!の革新はパッケージだけではない。プラットフォームやエンジン、ドライブトレーンは新開発のもので、メカも刷新されている。わずか69kgという軽量設計を誇る3気筒1Lを搭載し、ミッションはシングルクラッチ式ロボタイズドMTの5速ASGを採用する。
「なんだTSI+DSGじゃないのか?」の声が聞こえてきそうだが、スモールカーにおいては「シンプル・軽量・低コスト」がとても重要なこと。事実としてup!は、2ドアで車重900kgという軽さを実現し、プライスも低く抑えている。
そして、低速域追突回避・被害軽減ブレーキの「シティエマージェンシーブレーキ」をコンパクトカークラスではじめて導入し、全車標準としたのも大きな話題だ。ダウンサイジングの流れのなかで、安全性に不安を抱くユーザーは少なくないが、ユーロNCAPで5つ星の好成績を獲得し、自動ブレーキも採用するup!なら大きな信頼が置ける。
では、基本構成は? ボディは2ドアと4ドアの2種で、当然ハッチバック付き。4ドアに設定の「high up!」(ハイアップ)は、充実装備がウリのモデルとなっている。
文●森野恭行 写真●GooWORLD
お問い合わせ●フォルクスワーゲン カスタマーセンター TEL:0120-993-199
Detail
フォルクスワーゲン high up!(5速AT・ASG)
全長×全幅×全高 | 3545×1650×1495mm |
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ホイールベース | 2535mm |
トレッド前/後 | 1415/1410mm |
車両重量 | 920kg |
エンジン | 直3DOHC |
総排気量 | 999cc |
最高出力 | 75ps/6200rpm |
最大トルク | 9.7kg m/3000‐4300rpm |
サスペンション前/後 | ストラット/トレーリングアーム |
ブレーキ前/後 | Vディスク/ドラム |
タイヤサイズ前・後 | 185/55R15 |
新車価格
move up!・2ドア (5速AT・ASG) | 154万8000円 |
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move up!・4ドア (5速AT・ASG) | 175万6000円 |
high up!・4ドア (5速AT・ASG) | 193万2000円 |
HISTORY
2012.10 | up!を発売 新型スモールカーup!が登場。999ccの3気筒自然吸気エンジンを搭載。ボディタイプは2ドア、4ドアが設定される。 |
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2014.01 | 限定車「オレンジup!」を発売 専用色「ホットオレンジメタリック」を設定するほか、オレンジステッチのステアリングなど、全体をオレンジでまとめた1台。 |
大人4人が無理なく座れる正統派パッケージ

スリーサイズは3545×1650×1495mmと、Bセグモデルよりも全体にひとまわりコンパクト。最小回転半径も4.6mと小さめで、up!は抜群の機動力を実現している。となると、心配なのはユーティリティの実力だが……。
2420mmとホイールベースを長めに設定し、全高にも余裕を持たせたのがパッケージの肝で、大人4人が無理なく座れるスペースを確保している。トヨタは全長3m以下にこだわって変則4シーターのiQを発想したが、VWのやり方は正攻法。だれが、どんな用途で使っても役に立つスモールカーに仕立てた。実用的な4ドアだって選択できる。
だが、up!にも割り切りを感じる部分は存在する。典型的なのは4ドアのリヤドアガラスで、一般的な昇降式ではなくヒンジ開閉式を採用する。Aセグメントでは後席の乗車率は低いだけに、そこは合理的な判断と捉えるべきだろう。
そんな思想は、清々しいほどシンプルに仕立てられたコクピットにも見て取れる。だが、up!を運転していると、「クルマはこれで十分」と思えてくるから不思議なもの。機能に根ざしたデザインは、VWの伝統とも言える。そこにアクセントを加えているのはボディ色のダッシュパッド。イタリア車ほどのおしゃれさはないが、インテリアをポップに演出する決め手となっている。あえてコントラストの強いカラーの組み合わせを選ぶのもおもしろい。
後席2人掛けの4人乗りだが、シートバックの可倒方式は6対4分割となる。
ラゲッジは定員乗車時で約251Lと納得の容量を確保。後席を倒せば約951Lにまで拡大するから、意外なほど実用性が高い。
ASGのシフトセレクター。ATやCVTのようなPレンジはないが、Dレンジでは自動変速をしてくれる。手動シフトは、レバーを押してアップ、引いてダウン。アクセルの「抜く」、「入れる」のタイミングを合わせれば、スムーズな変速を決めることができる。
エネルギーロスが少ない3気筒+ASGのマッチング

4気筒と比べて小さく、軽いだけでなく、3気筒には「フリクションロスが小さい」、「実用域のトルクを確保しやすい」というメリットもある。「1Lでは3気筒がベスト」というのがVWのジャッジだ。5速ASGとの相性もよく、23.1km/Lという優れたJC08モード燃費値がそれを実証する。独特のビート感をもって3000、4000、5000回転と元気に吹け上がり、スポーティな走りを楽しませてくれるのも魅力だ。ちなみに欧州ではスタート/ストップシステムの設定もあるが、日本では未導入だ。
レーザーセンサーを使うシティエマージェンシーブレーキは、約5~30km/h未満の範囲で自動ブレーキ機能を発揮する。なお、エアバッグは前席サイドを含む4つを標準装備。
軽量ボディが効いて75馬力でも元気な走り

直噴でも、ターボでもないMPI(マルチポートインジェクション)の3気筒1Lが生む性能は、「たったの」とも表現できる75馬力/9.7kgm。でも、900kgちょっとのup!には十分で、市街地はもちろんのこと、高速道路や山道でも意外なほど元気な走りを提供してくれる。
バランスシャフトを持たない3気筒としては音振性能も優秀で、スモールカーとしては快適性のレベルも高い。それだけに気になるのはASGの変速のクセ。ダウンシフトはスムーズに決めるが、自動アップシフトにはギクシャク感がつきまとう。
とはいえ、2014年モデルでの改良で、つんのめり感は抑制されている。アクセルを抜いてアップシフトを促し、クラッチがつながるタイミングを呼んで踏み込むという技をマスターすれば、よりスムーズな変速を行うことができる。少しクセのあるものを乗りこなすというのも、クルマの運転の楽しみのひとつだ。
そしてシャシー性能。ひとクラス上のクルマに乗っているような錯覚を覚えるのは、優れた高速スタビリティと落ち着いた乗り心地がその要因だ。走りの安心感は、平均的なBセグモデルを凌ぐレベルにある。応答性、手ごたえ感とも自然な電動パワステも見逃せないポイントで、VW車らしい高いバランス性能が光る。
走り味も、スタイルも軽快なのが2ドア。パーソナルユースには最適だ。しかし、大きなドアが乗降の邪魔になるケースもある。
クルマとしての満足度ならやっぱり最上級のhigh up!
人気はやはり実用性に優れた4ドア。move up!でも装備内容は十分だが、フォグランプやパークディスタンスコントロール、シートヒーター、クルーズコントロール、レザーステアリングなどを加えたhigh up!はより満足度が高い。high up!は15インチタイヤを履くため(moveは14インチ)、走りもよりしっかりとした味付けとなっている。「ついハイペースになってしまう」、「スポーティな走りが好み」という人には、積極的に15インチ装着車や16インチを履く特別仕様車をオススメする。