中古車購入
更新日:2021.12.23 / 掲載日:2021.12.10
トヨタ 86/小型で安価なFRスポーツ【ONE MAKE MARKET RESEARCH】

文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス、トヨタ
(掲載されている内容はグー本誌 2021年12月発売号掲載の内容です)
※中古車参考価格はすべてグーネット2021年11月調べ。
「スポーツカーの灯を消してはいけない」86はそんなトヨタの想いを体現したスポーツカーだ。軽い車体に楽しい走り、そして手が届きやすい価格。まさに“みんなのスポーツカー”といっていい。
2012年式 トヨタ 86 GTリミテッド(6速MT) ●全長×全幅×全高:4240×1775×1300mm ●ホイールベース:2570mm ●トレッド前/後:1520/1540mm ●車両重量:1230kg ●排気量:1998cc ●エンジン:水平対向4DOHC ●最高出力:200ps/7000rpm ●最大トルク:20.9kgm/6400~6600rpm ●サスペンション前/後:ストラット/ダブルウィッシュボーン ●ブレーキ前後:Vディスク ●タイヤ前後:215/45R17 ●中古車参考価格帯:100万円~300万円(12年~21年 ※TRD仕様を除く)
小型で安価なFRスポーツの楽しさを教えてくれるクルマ

初代は20万台も販売し人気モデルとなった
編集部●ついに新型の「86」がデビューしましたね。そこで今回は初代の86をチェックしてみましょう。デビューは2012年2月です。
工藤●まず何がスゴイかって、この時代にトヨタが専用プラットフォームのスポーツカーを作ったってこと。昨今のスポーツカーを取り巻く環境は厳しく、昔のようにたくさん売れるわけではないからビジネスとして険しい。これは日本だけじゃなくて欧米でも同じ傾向だ。もともと販売の絶対数が少ない数千万円級のスーパーカーは話が別だけど。
編集部●たしかに、そうですよね。
工藤●でも、そんななかトヨタは「クルマの文化を考えたときに、手が届きやすい手軽なスポーツカーが絶対に必要だ」と考え、小型スポーツカーの市販化を決めたんだ。それがこの86。手が届きやすい価格を実現することがまず重視された。
編集部●なるほど。
工藤●でも、いくら値段が安くても走りが楽しくなければ意味がない。
編集部●そこでパートナーに選んだのがスバル……と。
工藤●そういうこと。86はデザインと商品企画はトヨタだが、実際の開発・設計と生産はスバルが担当している。もちろんトヨタ単独でも作ることはできただろうけれど、スバルと協業かつスバルでも「BRZ」という兄弟車を発売し開発費用を折半することで、1モデルあたりの開発費を下げられ、それが価格にも反映されたというわけ。
編集部●それはよい手法ですね。
工藤●特徴は、自然吸気エンジンでやみくもにパワーを上げすぎないこと。そしてユーザーがカスタマイズできる要素を多く残したこと。
編集部●つまりそれは、かつてのAE86型「レビン/トレノ」の再来というわけですね。
Profile 工藤貴宏:学生時代のアルバイトから数えると、自動車メディア歴が四半世紀を超えるスポーツカー好きの自動車ライター。2021-2022日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
スバルBRZと比較すると?

まず異なるのはデザイン。フロントバンパーやヘッドライト内部、そしてテールランプが異なるほか、フロントフェンダーに貼られるバッジも異なる。エンジンなどパワートレインは共通だが、サスペンションの違いで走りの味付けを変えている。

中古車参考価格帯:130万円~330万円(17年~21年)
[モデルヒストリー]
2012年2月:トヨタ86を発表

新設計のプラットフォームに水平対向エンジンを搭載した後輪駆動のスポーツカー。トヨタブランドのスポーツカーとしては、「MR-S」終了以来約4年半のブランクを経ての登場となった。
2014年2月:一部改良

ショックアブソーバーの特性見直しなど、サスペンションの改良で操縦安定性を向上。外観ではシャークフィン形状のルーフアンテナを標準装備化している。また、外装色ホワイトとシルバーの色調を変更。
2015年2月:一部改良

電動パワステの特性変更により操舵感を向上したほか、ボディ補強による車体剛性アップでハンドリングをアップ。丸型ヘッドライトで顔つきを変え、内装を上質にしたカスタムカー「style Cb」が登場。
2016年7月:マイナーチェンジ

エクステリアのリフレッシュに加え、MT車のエンジン出力向上、スポット溶接の打点増しによるボディ剛性アップ、サスペンションの改良など走行性能が引き上げられた。メーターやステアリングも変更。
2017年9月:一部改良

サスペンションのブラッシュアップ、ステアリング支持剛性の強化など、走行性能が進化。ブレンボ社製ブレーキがオプション設定されたほか、標準装着する「GTリミテッドブラックパッケージ」も登場。
2017年11月:「GR」を追加

「G’s」の後継となる「GR」が登場。車体剛性強化や専用サスペンションのほか、専用エアロパーツ、ブレーキ、鍛造アルミホイール、エキゾーストテールパイプ、レカロ製フロントシートなどを備える。
2018年7月:「GRスポーツ」を追加

「GRスポーツ」は、「GRシリーズ」のエントリーモデル。車体剛性向上と専用サスペンションに加え、専用フロントスポイラー、ブレンボ製ブレーキ、専用アルミホイール、小径ステアリングなどを採用。
[インテリア]スポーツカーのスタイルにこだわる
重視しているのは、いかにもスポーツカーらしい雰囲気。着座位置はできるだけ低くし、ハンドルの角度もほぼ垂直。シフトレバーやサイドブレーキレバーも自然に手が届く場所に工夫されている。一方でリアシートやトランクは広くないが、それはスポーツカーとしてのデザインやキャラクターを際立たせるために割り切っているからだ。


[メカニズム]エンジン技術はスバルとトヨタの融合
こだわりの後輪駆動を実現するために、プラットフォームを新設計。パッケージングもできるだけ重心を低くするように工夫されている。もちろん理由は、運動性能を高めるためだ。エンジンがターボではなく自然吸気なのは、できるだけリーズナブルな価格で提供するためであると同時に、少しでも重心を低くするためでもある。
CHASSIS

スポーツカー専用に開発し、操縦性を大きく左右する前後重量配分は2名乗車時で53対47と良好。重心高は460mmで、これは当時のポルシェケイマンの482mmよりも低いとトヨタは説明する。
ENGINE

専用設計となる水平対向の排気量2L自然吸気エンジンを搭載。スバルの伝統技術である水平対向に、トヨタの直噴機構を組み合わせることで高回転のフィーリングと扱いやすいトルク特性を実現。
AERODYNAMICS

ボディのデザインのみならず、車体底面のフラット化に努めるなど空力性能に配慮。2016年7月以降の後期モデルでは、フロントバンパーやフロントフェンダーのフィンなど細部も見直している。
相場は下がり気味だが上昇するかもしれない!?
工藤●何を隠そう。初代86はしっかり世の中に受け入れられたんだ。
編集部●生産終了までの9年間で、世界では20万台以上が販売されたそうですね。たしかに、日常的に頻繁に見かけます。
工藤●このご時世、スポーツカーが20万台以上も売れるとはとんでもないこと。日産「シルビア」の最終モデルなんて、クルマ好きからあれだけ注目されたのに4万台強しか販売されなかったんだから。トヨタの読みは当たったといってよさそうだ。
編集部●だから中古車の動きも活発です。グーネットを見ると1200台以上が掲載されていて、安い個体だと100万円を切るものもあり、予算に応じて選べますね。
工藤●800万円なんていう、思わず二度見する個体もあるけれど、これは特殊な限定モデルだね。トヨタは86をベースに、まるでレーシングカーのように仕立てたスペシャルモデルも限定で発売したんだ。
編集部●選択肢は幅広いといえます。
工藤●買い時はいつだろう?
編集部●86のようなスポーツカーは、値段が下がりにくいんです。それに、ある程度まで人気が下がった後に相場が上昇することもめずらしくありません。たとえば最近だと、Z33型フェアレディZがそのパターンです。
工藤●つまり、欲しい時が買いどき?
編集部●まさに、ですね。
[SPECIAL EDITION]より高性能化を目指したチューニングモデル
レーシングカー作りの思想と手法を取り入れた“究極の86”といえる存在が「GRMN」。スバルが生産する量産モデルとは異なり、トヨタの工場において手作業で組み立てられ、エンジンは219馬力。「GR」はエンジンと外装を除き、「86 GRMN」に近いシャシーを持つ。
GR

GRMN

[インプレッション]運転好きにオススメしたい気軽に乗れるスポーツカー
86の何よりの素晴らしさは、運転が楽しいこと。昨今はミニバンやSUV、そしてコンパクトカーなどユーティリティに優れるクルマに人気が集まっているが、86はそれらとは対極といえる存在。正直なところ実用性は低い。しかし、運転する歓びが詰まっているから、走り好きにはたまらないクルマだ。ハンドリングは軽快で素直。操る爽快感に満ちあふれている。エンジンはパワフルとは言い難いが、そのぶんアクセル全開を楽しむことができるのもいい。ハンドリングの素直さは、2016年7月以降の後期型で大幅レベルアップを感じる。
[マーケットデータ]

年式

グレード

最も豊富なグレードは、上級モデル「GTリミテッド」で全体の6割弱を占めている。次に「GT」が多い。
走行距離

多走行車両が増えており、5万km以上が全体の4割となっている。低走行車は今後希少になるだろう。
工藤貴宏が注目する86の「ココが○」
その1:手が届きやすい価格で所有できる本格スポーツカー
その2:峠道を楽しく走れるハンドリング軽快さも大きな魅力
その3:スポーツカーらしいスタイリング低さがカッコイイ