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更新日:2019.10.17 / 掲載日:2019.10.17
【ホンダ】優れた回頭性・運動性能を向上させる「舵角応動型4輪操舵システム(4WS)」とは

グーネット編集チーム
1987年、ホンダ プレリュードに採用した舵角応動型4輪操舵システム(4WS)はハンドルの操舵角などに対応して、後輪を連続的に操舵させる技術です。
ホンダと大学との共同開発を経て、車速応動から舵角応動へ変更し実現した技術です。
そもそも4WSとは?
4WSとは、「4 Wheel Steering(フォー・ホイール・ステアリング)」の略称であり、日本語に訳すと「四輪操舵」のことを意味しています。一般的なFFの車は、ステアリング操作によって前輪のみが左右に向きを変え、後輪は車全体の動きに追従するにすぎませんが、4WSでは前輪に加えて後輪も左右に向きを変えるのです。
4WSは高速度域で車両を安定させる
意外と知られてはいませんが、4WSの大きなメリットは、高速度域での車両の挙動を安定させられる点です。車は高速度域で曲がろうとするときに、遠心力が働いてしまうものです。そこで、4WSによって前輪と同じ向きに後輪の舵角がつけられることによって、車の不安定な動きを解消することができるのです。
4WSの仕組み
4WSといっても、実は「同位相方式」と「逆位相方式」の2種類の方式があります。市販車においては、どちらか一方しか機能しないということはなく、この2つを走行速度やハンドルの操舵角度によって使い分けるのが一般的です。
まず、同位相方式とは、後輪を前輪と同じ方向にすることです。先ほど説明したように、ステアリング時の安定性を高められるメリットがあります。一方の逆位相方式とは、後輪を前輪と逆の方向にすることです。これによって、コーナリング時の回転半径を小さくすることができ、大きな車でも小回りが利くようになるのです。
ホンダが4WSの開発をスタートしたきっかけ
ホンダはアメリカ交通安全局(NHTSA)が提唱した実験安全車(Experimental Safety Vehicle)計画に、準参加する形で実験安全車の研究をスタートさせました。
ホンダは予防安全という見地から操縦性や安定性などのテーマを挙げ、自動車の運動性能を向上させる4WS開発につながるアイデアを生み出しました。
ホンダはHonda車がFF車という利点が追い風にもなってこのアイデアがもし現実化すれば、運動性能はもっと向上すると考えました。
大学との共同開発を経て、正式に開発がスタート
当初、ホンダは4WSとはいっても、後輪を前輪と同方向に操舵すべきか、逆方向に操舵すべきかさえ分かっていませんでした。
そこで、4輪操舵の理論モデルを作り上げることから研究を重ねました。
その結果、高速では同方向、低速では逆方向が良いことが理論づけられました。
これにより、4WSの概念と呼べるものが明確となり、1978年に基本特許が承認され、4WSの研究が進みました。
更に同様の研究を行っていた大学と共同研究することなり、同大学のドラム式台上試験装置上でパイプフレームの実験車を使い実験することで、理論は取得したデータで裏付けられ、後輪のもっとも良い操舵比などのデータが取得できました。
次に、研究は実車テスト段階となり、フロント部分のみを連結したアコードを製作しました。このアコードのフロントとリヤの操舵を連結させるリンク機構は、小口研究室のハンドメイドでした。
実車テストの運動性能は素晴らしく、正式な開発がスタートすることになりました。
車速応動から舵角応動へ変更し、量産化へ
高速では同方向、低速では逆方向が良いことが理論上は解明されていましたが、実現するためには電子制御と可変ギア比機構を組み合わせたシステムの開発が必要でした。
このシステムはとても複雑だと考え、ハンドルの操舵角に対応して後輪をコントロールする舵角応動型4輪操舵システムを採用することになりました。
舵角応動型を実現するためには、2本のクランクを組み合わせるクランク機構を採用しました。
その後、意地悪テスト欧州の現地適合性テストや現地法人の試乗会などを経て、完成度を増し、1987年4月、新型プレリュードに4WS Systemが搭載されました。
手探りで研究が始まった4WSが、ホンダと大学との共同開発を経て、車速応動から舵角応動へ変更されました。
2本のクランクを組み合わせるクランク機構を採用し舵角応動を実現し、意地悪テスト欧州の現地適合性テストなどを経て完成度を増し、新型プレリュードに4WS Systemが搭載されたことは素晴らしいです。
4WSが採用されたホンダ車
それでは、4WSが採用された歴代のホンダ車についてご紹介していきます。
プレリュード
プレリュードは、バブル期にはシルビアと並んで若者からデートカーとして人気のある車種でした。そんな3代目プレリュードは、機械式の4WSを採用し、フロントのステリングギヤボックスから、後ろのギヤボックスに長いシャフトを通していたのです。しかもこの機械式で同位相方式と逆位相方式を切り替えており、その後の4WSが全て電子化されたことを考えても、この初期の4WSはまさにホンダだけが成しえた技術といえます。
アコード EXL 4WS
ホンダの中核を担うミドルサイズセダンが「アコード」であり、その4代目には4WS(舵角応動タイプホンダ四輪操舵システム)が搭載されていました。横置直列4気筒エンジン搭載で、「独創のワールド・クオリティ・セダン」として世界的にも評価の高いモデルになります。このように、ホンダはセダンの基幹モデルに4WSを採用してきたといえます。
なぜ4WSは広く普及しなかった?
革新的な技術といえる4WSですが、結果的に広く普及しなかったのにはいくつかの理由があります。
1つ目は、ハンドリングが不自然なものになったことと、そして内輪差の違和感から運転しづらいという評価となってしまったことです。特に、内輪差が通常の車よりも小さくなるため、小回りが利くというメリットよりも、かえって運転しづらいとの意見が多くなったのは不運な結果といえます。
2つ目として、4WSはスポーツ走行向けのシステムとして考えられていたこともあり、後輪を前輪と同じ方向と逆方向のどちらにするのかを含めて、当時の技術では制御が不完全なものとなっていました。従来型の車の挙動に慣れ親しんだユーザーにとって、4WSは違和感のある技術となってしまったのです。
近年ABSやトラクションコントロール、エンジンやトランスミッションを統合的に電子制御する技術が開発されてきました。そのような状況下では、車としてのレイアウトの制約やコストも増える4WSは、量産乗用車に採用することが難しくなってきたのです。4WSは機械的な可動部分があるため、車体構造も特殊になり、メンテナンスも複雑になってしまいます。
ただし、BMWやポルシェ、レクサスをはじめ、国内メーカーでも高級車では4WSを採用している車種が増えており、今後採用される車種が増えるかに注目です。
まとめ

グーネット編集チーム
今回は、安定性や取り回し性能を向上させる「舵角応動型4輪操舵システム(4WS)」について、その仕組みや開発の経緯、採用された車種まで詳しく説明してきました。前輪に加えて後輪も左右に向きを変える4WSには、高い速度域での安定性を高められるメリットがありましたが、ハンドリングの違和感などの理由で、最近では一般乗用車には採用されなくなってしまいました。一方、4WSを採用する高級車も出てきており、4WSが今後復権する可能性も要注目といえます。