中古車購入
更新日:2017.12.14 / 掲載日:2017.11.27
ホンダS660大旋風始まる
チャレンジングなプロジェクト

S660コンセプトエディション(238万円)
【本記事は2015年5月にベストカーに掲載された記事となります。】S660は前号でもお伝えしたが、椋本陵さんという26歳のLPL(開発責任者)がプロジェクトを推し進めた画期的なモデルだ。しかもきっかけは、2010年本田技術研究所50周年を記念した商品企画コンペで、彼の案が従業員投票でグランプリを獲得したことだ。彼は当初、もう少し緩いミドシップスポーツを考えていたようで、本来は試作車を作ることが、ご褒美だったという。ところが、それが大評判を呼び、ホンダとして世に出すならば、本格スポーツ以外にあり得ないという結論に至り、ちょうど’11年の東京モーターショーに出展され、好評を得たEV-STERのデザインを生かすかたちで開発が進んで行く。最終的にGOを出したのは伊東孝紳社長だ。シャシーやエンジンなど主要コンポーネンツごとにベテランのLPL代行を置きながらも、多くのスタッフは30代以下という若さだ。「自分たちのやりたいモノを作りたい」が、「作ってみろ!!」になったのが、今回のS660。会社としてもチャレンジングなプロジェクトというわけだ。
理想を突き詰めたパッケージング

理想を突き詰めたパッケージング若い開発者が目標に掲げたのが「世界で一番小さなスーパーカーを作ること」。そのために妥協せず理想を追い求めたクルマがS660。当然こだわりがいっぱいだ。まずはプラットフォーム。もちろん新設計だが、鼻先をできるだけ軽くして、ステアリング操作に対するクルマの動きがダイレクトで軽快になるよう、試行錯誤を重ねた。重心とロールセンターを近く、重心高とロールセンターを低くすることにこだわっている。そのために、10kg近いバッテリーはダッシュボードのロア部分にレイアウト、25Lのフューエルタンクはエンジンの前の床下にレイアウトしている。結果として前後の重量配分は前45対後55(NSXは前42対後58)と理想に近い前後重量バランスを手に入れている。その結果としてフロントはトップをロールして入れるとほとんど何も入らないが、「S」なんだから、それも許されるのだ。
軽の常識を覆すシャシー性能

専用シャシー:S660は、軽自動車のレベルを遙かに超えた専用シャシーに加え、オープンボディをまったく感じさせない剛性感のあるボディ、そして鋭いレスポンスを見せるターボエンジンが見事なバランスをみせている
軽の常識を覆すシャシー性能S660はフロントにストラット、リアにもストラットを採用するが、ストロークをたっぷりととることで、回頭性のよさを生かし切るセッティングがされている。タイヤもフロントに165/55R15、リアに195/45R16と異径タイヤを採用(ちなみにビートも異径でフロント155/65R13、リア165/60R14だった)。しかもタイヤはS660専用のヨコハマのADVAN NEOVA AD08Rというから振るっている。ステアリングはギアボックスが前輪の中心よりも前にレイアウトされ、ボディとリジッド固定。大きな横Gがかかる高速コーナリング時にも安定感を出せるよう工夫されている。そして極めつきが、オープンとは思えないくらいのボディ剛性の高さ。床下V字ブレースやセンタートンネルメンバー、フロント・タワーバー、リア・ダンパーバーといった補強部材をふんだんに入れることで、すばらしいボディ剛性を得ている。このシャシー性能とボディ剛性があってこそ、本気のオープンスポーツが楽しめるというわけだ。
型式こそ同じだが中身は違うS07A

専用チューンのS07Aエンジン:S660は、軽自動車のレベルを遙かに超えた専用シャシーに加え、オープンボディをまったく感じさせない剛性感のあるボディ、そして鋭いレスポンスを見せるターボエンジンが見事なバランスをみせている
型式こそ同じだが中身は違うS07AエンジンはS07Aと型式こそN-BOXやN-ONEと同じだが、中身は別物だ。特に大きいのがターボチャージャーの違い。新型ターボチャージャーの採用によって、明らかにレスポンスのいいものに変更されている。「シュパ」というターボのブローオフバルブの解放音も小気味いい。そのほか、スポーツ走行を意識し、ラジエターが大型化されたほか、オイルパンを斜めに深くし、常に油圧がかかりやすい設計としている。6MTは1~5速のギア比をクロスレシオ化したうえで、強化スプリングバルブを採用し、7700回転とCVTに比べて700回転上まで回るのが魅力。そのいっぽうで、2速は30~60km/hの速度域をカバーできるからワインディングロードが楽しめるセッティングだ。CVTは6MTに比べるとパンチを感じないが、スポーツモードとデフォルトモードを持ち、ドライブ・バイ・ワイヤによって、スポーティな走りと燃費を意識した走りを使い分ける。メーター横のSPORTスイッチが気分を盛り上げる。
ベストスモールスポーツカー

プレミアムスターホワイト・パール
現時点で単純にクルマ好きの視点から見ると、新鮮で面白いのはそりゃS660のほうですよ。ミドシップレイアウトからくる優れた運動性能は、軽という枠を超えてグローバル基準でもベストスモールスポーツカー。専用プラットフォーム/シャシーの利点を100%活かしている。対するコペンは、基本的にはガッチリ固めたFFスポーツの走り。しっかり強化されたボディと固めの足まわりでソリッド感は上々なのだが、攻めない人には「固すぎ」と評価されるかも。もっとオープンエアの爽快感に力点をおいて、しなやか系の足を志向してもよかったかもしれない。しかし、年月が経って最初の新鮮さが失われてくると、こういう評価は見直される可能性がある。S660というクルマ、いわゆる“実用性”は皆無といっていい。物入れはまったくないし、トップは巻き取り式だし、ロータス・エリーゼなみに走りに徹したスポーツカー。それをわかっていないとなかなか手が出せない。その点、コペンは実用性や耐候性に対する配慮が段違い。先代同様、若いユーザーのみならず子離れした高齢者がパーソナルカーとしても乗れる。ニッチマーケットで軽のスポーツカーを長く作り続けるコツをよくわかっている。何事もそうだけど、自由度が大きい時は責任も大きい。軽自動車という国内専用商品にもかかわらず、S660は専用プラットフォームのミドシップレイアウトという贅沢をさせてもらっているんだから、会社側もユーザー側も評価のハードルは高い。与えられた自由度を走りの魅力アップに全部ブチ込んだ潔さがS660の魅力なのだ。ま、このあたりの事情はコペンだってさして変わらない。既存のFFプラットフォームを使うものの、メタルデタッチャブルトップ、着せ替えボディなど、商品企画としてはきわめてアグレッシヴ。長く愛されるスポーツカーとはどうあるべきか? 先代同様、このテーマをものすごく真剣に考えているのがコペンの神髄なんでしょうね。6MTには、アイドリングストップが装着されないことで、JC08モード燃費が21.2km/L(コペンは22.2km/L)とイマイチなことや8kgとやや重いロールトップの収納がやや面倒なことなど不満もあるが、198万円という価格を考えると、若い開発者たちが目標としたとおり、小さなスーパーカーと誇れる存在になっている。
年内納車は難しいかも!?

プレミアムミスティックナイト・パール
年内納車は難しいかも!?一日40台、月産800台しか生産できないため、納期が心配なところ。あるディーラーに4月2日時点で聞いたところ、4月中にオーダーしたとしても年内に納車できるかどうかギリギリだという。予想どおり660台限定のS660コンセプトエディションは、拠点あたりの割り当てが1台もないことからオーダーできず、今のところαの6MTが人気という。なお一部ディーラーでは、納期が長引くことから5万~10万円の予約金をとるところもあるようだ。とにかく早くオーダーしないとあっという間に1年待ちなんてことになりそうだ。