輸入車
更新日:2023.02.20 / 掲載日:2023.02.20

【BYD ATTO3】あなどれない実力を備えた中国製BEV

文●大音安弘 写真●澤田和久、内藤敬仁

 国内外メーカーから新型EVの発表が積極的に行われた2022年、中国の乗用EVメーカーとして、日本初参入の表明が大きな話題となったのが「BYD」だ。先行するEVバス事業では、日本でのシェア拡大を図っているが、その知名度は高くないのが現実だ。私たちの相棒として選べるBYD車の第一弾として送り込まれたのが、ミッドサイズSUV「ATTO 3」だ。440万円の価格で、23年1月31日より販売が開始されている。

400万円台の価格と充実した標準装備に注目

ATTO3

 世間の関心事のひとつが、その価格だろう。軽EVを除き、BEVのエントリー価格帯が400万円台であるため、その価格は決して高くはない。さらに内容を見ていくと、ATTO3はモノグレードで、メーカーオプションは有償色のみ。装備内容も充実しており、大型タッチスクリーンのインフォメーションシステム、カーナビゲーション、コネクテッド機能、パノラマサンルーフ、電動テールゲート、ドライブレコーダー、後部プライバシーガラス、前席のパワーシート及びシートヒーター、空気清浄器などが備わる。もちろん、先進の安全運転支援も標準化されており、アダクティブクルーズコントロールや車線内中央維持支援機能を組み合わせた自動運転レベル2の機能を始め、衝突被害軽減ブレーキ、後側方接近車両警報、交通標識認識機能、リヤクロストラフィックアラート及びブレーキ機能、360°カメラなど積極的に搭載している。さらに給電機能のV2HとV2Lにも対応。給電対応の輸入車は限られる中、しっかりと備える点は、利便性の面だけでなく、日本の補助金制度の上でも有利となる。さらに航続距離は、485km(WLTCモード)というから実用性も高い。スペック上だけで判断すると、高コスパなEVという答えになる。

話題の中国製BEVのクオリティを実車でチェック

ATTO3

 それでは、実車を見ていこう。スタイリングは、EVらしいグリルレスデザインのフロントマスクを持つスポーティなクロスオーバーに仕上げられている。無国籍的に映るデザインだが、どちらかといえば、ヨーロッパテイストを感じる。それもそのはずで、BYDのチーフデザイナーは、アルファロメオやアウディなどで活躍したヴォルフガング・エッガーなのだ。さらに質感の高さを演出するために、ボディパネルの成形にも力を入れており、その金型は、BYD傘下となった日本の金型メーカーが手掛けている。特に流麗なラインを描くサイドパネルで、その力が発揮されているという。ボディサイズは、コンパクトにも映るが、全長4455mm×全幅1875mm×全高1615mmとしっかりとミッドサイズ級だ。

ATTO3

 その一方で、インテリアは、独自の世界観が展開される。アスレチックジムをモチーフとしたというコクピットデザインは、日本車だけでなく、欧米メーカーにも見られないユニークなもの。好き嫌いは分かれそうだが、インパクトはある。ただユニークなのは、デザインだけで機能面では、使いやすさを優先しているから、ご安心を……。

 室内空間は、程度な広さがあり、後席は背の高い人だと頭上空間が狭く感じるかもしれないが、床面と座面の高さが適切で、足元スペースも広いため、窮屈さは感じないだろう。また自慢のガラスルーフのシェードを開ければ、視界が広くなるため、後席でも開放感のあるドライブが楽しめる。ラゲッジスペースは、標準時で、440Lを確保。4:6分割の後席を倒せば、最大で1340Lまで拡大できる。ミッドサイズSUVと考えると、ラゲッジ容量は少ないが、スクエアな形状なので使い勝手は悪くない。またアクセスには、便利な電動テールゲートが備わる。

ATTO3

 コックピットに収まると、ダッシュボードが低く配置され、ガラスエリアも広いため、意外と個性的なインテリアデザインは気にならない。メーターパネルは、小ぶりのデジタルメーターに、情報を集約。最新EVにも良く見られる演出だ。対極的なのが、中央のタッチスクリーンで12.8インチと大型だ。しかもこのモニターには、ギミックがあり、なんと電動で90°回転し、縦にも横にも表示が可能。例えば、ナビを利用中は、進行方向をより遠くまで表示できるように、縦型にセットすることもできる。表示についても完全日本語化されており、日本語による対話形式での音声入力も可能。少し試してみたが、日本語表示も音声認識も自然なもの。BYDによれば、日本での表示や音声認識の仕上げも確認を行っているという。操作系では、輸入車だと少し煩わしいこともあるウィンカー操作だが、こちらは日本車と同じ右ウィンカーに変更されており、使い勝手は良い。

 性能面は、キャビン下にBYD独自のブレードバッテリーが搭載されており、そのリチウムイオンバッテリーの容量は、58.56kWとなる。航続距離は、485km(WLTCモード)と公表されている。これは他のEVだと日産リーフの上位グレード「e+」に迫る容量だが、航続距離は、ATTO3の方が少し上まわる。このため、スペック的には実用的な性能といえる。駆動方式は前輪駆動式を採用。電気モーターの性能は、最高出力150kW(204ps)、最大トルク310NmとSUVとしても不足ないものだ。

実際に乗ってみて感じたこと

ATTO3

 今回、短時間であるが、日本仕様となったBYD ATTO3に初試乗できた。ビジュアル面の違いは全くないが、昨年末に生産されたばかりの最新仕様だ。ATTO 3の走りについては、誤解を恐れずに言うならば、全く自然だ。ステアリングやペダル操作にも癖はなく、発進時も、エンジン車やハイブリッド車同様に、スムーズな加速が得られる。もちろん、高速道路など強い加速が必要な時は、アクセルを強く踏み込めば、俊敏な加速も得られる。シートの座り心地も良好で、後席でも乗り心地は悪くない。欲を言えば、高速走行時の遮音性能を高めてくれると、より快適になるだろう。

 以前、試乗した海外仕様のATTO3は、高速レーンチェンジでの初期の動きや大きな段差での衝撃などが気になったので、この点が検証できなかったのは残念だったが、ダンパーの動きなどはよりしなやかさになった感じもあるので、改善も期待できそうだ。ただBYD独自の走りの演出はなく、そつがない味付けともいえる。クルマ好きに受けるというよりも、ギアとして魅力が追求されていると感じた。

まとめ

 BYD ATTO3は、BYD最新のEVプラットフォームを採用した世界戦略車だけに、その出来も気合十分といった雰囲気だ。そして、装備や性能でも乗用車として満足できる内容だと思うが、新規参入車であるため、未知数の部分も多い。そういう意味でも、BYDの実店舗展開による販売を始め、新車保証がCEV補助金を利用した際の保有期間と同じ4年としていることや4年間のサブスクプラン、駆けつけ充電サービスも提供する新車付帯のロードサービスなどユーザーの不安を和らげる提案も多いのは、購入検討者にとって嬉しいところだろう。

 世界的なEVシフトのニュースなど話題に上ることも増えてきたが、まだまだ乗用EVは成長段階にある。まずは選択肢のひとつとして、BYDにも触れてみるべきだろう。それが自分に最適な一台を見つけるヒントにもなる。まずはEV特化で世界に勝負を挑むチャレンジャーとしてBYDのお手並みを拝見したいと思う。

この記事の画像を見る

この記事はいかがでしたか?

気に入らない気に入った

大音安弘(おおと やすひろ)

ライタープロフィール

大音安弘(おおと やすひろ)

1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。

この人の記事を読む

1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。

この人の記事を読む

img_backTop ページトップに戻る

ȥURL򥳥ԡޤ