輸入車
更新日:2022.10.21 / 掲載日:2022.10.21
【フェラーリ 296GTS】これぞイタリアンマジック!【九島辰也】
文●九島辰也 写真●フェラーリ
久しぶりのイタリアでした。10月初旬、およそ2年半ぶりのヨーロッパです。その間、ハワイや韓国には仕事で行きましたが、やはりヨーロッパはいいですね。ここ20年で200回以上は行ってましたから、もはや懐かしさで涙が出そうです。
目的はフェラーリの新型車296GTSのテストドライブ。プロサングエではありませんが、話題のモデルであることは間違いありません。というか、フェラーリからのコメントによれば売れ筋だとか。フェラーリファンはまずクローズドボディが出るとそれを買い、その後に今回のようなオープントップが追加されるとそれに乗り換えるそうです。なるほど、そう考えるとV8ミッドシップモデルはクーペの後必ずスパイダーがリリースされるのも腑に落ちます。そんな図式になっていたとは。その領域にいないとわかりませんね。
それはともかく、296GTSをトスカーナの西海岸からフィレンツェ方面へ走り、そこから北上してゴールのマラネッロまで走らせました。当然全行程トップを開けたままで。久しぶりのフェラーリのダイナミックな走りにワクワクって感じです。
あらかじめ申しますと、フェラーリは単純にクーペの屋根を開けるようなクルマつくりはしません。理由は国産車やドイツ車のような大規模メーカーとは考え方が違うからです。大量生産であればわりとシンプルにトップの造形変更で終わらせますが、フェラーリのような少数生産ではひとつのモデルを設計・生産するのにこだわりを持ちます。というか、極端な話別のクルマをつくるような意気込みとなります。なので今回もエアロダイナミクスやドライバーの耳に入るエンジンサウンドを徹底的に研究しました。試乗前日のプレゼンテーションでの熱い語りがそれを物語っています。
では、屋根ですが、素材はアルミニウム製のリトラクタブルハードトップを採用します。特徴は閉めている時はもちろん、開けても外からエンジンが見えること。この手のクルマの多くがクーペでは見えても屋根開きになると見えなくなります。アウディR8や新型コルベットもそうだったと思います。ちょっと残念ですよね。そこをブレークスルーしたのがこのクルマです。
操作はスイッチひとつで約14秒で稼働します。時速45キロ以下であれば走行中でも動かせる。また、エアロダイナミクスの向上に時間をかけただけあり、キャビンへの風の進入を最小限に抑えています。フロントウィンドウ上部から後へ流すエアフローを精緻にコントロールすることで、ドライバーの髪を乱すことはありません。頭の後ろにあるブリッジ型のスポイラーが風の流れを整えます。垂直に上がるガラスを閉めれば屋根を開けているのを忘れるくらい快適です。
実際にアウトストラーダをかなりの速度域で走りましたが、完璧です。左右の窓まで閉めれば制限速度時速130キロの道ではまったく問題なし。今回はソロドライブでしたが、これなら助手席のレディも納得していただけるでしょう。
パワーソースは296GTBと同じ2.9リッターV6ツインターボガソリンエンジンにモーターを組み合わせたプラグインハイブリッドとなります。システム合計の最高出力はなんと830cvですから驚きです。モーター付きとはいえ、V6ですもんね。もはやシリンダーの数は当てになりません。ちなみに、モーターのみで25キロの走行が可能となります。今回はスタートしてしばらくの市街地と、ゴール間際のマラネッロの街中でそれが多用されました。こちらがEVモードを選択することなく自動的に。この辺のコンピューターの制御はお見事ですね。フェラーリにとってEVモードはおまけではなく、実用性の高いものと言っていいでしょう。音が静かなのは当然ですが、その間ガソリンが減らないのは助かります。
それじゃV6ツインターボの仕上がりはどうかというと、かなり秀逸。どのスピード域からも気持ちよく吹け上がり、ステキなサウンドを奏でます。開発陣によると目指したのは自然吸気12気筒エンジンの乾いた音だそうです。“the little 12”というあだ名でそこを煮詰めました。確かに運転していて後ろから聞こえるエンジン音+排気音はそんな感じでした。アクセルの踏み込みに対し、気持ちよく回りながらリニアなサウンドが広がります。ただ、どうしても過給器の空気の流れる音はしますけどね。まぁ、そこはツインターボですから現実にはこのままでいい気がします。
ということで、久しぶりに訪れたイタリアで296GTSを試しました。やっぱイタリアの旧市街にフェラーリは似合います。最先端のテクノロジーを載せていても見事に調和します。イタリアンマジックってところでしょうか。次の試乗は日本かな。296GTSの似合う場所を見つけに日本中を旅したくなりました。