車の歴史
更新日:2022.07.06 / 掲載日:2022.07.01
【スズキ スイフトスポーツ特集】世界に誇れる身近なスポーツカー【歴史・改良遍歴】

文●大音安弘 写真●スズキ
今や稀少となった国産ホットハッチのスズキ スイフトスポーツは、幅広い世代から支持される身近なスポーツカーだ。その人気の秘密は、手頃な価格でありながら、スポーツカーを名乗るに相応しい性能を備えていることにある。スイスポの愛称で親しまれる同車の歴史を振り返ってみよう。
【初代:H01系】ジュニア世界ラリー選手権に出場するためのベースモデル

スイフトスポーツは、公式では現行型が3世代目として語られているが、正確には、2000年登場の初代スイフトをベースとしたモデルが原点。今回は、このモデルを初代としてカウントしたい。初代スイフトは、ワゴンRプラスのプラットフォームを使い、軽クロスオーバーである「Kei」の外装パーツなどを流用して生まれた高コスパの実用車であった。スズキは、この初代スイフト(海外名:イグニス)をベースとしたジュニア世界ラリー選手権(JWRC)参戦するための競技専用車「イグニス スーパー1600」を開発した。そのイメージと技術的なノウハウが反映されたスポーツモデルとして、2003年6月のスイフトの一部改良共に、発表された。エクステリアの特徴は、日本非設定の3ドアボディにオーバーフェンダーを含む専用のエアロパーツを組み合わせたホットハッチに仕上げられ、ラリーマシンを彷彿させるホワイト塗装のアルミホイールが装着されていた。インテリアには、レカロ社と共同開発による専用フロントシートや本革巻きステアリング及びシフトノブ、カーボン調のインパネ加飾などを取り入れていた。さらにメカニズムは、アルミ鍛造ピストンを採用した専用チューニングの1.5Lエンジンとクロスレシオ化させた5速MTを組み合わせ。操作性を高めるショートストロークのギアシフトも装備した。エンジンスペックは、最高出力115ps/6400rpm、最大トルク143Nm/4100rpmとした。足元も抜かりはなく、15mmのローダウンとなる専用チューニングサスペンションや専用パッドを装着した4輪ディスブレーキなど、安価な実用車であることを忘れさせる全面的なアップデートが図られていた。しかし、最も驚くべきは、その価格だ。これだけの内容を盛り込みながら、119万円の価格を掲げていたのである。まさに誰でも買えるスポーツカーとして送り出されたのだ。ただ当時は、高出力なスポーツカーが人気の中心だったため、チープな実用車のイメージが付き纏うスイフトスポーツの有難さを理解できた人は少なかった。
【2代目:Z01系】世界戦略車となったスイフトをさらに鍛え上げた

2004年11月、ベースとなるスイフトがフルモデルチェンジを行い、2代目に進化。この際、海外向けモデル名であるイグニスが廃止され、世界でスイフトの名で統一。さらに走りの質感を重視する欧州市場での活躍を願い、大幅な進化を遂げた世界戦略車のスイフトとして生まれ変わっている。そのデビュー翌年となる2005年9月15日、2代目スイフトスポーツが登場した。もちろん、ベースは全面刷新された新型スイフトである。初代同様に、各部のアップデートを図ってスポーツカーに仕上げている点も同様だ。ボディタイプは、国内向けスイフトと同様の5ドアボディが採用され、専用エアロで武装。アルミホイールも専用デザインの16インチ仕様となる。マフラーは、2本出しとなり、リヤスタイルの迫力を増していた。インテリアでは、新たなヘッドレスト一体式のスポーツシートを標準化。初代同様に専用開発のレカロ製シートがオプションとして用意された。メカニズムでは、100㏄アップとなる1.6L直列4気筒DOHCエンジンに換装。同エンジンも専用品で、鍛造ピストンやアルミ製インテークマニホールドを採用し、油圧上昇を抑える水冷式オイルクーラーも採用された。注目のスペックは、最高出力125ps/6800rpm、最大トルク148Nm/4800rpmまで向上。ハイオク化もトピックのひとつである。トランスミッションは、5速MTに加え、4速ではあるものの、待望のATが追加された。当時話題となったのが、サスペンションに、欧州メーカーが手掛けるダンパー「モンロー」を採用したことだ。当然、通常のダンパーよりもコストアップに繋がるため、安価なスポーツカーであるスイスポの走りへの拘りを感じさせるポイントとして注目されたのだ。さらにホイールハブ径の拡大やホイールボルトの5穴化。リヤサスペンション取付部の強化など、細やかなアップデートも施されていた。2007年5月の一部改良では、通称2型と呼ばれる仕様に進化。主な改良点は、MT車の1速と2速をクロスレシオ化し、最終減速比をローギア化することで、加速性を向上。また非採用であった横滑り防止装置(ESP)が全車標準となった。また高回転域の性能を高めるべく、バルブスプリングとカムシャフトが改良され、レッドゾーンが引き上げられている。さらにサスペンションチューニングの見直しも図られた。外観上の差別化として、この2型以降のモデルでは、LEDウィンカーがドアミラーに内蔵されていることがある。2009年5月の一部改良では、最終仕様となる通称3型に進化。ただ2型でのアップデートの大きさもあり、性能面の進化はなく、シート表皮とアルミホイールのデザインが変更されたに留まる。細かい点では、アルミホイールは従来型よりもわずかに軽量化が図られていたことが挙げられる。
【3代目:Z02系】シリーズ全体を牽引するイメージリーダーに成長

第3世代のスイフトは、2010年8月26日にフルモデルチェンジを実施。それから約1年3か月後となる2011年11月26日に、スイフトスポーツも3世代目へと切り替えられた。ボディタイプは、2代目同様に5ドアのみとなる。ベース車のポテンシャルアップから、更なる高性能化が図られている。スイフト自体が走りの良いコンパクトカーとして受け入れられたことで、モデル全体でスポーツ色が強められ、その象徴であるスイフトは、よりスポーティなデザインに仕上げられた。エンジンは、2代目同様の1.6L直列4気筒DOHCを継承しているが、可変吸気システムの採用や各部のチューニングを煮詰めることで高出力化を実現。ハイオク仕様も継続することで、最高出力136ps/6900rpm、最大トルク160Nm/4400rpmまで性能を向上された。トランスミッションは、MTが、2速から5速までをクロスレシオ化させた6速仕様に。さらにATが4速からパドル付き7速MTモードCVTに変更されたことで、どちらのトランスミッションでも、スポーティな走りに応えられるようになった。好みの分かれるCVTだが、メカニズムの進化もあり、AT派のオーナーやファミリー層からの支持が高まるきっかけとなった。足回りは、17インチ化に加え、リバウンドスプリングを採用したフロントサスペンションと旋回時の安定性を高めた専用リヤサスペンションを採用し、ダンパーは、継続してモンローを採用。強度アップと軽量化にも力を入れ、バネ下重量の低減も図られていた。また当時、搭載率が高まってきたキーレスプッシュスタートも標準化した。第3世代のスイスポは、完成度が高かったことも有り、公式でアナウンスされる改良点はなかった。またベース車のスイフトでは、特別仕様車「RS」の登場がトピック。これは欧州仕様の足回りとエアロパーツを備えたモデルで、スイスポの弟分といえる存在だ。性能面では及ばないものの、より手頃な価格でスポーティな走りが楽しめると、人気を呼び、特別仕様車ながら、モデル末期まで設定が継続されたほど。この「RS」シリーズは、現行型スイフトでは、カタログモデルへと発展している。
【4代目:Z03系】3ナンバー化によってよりワイドに、ターボの搭載で性能もアップ

現行型となる第4世代のスイフトは、2016年12月27日にフルモデルチェンジを発表。新型スイフト登場後に設定されるスイスポも、翌年となる2017年9月13日にフルモデルチェンジを行った。ベース車が全面刷新されたことも大きなトピックであるが、スイフトは、それ以上の大幅な進化を見せた。ボディは、5ドアであることは先代同様だが、シリーズ初の3ナンバー化を実現。エクステリアもよりグラマラスとなり、デザイン面でもスイフトの独自性が強められた。最大の注目点は、やはりシリーズ初となるターボエンジンの搭載だ。歴代モデルは、全て自然吸気仕様だったのに対して、現行型では、エスクードなどで搭載例のある1.4L直列4気筒DOHCターボとした。元々パワフルなエンジンではあるが、そこはスイスポだ。ハイオク仕様化に加え、点火制御とターボ過給圧制御に専用チューニングを加えることで、最高出力140ps/5500rpm、最大トルク230Nm/2500~3500rpmを発揮。シリーズ最強スペックを身に着けた。サウンドにも拘り、エキゾーストサウンドのチューニングも実施されている。トランスミッションは、先代同様に、2速~5速をクロスレシオ化させた6速MTに加え、ATもトルコン式ATに戻され、6速化。もちろん、パドルシフトとMTモードを備えている。足回りも専用チューニングを加え、各部を強化。伝統となったモンローのダンパーも継承されている。3ナンバー化と高性能化を図りながら、エンジン排気量が1.4Lにスープダウンされたことや軽量を持ち味とする新世代プラットフォーム「ハーテクト」の採用で、車両重量は、MT車が970㎏、AT車が990㎏といずれも1トン未満となっており、お財布にも優しい点も見過ごせないところだ。また時代のニーズである先進安全運転支援機能を採用し、「セーフティパッケージ」としてオプション設定。この機能を装備すると、MT車でも衝突被害軽減ブレーキを装着されるのも大きな特徴であった。最新仕様となる2020年5月の改良では、「セーフティパッケージ」の機能が強化され、標準装備となっている。
まとめ
トヨタGRヤリスの誕生により、ホットハッチと呼べるモデルの選択肢は増えたものの、身近なスポーツカーと呼べるのは、やはりスイスポくらい。200万円前後という現実的な価格で、この性能が手に入るのは、驚異的だ。もちろん、価格を抑えながらも、お値段以上の価値があることは言うまでもない。身近な実用車を得意とするスズキだからこそ実現できた特別な一台といえよう。