車のエンタメ
更新日:2025.07.10 / 掲載日:2025.07.10
生産・販売中止となったら、急に惜しくなる……そんな名車たち
去るクルマ、来るクルマ
新車購入ができなくなるのは少し寂しいけれど……今後は違う形でまた巡り会える!
自動車メーカーからは毎年新しいクルマが登場する。
デザインが刷新され、最新技術が搭載されたそれらのクルマたちは、大なり小なり注目を集めている。
その一方で、華々しく登場してから月日が経過し、やむを得ない事情で生産・販売を終えるクルマも存在する。
特に2025年は、生産・販売の終了が惜しまれるクルマたちが多い。
そこで本特集では“去るクルマ”のなかから個性の異なる3台をピックアップ。改めてその魅力を紹介しよう。
写真:茂呂幸正(レクサス RC/SUBARU レガシィアウトバック)、木村博道(スズキ スイフトスポーツ)
(掲載されている内容はグー本誌 2025年7月発売号掲載の内容です)

惜別の名車をいま一度味わう

設計が古くなったモデルを見直す過渡期が来ている
いろいろな車種が2025年に生産を終える。廃止の理由は車種ごとに異なるが、全体的な傾向として、最近では設計の古い車種が増えていた。たとえば、GT-Rは発売から18年、エルグランドも15年が経過。クルマのつくりが古いと、やはり販売にも影響が出る。安全装備などに関する新しい法規への対応が求められ、販売を続けるには多額のコストを費やす必要もある。そのため売れ行きの下がった古い車種は、投資対効果が乏しいと判断される。
また、ハイブリッドやプラグインハイブリッド車が増えていて、今後は電気自動車の新規投入も活発になる。その一方で国内の新車販売台数は、年間450〜500万台前後で推移し、1990年の778万台と比べると60%前後に留まる。車種を増やしても売れ行きが伸びる見込みが乏しく、新しい仕様のクルマが登場すれば、古い車種が新車市場から退場するというのが当然の流れだ。
この状態になると、中古車が従来以上に大切になる。特にGT-RやGRスープラといったモーター駆動を採用しない高性能スポーツカーや、レクサスRCのように、V6の3.5ℓやV8の5ℓ(RC F)といった大排気量エンジンを搭載したモデルは中古車でないと買えない時代になっている。中古車市場にこれらのクルマが来ることは、購入時の選択肢が増えて喜ばしいことだが、価格高騰につながる可能性も否めない。
文:渡辺陽一郎

ほかにもこんなクルマたちが2025年に去っていく

1997年に発売された初代は、上級Lサイズミニバンの先駆け。アルファードに販売面で水をあけられたが、2026年度に新型が登場予定で改めてトップの座を狙う。

現行型カローラは3ナンバーになったが、5ナンバーサイズのアクシオ&フィールダーも並行して販売された。視界の優れたコンパクトなボディは運転しやすい。

2007年の発売以来、最高峰の国産スポーツカーとして君臨。V6 3.8ℓツインターボは最高出力が570ps(NISMOは600ps)。独自の4WDで走行安定性も抜群に高い。

「図面を引いたのは主にBMW」という、めずらしい共同開発車で、メカニズムはBMW・Z4と共通。直6 3ℓターボのRZは後輪駆動スポーツの魅力を満喫できる。
LEXUS RC【レクサス・RC】
まだまだ一線級の魅力を放つ景色に映えるラグジュアリークーペ
RCはレクサスブランドのミドルサイズクーペで、エンジンを縦向きに搭載する後輪駆動車。プラットフォームは、すでに販売が終了しているGSや現行型のISと共通点が多く、全長47000㎜、全幅は1840㎜、ホイールベースは2730㎜でISよりも短く収まる。プレミアムブランドの後輪駆動車のなかではボディがさほど大きくなく、最小回転半径も5~5.2mだから、混雑した街なかや曲がりくねった峠道でも運転しやすいといえる。
RCらしさを味わうなら、動力性能の高い3.5ℓの350をオススメしたい。近年では、小排気量ターボ車が増えたが、350は大排気量とあって、低回転域から高い駆動力が発揮される。クーペながら後席にもやや余裕があり、近い距離であれば大人4名の乗車も可能だ。
このようにRCは日常でも使いやすいモデルだが、2024年における国内の1か月平均登録台数は約60台(RC F含む)に留まった。この数はレクサスNXのわずか3%程度。 発売から11年が経ち、室内のつくりは豪華だが、少し古くさい印象は否めない。最近はレクサスでもGXやLBXといったSUVが増えており、今後は電気自動車もラインアップに加わっていくことから、RCを廃止する決断に至ったというわけだ。
文:渡辺陽一郎

[レクサス]RC350 “Final Edition”
FRプラットフォームの基本性能を極限まで磨き上げ、重厚感のある車両安定性と切れ味のよいハンドリングを実現。クーペの美しいスタイルがどのようなシーンにもマッチする。
新車価格:666.0~767.0万円 中古車価格帯:173.5〜870.0万円

★RCの歩み
生産・販売期間 2014年〜2025年11月
販売台数 約13,720台(2025年5月末)
モデル変遷
●2014年10月23日 RC・RC Fを同日発売→●2015年9月 RC・RC Fともに一部改良→●2016年8月 RC・RC Fともに一部改良→●2017年11月 RC・RC Fともに一部改良→●2018年10月 RCをマイナーチェンジ→●2019年5月 RC Fをマイナーチェンジ→●2020年9月 RC・RC Fともに一部改良→●2022年12月 RC・RC Fともに一部改良→●2025年1月16日 生産終了を発表
※2025年11月生産終了。注文が11月までの生産台数に達した時点で販売終了。



全長のわりにはホイールベースが長く、前後重量配分の優れた後輪駆動のクーペとあって、よく曲がり後輪の接地性も優れている。運転の楽しさを味わえるうえに、先進安全装備も備える。スポーティながら上質でリラックスできる運転感覚もRCのよさだ。
SWIFT SPORTS【スズキ・スイフトスポーツ】
実用車ベースながら独自の個性を発揮。力強い走りと操る楽しさは唯一無二
公式では3代。スイフトスポーツは約20年の長きにわたって貴重なスポーツハッチバックとして愛されてきた。
それが生産終了になると聞いて涙した人も多いのではないだろうか。現行型(ZC34)での設定を望む声も聞かれるが、結論から言うとZC33S型にて終了となる。次期型については不明瞭で、特別仕様車「ZC33Sファイナルエディション」がまさに最後を飾るモデルとなる。
終了となる理由はスポーツモデルに付いてまわる排ガス規制問題が大きい。スイフトスポーツは世界で愛されるグローバルモデルだけに、現地の規制に合わせるのがさらに困難。さまざまな規格に対応するとなると、コストがかさむのは間違いない。
実用車ベースで“ワクワクするスポーツハッチ”というのがスイスポのキャラ。当初はWRC参戦もあってエンジンには鍛造ピストンを採用していたし、ダウンサイジングターボをスポーツに振るなど、スズキの本気度が全開。他社を含めても稀有な存在のため残念でならない。
同様に実用車ベースだったアルトワークスも今や消滅。安全性能も含めた各規制をパスするのは大変だろうが、ベース車ありきならではの低コストでの開発も可能だけに、なにかしらの形で復活してほしいものだ。
文:近藤暁史

[スズキ]スイフトスポーツ(ZC33S型)
ちょうどいいサイズのボディは、剛性の向上と軽量化を高い次元で両立。自分の手足のような感覚で一体感のある運転を楽しめるスポーツハッチ。ぜひ復活してもらいたいモデルだ。
新車価格:232.98〜245.41万円※ 中古車価格帯:98.5〜390万円 ※特別仕様車「ZC33S Final Edition」

★スイスポの歩み
生産・販売期間 2005年〜2025年11月
販売台数 スイフトスポーツ単体の台数は非公表
モデル変遷
●ZC31S型(2005年9月〜2010年9月まで)▶MT車は10月28日から販売→●ZC32S型(2011年11月〜2016年12月)▶MT車は12月13日、CVT車は2012年1月27日から販売→●ZC33S型(2017年9月20日〜2025年11月)▶1.4ℓエンジンへのダウンサイジングターボ化
※スイフトスポーツの標準車は2025年2月に生産を終了。特別仕様車「ZC33S Final Edition」は2025年3月〜2025年11月の期間限定生産。



先代、先々代型よりはマイルドになったとはいえ、足まわりは硬めでかなりスポーティな味付け。FFでもよく曲がるのもスイスポの伝統だ。エンジンもターボラグがなく、タイトコーナーでスピードが落ちてもストレスなく立ち上がり、加速するのはとても爽快。
LEGACY OUTBACK【SUBARU・レガシィ アウトバック】
時代の先駆けとなった存在。全方向に高い実力を誇る名車
2代目レガシィツーリングワゴンの派生モデルとして登場したアウトバック。当初、アウトバックは輸出モデル名で国内仕様ではグランドワゴン、ランカスターと呼ばれていたが、2003年10月に「アウトバック」に統一された。
レガシィ自体がステーションワゴンの先駆者だが、アウトバックも同様にワゴンベースのSUVの先駆けで金字塔ともいえる。SUVという言葉がまだない時代に、ただでさえ使い勝手がよく、走破性も高いレガシィの持ち味をさらに高めたのがアウトバックならではの存在価値だった。今や当たり前になったアイサイトの起源となるADAと呼ばれるシステムが初採用されたり、水平対向6気筒モデルがあったりと、単なる派生モデルではなかった。
ただし、ワゴンがベースのモデルゆえにSUV全盛の時代ともなると、やはりユーザーはよりSUVらしいスタイリングを求めた。加えて、北米市場重視でボディが大きくなったことも向かい風になった。身内でもクロストレックやレイバックというライバルが増え、純粋なSUVならフォレスターもあるとなると、存在意義が薄れるのも致し方なしか。
今後、復活は無理でも、安定した走りと使い勝手のよさは、ぜひ同社のモデルに継承&進化させてほしい。
文:近藤暁史

[SUBARU]レガシィアウトバック(現行型・BT系)
ツーリングワゴン生産終了後もレガシィの牙城を守ってきたワゴンベースのSUV。高いボディ剛性により、キャビンに伝わる振動や騒音が大幅に低減。さまざまな条件のもとでも静かで快適な運転を楽しめる。
中古車価格帯:292.1〜586万円

★アウトバックの歩み
生産・販売期間 2003年〜2025年3月
販売台数 約23,500台(BT型)
モデル変遷
●BP系(2003年10月〜2009年)▶世界統一の「アウトバック」に改称し、モデルチェンジ→●BR系(2009年5月〜2014年)→●BS系(2014年10月〜2021年3月)→●BT系(2021年10月〜2025年3月)▶日本国内におけるレガシィシリーズは1989年の登場から36年という歴史の幕を閉じた。
※2025年3月に日本仕様の受注を終了。販売店の在庫販売対応のみ。



レガシィツーリングワゴンの車高を上げてSUV化しているだけに、ストロークはたっぷりで懐の深い乗り味が楽しめる。荒れた路面でも不安はまったくないし、高速道路でもレガシィ譲りの安定した走りを披露する。まさにSUVとワゴンのいいとこ取りの1台。
平成から“令和時代のクルマづくり”へ
時代が求める基準や技術をクリアしたクルマがますます主流に!

平成から令和へと時代が移り変わり、クルマの価値が大きく変わった。その背景には環境と安全への意識が高まり、それらに求められる基準がますます厳しくなったことがある。一方で、デジタル技術や通信機能を使うことで、クルマの魅力が高まることも期待されている。こうしたクルマを取り巻く環境変化を予言したのが、2016年に発せられたCASE(コネクト・電脳化・サービス・電動化)なのである。
CASE革命では、従来の技術や製造法の延長線では解決できない課題がある。そのひとつが電動化。エンジンを主とし、モーターを従とするハイブリッドが日本の強みであるが、これからはモーターが主で、エンジンが従とならなければいけない。
エンジンにとって厳しい規制は燃費ではなくむしろ排ガス規制。欧州ユーロ7という規制が2026年に適用され、従来よりもPM規制(NOx[窒素酸化物]やPM[粒子状物質]の排出基準が厳しくなる)が強化される。この規制ではターボエンジンは使いにくいので、エンジン燃焼はストイキ(理論空燃比)で燃やす必要がある。結果、排気量を増やす自然吸気にシフトするだろう。しかし、そのままでは燃費が悪化するため、モーターを積極的に使う次世代ハイブリッドが必要となる。
次世代の環境技術適応に積極的なメーカーもある。マツダは次期型CX-5にスカイアクティブZという先進的なエンジンを開発している。これはノンターボで2.5ℓに排気量をアップし、排ガス規制と燃費向上の両立をねらうエンジンだ。
電気自動車(バッテリーEV)にすれば問題は解決できるのでは? と思うかもしれないが、ひと筋縄ではいかない。クルマの資源調達から製造・利用と廃棄までのライフサイクルで評価すると、電気をどのように作るか、バッテリー製造時に生じるCO2の排出も気になる。欧州を中心に2027年頃から電池規制法やバッテリーパスポートという新しい基準や制度も施行される。つまり、どんなパワートレイン(エンジン車/ハイブリッド車/電気自動車)を選んでも、クルマづくりは昔ほど容易ではないだろう。
安全性能ではADAS(先進運転支援システム)が重要になるが、その実現のためには、センサーやソフトウェアにも今まで以上に高度な技術が必要とされる。知能化は避けて通れないが、開発は簡単ではない。
こうした変化は令和の宿命なのかもしれない。まさに「去るクルマと新しく生まれるクルマ」が交錯する時代が訪れているのだ。
文:清水和夫
日産の新型電気自動車「マイクラ」。今後、各メーカーが電気自動車を投入していくなかで、バッテリーの製造や電力を生み出す過程でCO2の排出をどの程度に抑えられるかも課題となる。

評論家のみなさんに聞いてみました“去っていくクルマ”たちへの想い
高級ミニバンの代表格だった頃が懐かしい
近藤暁史
新車から旧車、メンテナンスまで、幅広いジャンルを網羅し、編集&執筆を行う。日本自動車ジャーナリスト協会会員。


日産 エルグランド
ついに新型をチラ見せ、日産復活の起爆剤になるか? と盛り上がる反面、まだあったのか、エルグランドよ……とも思う。改めて乗ってみるとナビ画面が荒いけど、大筋は悪くない。アルファードがよすぎるだけ。逆に程よい高級感は好印象。しかも400万円からだ! 高級ミニバンとはなんぞや? を教えてくれた思い出のクルマ。
現行型カローラとの併売期間の長さが実力の証
渡辺陽一郎
数多くのクルマをしっかり試乗。その経験値に基づきクルマとその周辺情報を分析するユーザー目線の自動車評論家。


トヨタ カローラアクシオ&フィールダー
カローラアクシオ&フィールダーが3ナンバー車の現行型カローラとの併売を開始したとき、開発者は「新型との併売期間は2年程度」と述べた。しかし実際は6年間も併売が続けられた。視界の優れた運転しやすいボディ、3ナンバーの現行型を上まわる後席の足もと空間など、日本のユーザーに寄り添った商品開発には好感が持てる。
スイフトスポーツの生産中止はなんともさみしい限り……
清水和夫
言わずと知れたモータージャーナリスト界の重鎮。執筆だけでなく、さまざまなフィールドで活躍の場を広げている。


スズキ スイフトスポーツ
ホンダのNSXやS2000というエンジン性能が売りのスポーツカーが2000年代に相次いで生産中止となった。これは排ガス規制が主な理由。規制が先送りされていたら、高性能エンジンが今でも楽しめたはず。近年はターボエンジンにも逆風が吹いている。スイフトスポーツが生産中止となることは、時代の流れとはいえさみしい限りだ。
まとめ
去っていくクルマたちは中古車として購入できるので
残念ながら生産・販売終了となる背景にはそれぞれ異なる理由があるが、試乗した3台はどれも個性的な魅力を持つクルマということに違いはなく、あわよくば、今の時代に適合した形での復活を期する存在だった。新車購入はできなくなってしまうが、次は中古車市場に“去った”クルマたちがやって来る。今後は流通台数などの要因により、中古車相場の変動も予想されるが、それにより購入しやすくなるのか、あるいは手を出しにくい高値の存在となってしまうのか、動向をチェックしていきたい。
