車のエンタメ
更新日:2023.02.27 / 掲載日:2023.02.27

はたらくクルマ図鑑「都営バス」のヒミツ2

東京都民の移動の足として“はたらくくるま”が、東京都交通局の都営バス(通称:都バス)だ。そんな都営バスの最新の車両である燃料電池バス「SORA」の内容から、都営バスが有する車両、メンテナンスの様子までをレポートしよう。

●取材・文:鈴木ケンイチ ●写真:東京都交通局、トヨタ自動車(株)、鈴木ケンイチ ●東京都交通局 https://www.kotsu.metro.tokyo.jp/

2つのFCスタックと2つのモーターで走る 燃料電池バス「SORA」

全長 10525mm
全高 3350mm
全幅 2490mm
車内右側(写真左側)に、未使用時に自動的に座面が格納される、自動格納機構付き横向きシートを採用。
少しでも車両重量を軽くするために「SORA」には、アルミホイールを装着する。そのためホイールを傷つける雪用チェーンを使わずに、冬場はスタッドレスタイヤを利用する。

●トヨタ 燃料電池バス「SORA」 
主要諸元 寸法:全長10525×全幅2490×全高3350mm 定員:79名 トヨタFCスタック(個体高分子形) 最高出力:114kW(155PS)×2 交流同期電動機(モーター) 最高出力:113kW(154PS)×2 最大トルク:335Nm×2 高圧水素タンク:70Mpa×10本 タンク内容量:600リットル 駆動用バッテリー:ニッケル水素 電源供給能力:最高出力9kW・供給電力量235kWh

運転席まわり

①「SORA」が装備するディスプレイ。車両周囲の状況を表示する日本初の視界支援カメラシステムだ。②運行パターンを表示し、バスが現在、どこを走行しているかを確認する。③「SORA」の操作用スイッチ。車高の上下やフォグランプ点灯などを操作。④バスの前後の扉を開閉するスイッチ。⑤始発スイッチ。車内放送や次停留所表示は基本的に自動だが、始発だけは手動で行う。⑥車内の室内灯のスイッチ。⑦パーキングブレーキ。⑧シフトノブ。
「SORA」は変速のないモーター駆動で走行することもあって、ペダルは2つになる。
車両の周囲と車内を確認するため、運転席周りにはミラーが11個も装備されている。
運転席の右側には、扉の開閉や停留所情報を表示・放送するためのスイッチが設置される。

FCスタックまわり

FCスタックと水素タンクは、車両の天井に配置される。駆動用のモーターは後輪の後ろ側に搭載される。FCスタックは2系統あり、天井に前後違いに配置されている。モーターも2つで、それぞれ出力はデフで一つになって、後輪を駆動する。⑤のエアクリーナーから外気(酸素)を導入し、③のエアコンプレッサーで圧縮。①のFCスタック内で水素と外気の酸素を反応させて直流370Vで発電。④で電圧を直流650Vにまで昇圧させる。
天井部を前から見たところ。車両の天井の前側に水素タンクを搭載し、真ん中に冷却系、後ろ側にFCスタックを搭載する。
車両の後ろのメンテナンスハッチを開けたところ。バスの24Vバッテリー系統と、FCスタックを制御する乗用車と同じ12Vバッテリー系統の2つを搭載する。
天井部に搭載される水素ボンベ。ボンベから出ている細い管に水素が通る。点検では、その接続部すべてで漏れがないかをチェックする。
天井部に多くの機器を搭載する燃料電池バスを整備するために、高所作業車が導入された。200㎏までの作業員などを載せて、最大4.55mの高さまで作業が可能となる。

水素の漏れとボンベの点検、高所での作業が特異なところ

 東京都は今、水素社会実現に向けて様々な施策を実施している。そのひとつが、燃料電池バスの導入だ。

 2017年3月の最初の2台の導入を皮切りに、着実に導入を進め、2020年には導入70台を達成。2024年度までに、トータルで80台の導入・運行を予定している。

 「SORA」に使われているFCスタックとモーターは2つずつある。簡単に言ってしまえば、燃料電池自動車「MIRAI」の中身を2台分使ってバスに仕立てたのが「SORA」というわけだ。

 水素ボンベとFCスタックを天井部に設置し、2つのモーターは後輪の後ろに配置しているのだ。

 燃料電池バスは、エンジンがないため、静かで振動が少ない。そして、アクセルとブレーキの応答性が良いため、運転手的には、非常に扱いやすいという。

 一方で、都営バスの営業所に水素ステーションが存在しないため、近隣の水素ステーションを使う必要がある。水素ステーションへの回送時間や手間、場所的な限定などが課題となっているという。

 整備に関して特に他のパワートレーンの車両と異なるのが、水素の導管・継手部のガス漏れと損傷、ガス容器取り付け部のチェックだ。また、天井部に点検の必要な機器が数多くあるため、高所作業車を利用するのも燃料電池車「SORA」ならではの特徴だという。

●お邪魔したのは……東京都交通局の自動車工場

取材に伺ったのは、東京都江東区の東雲庁舎にある東京都交通局の自動車工場だ。車検を行える指定工場として、一手に都営バスの車検を請け負っている。深川自動車営業所も併設されており、広大な場内には、教習のためのコースも用意されている。

都営バスを示す、Tを模したヘッドマークは、1989年に制定された。車両が廃車になってもヘッドマークは取り外されて使い続けられる。
車検とその整備だけでなく、各営業所では対処できない大きな修理もこの自動車工場で行う。また、新車から7~8年目のリフレッシュ作業も実施する。
自動車工場では、整備士ひとりずつに専用の工具箱が用意されている。高さを調整できる特注品で、1990年ごろから代々受け継がれて使われている。
敷地内には、教習用のコースも用意されている。地面の白い線がコースだ。教習専用のバスは、カラーリングが異なり、白ナンバーとなる。
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ライタープロフィール

内外出版/オートメカニック
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