故障・修理
更新日:2018.08.21 / 掲載日:2018.08.21
W123復活大計画 「エンジンOH計画」Vol.12
今月の作業レシピ
エンジンOH計画 その5
ピストンリング取り外し
エンジンOH計画 その6
ピストンリング組み付け
最重要パートのエンジンOHに挑んで、今回で3回目。相応に手間がかかるとは思っていたけど、我がベンツちゃんのエンジンは想像以上に難物の模様。エンジン深部が明らかになるたびに新たなトラブルに遭遇中です……。
1977年式 幸せの黄色いベンツちゃん復活大計画【Vol.12】
タイミング調整のしづらさがエンジンOHの大きな泣き所
整備には「分解や交換するリスク」がある。そう自分に言い聞かせながら、作業を進めるようにしている。特に旧車の場合、外したパーツが入手困難であったり、深刻な腐食や金属疲労の影響でパーツを外したらバラバラになってしまったりということが十分にありえるからだ。
それに加えて、我がベンツちゃんは、5気筒ディーゼル&列型噴射ポンプ付きというレアなエンジン。正直なところ、“いじり壊してしまう”可能性も捨てきれない……。また、タイミング調整が厄介な噴射ポンプ駆動ギヤとチェーンの位置を変化させずにOH作業を続けられるのか? も悩みのタネだ。
ここまでタイミング調整が面倒になってしまうのは、このエンジンの噴射ポンプの駆動ギヤ(右のイラスト図、98番のパーツ)はブロックの奥にあるため、チェーンとギヤの合いマークを付けることができないことが原因だ。右のイラスト図を確認すると、94番のボルトによってチェーンがポンプ駆動ギヤから外れることを防ぐようになっている。この構造からすると、チェーンを動かさずに、まったく同じ状態(位置)でカムとクランクギヤを組み付けさえすれば大丈夫と考えて作業を進めてきた。だが、オイルパンの取り外し作業中にうっかりクランクを回してしまい、クランクギヤとチェーンの位置がずれてしまったのだ。
こんな失敗を避けるため作業中はチェーンをヘッド側に引っ張り気味にしながら行っていたのだが、うっかりクランクを回したことでチェーンの張り具合が微妙に変化し、“カシャカシャ”という音と共にチェーンが数コマほどジャンプしてしまった。クランク側のチェーンはジャンプしないと思っていたのに……。
うっかりミスでズレてしまったチェーン、無事に戻すことができるのか?
エンジン本体には問題なし、十分再利用ができそうだ
エンジンには、メルセデス純正の交換用エンジンを示すタグが取り付けられていた。エンジンが交換された時期は不明だが、オドメーターが示す40万キロよりは少ないはず。チェックを進めていくとピストンやコンロッドベアリングには、目立った摩耗はなく、問題なく再使用ができそうだ。
コンロッドベアリングの状態がよいので、メインベアリングの点検は省き、「分解するリスク」を回避する。メインベアリングの摩耗はコンロッドベアリングより少ないので、無理をして交換する必要はないだろう。
むしろ問題になりそうなのは、今では珍しい“芋虫タイプ”のリヤメインシールが使われていることだ。しっかりと固く編んだロープ状のシール(芋虫に似ている)が、オイルパンとブロック側の溝に装着されているのだが、浮いた状態で装着するとクランクシャフトとの摩擦熱で、クランクシャフトとの接触部分にダメージを与える可能性が出てきてしまう。再使用するかどうかは大いに悩む。
この芋虫シールの前側のクランクシャフトの構造を見ると、クランクシャフトが円盤プレート状に加工されて、オイル・スリンガー構造になっていることが分かる。オイル・スリンガーとは、遠心力でオイルをはね飛ばしオイルが外部に漏れるのを防ぐ仕組み。あえてリスクを冒してまで、オイル漏れにあまり影響のなさそうな芋虫シールを交換するメリットは少ないような気もする。だが、ドロドロの油まみれのオイルパン洗浄作業中に、芋虫のロープの網目に異物が入ると、クランクの摩耗の原因になりそうだ。
いよいよヘッドを開けてエンジンの深部に挑む、どれほど傷んでいるのだろうか?
ピストンリングは消耗品だが価格は安い。ありがたい
ディーゼルエンジンはピストンリング溝の摩耗が進みやすいので、洗浄したピストンにリングを再装着して、リング溝とリングの隙間を点検から始めた。摩耗が進むとリングが溝の中で上下方向にカタカタと動くようになってしまうが、このエンジンの場合は微かにガタを感じる程度なので大丈夫と判断する。
一方、ピストンリングのコーティングは、シリンダーと接する部分の摩耗が進行しており、リングの素材地肌が露出している。テーパー形状のリングのほぼ半分ほどの地肌が見えているので、約60%の摩耗進行と判断。リング張力はあまり低下しているようには感じないが、アフターパーツのピストンリングは値段も高くないので交換することにした。
交換するピストンリングは、純正ピストンと同じマーレ製をチョイスしたので品質的にも安心できる。むしろベンツは年式によって同じエンジン形式でも微かにシリンダー内径が異なるケースがあるため、正しいリング経なのか? をしっかりと確認するほうが重要だ。また交換の際は、リングの上下の向きに注意しながら“折らない”ように装着しなければならない。だが、厚みのあるディーゼルエンジン用のピストンリングは、手で装着することは難しい。そこで本格的なピストンリングプライヤーを入手して作業を進めると、あっという間に装着することができた。必要な工具をケチらないことも、メンテナンスをストレスフリーで進めるために必要だと実感した。
さらにエンジンブロックのシリンダーウォールの上部には、僅かな段付き摩耗が確認できるので、できれば軽くホーニングしたい。だがホーニング作業を行う際は、作業後に洗浄液で“完璧”にホーニングの研磨剤を洗い流す必要がある。万が一、ホーニングの研磨剤が僅かでも残っていると、それがオイルに混入してエンジン各部の異常摩耗を引き起こす危険が出てくる。正直、車上OHではホーニング後に完璧に洗浄できる自信はない。安全のため、シリンダー側には手を加えないことにした。
ピストンリングの組み付け、サイズが多いので慎重に作業を進める
提供元:オートメカニック