故障・修理
更新日:2019.10.01 / 掲載日:2019.10.01

ドラムブレーキの構造・仕組み

ドラムブレーキとは、車輪とともに回転するドラム内部の部材にシュー(ブレーキ・シュー)を押し付けて制動するタイプのブレーキで、初期の自動車に広く採用されていた。今回は、ドラムブレーキの構造・仕組みについて紹介する。

〔ドラムの半径と制動力の関係〕

 クルマが右から左方向に走っている時にブレーキをかけた場合を考えてみよう。アクセルから足を放した時はエンジンではなく、路面がタイヤを左方向に回転させていると考えられる。
 今、各タイヤにかかる駆動力が100kgで、タイヤの有効半径(アクスルの中心からタイヤの接地面までの距離)が0.3mの場合は、各アクスルに30kgーmのトルクがかかることになる。
 さて、30kgーmのトルクで回転しているタイヤ(アクスル)をライニングの作用で停止させるには同じ30kgーmのトルクを反対方向に加えなければならない。
 ところが、タイヤの場合は有効半径に対して力が加わるのに、ブレーキの場合はタイヤよりもはるかに小さなドラムに力を加える。たとえばドラムの半径が0.15mであれば同じ100kgの力を加えても15kgーmのトルクにしかならない。
 このアンバランスを解決するにはブレーキ・シューに200kg以上の力を加える必要がある。
 この計算でわかることは、径の大きいドラムを使えば、比較的小さな圧力をシューに加えても目的を達することができるが、ドラムの径が小さい場合は、ホイール・シリンダーに加わる圧力を大きくする必要がある。
 結果的にいえば径の大きなドラムを使ったほうが弊害が大きい。たとえば小型ドラムとくらべると強度が低くなりやすいし、またドラム自体の重量が重くなる上、タイヤとドラムの間のギャップが小さく放熱性が悪くなるなどの欠点があげられる。
 しかし、逆の小型のドラムを用いた場合は、シューをドラムに強い力で圧着させないと制動力を保てないので、どうしてもライニングの摩耗を早めてしまう。
 そこでドラム・ブレーキの設計者はタイヤの駆動トルクにマッチしたドラムを選ぶのに苦労し、またドラムにあったライニングの面積を決めるのに苦心しているわけだ。いうまでもなく、ライニングの消耗度はドラムの径だけではなく1センチ平方メートル当たりにかかる圧力によっても大きく左右される。

■ドラムブレーキの冷却原理とアルミ製ドラムが理想的な理由

 なんども述べたようにブレーキは走行エネルギーを熱エネルギーに変えて、大気中に放散するためのメカニズムだから、放熱性がよくなくてはならない。
 もっともオーソドックスな方法は放熱面積の拡大だ。たとえばドラムの外周にフィンを取り付けたり吸気孔からの通気をドラムに吹きつけているものもある。この冷却の原理は空冷エンジンと全く同一のものだ。
 このブレーキ・システムのベンチレーションは非常に重要で、この判断を誤った一例に1960年代のアメリカ車がある。そのクルマではボディのデザインを重視するあまりに、15インチ・ホイールを13インチに縮めたため、ブレーキ・ドラム内がオーバーヒートして使いものにならなくなったという。
 ブレーキ・システムには発生した熱エネルギーを放散する能力が要求されるが、実際には時間的な制約があり、急激に上昇した熱はブレーキの各構成部品に吸収されることになる。
 そのためブレーキの構成部品はある程度の熱を吸収する能力をもっており、その能力は2つの要素で決まってくる。その1つは構成部品の比熱であり、いま1つは質量(重量)である。
 比熱とは、ある物質1gの温度を1℃だけ上げるのに必要なカロリーをいい、物質によりバラツキが大きい。たとえばアルミニュームの比熱は鉄の2倍の0.22だ。
 だからブレーキ・ドラムには鉄よりもアルミニュームを使ったほうがよいことになる。つまりライニングとドラムの間に200カロリーの熱量が発生したとして、アルミ製のドラムが、この熱を全て吸収しても約2.8℃ほど温度が上昇するにすぎない。だが同じ大きさの鉄製ドラムの場合は、約5.6℃も上がってしまう。
 しかもアルミニュームは熱伝導性が鉄の4倍も良いため、ドラムに吸収された熱が短時間で大気中に拡散されるから冷却効率もよくなる。
 ところで、ドラムの比熱が同じだと仮定した場合は、ドラムが大きくて重いほど多量の熱を吸収できることはいうまでもない。しかしながら、熱の吸収効果がいいからといって、ブレーキの各部品をむやみに大きくすることは考えものである。

自己倍力作用を持つシュー

〔セルフエナージェイジングとは?〕

 乾いた舗装路とタイヤとの間の摩擦係数(ミュー)は普通0.8ぐらいであることは前にも述べた。ところで読者の皆さんはライニングとドラムとの摩擦係数はどれぐらいと予想されるだろうか。大多数の方はタイヤと路面の摩擦係数よりも大きい数値、たとえば0.85とか0.95と答えるに違いない。
 ところが実際にテスターにかけてドラムとライニングの摩擦係数を計ってみると0.3から0.45倍と非常に小さいことがわかる。
 このように小さな摩擦係数でどうして高速走行中のタイヤをロックさせることができるのだろうか。そのあたりにドラム・ブレーキの秘密がありそうだ。
 いま次頁のマンガのようにグラインダーが左方向に回転しているとしよう。そしてグラインダーに鋼鉄性のパッドをあてて回転を止めるには、どの方法が最適かを考えてみよう。
 Aのようにグラインダーのま横からパッドを押しあてたのでは、パッドが摩耗するだけで大きな制動力を期待できない。なにがなんでもグラインダーを停止させるにはパッドにグラインダーの回転力以上の力を加える必要がある。このやりかたがディスク・ブレーキの原理である。
 つぎにBのようにグラインダーと作業台とのすき間に右方向からクサビ形の鋼材を押し込んでみよう。相当な力で押し込んでも鋼材は手元のほうに押し返され大きな制動力は期待できない。このように、押し込んでも自然にはねかえされるような現象をセルフ・フリーリングといい、ドラム・ブレーキの場合は、トレーリング・シューがセルフ・フリーリング作用をする。
 さて、最後のCの場合は左方向からクサビ形の鋼材をグラインダーと作業台の間に押し込む。この方法だと鋼材に力を加えて押し込まなくても、グラインダーが回転するにつれて鋼材がグラインダーと作業台の間に吸い込まれるはず。そして最後にはクサビを打ち込んだような形になりグラインダーの回転を完全にロックしてしまう。
 このように大きな力を加えなくても自然的に大きな力に変化することをセルフ・エナージェイジング(自己倍力)作用という。そして、ドラム・ブレーキのシューのうち、このような作用をもつものをリーディング・シューと呼んでいる。
 これまでの説明からもあきらかなように0.3から0.45という小さな摩擦係数をもつライニングでも、ドラム・ブレーキではセルフ・エナージェイジング作用を利用して制動力を高めているわけだ。
 また、あえて制動力の低いトレーリング・シューを採用している理由は、前進時のセルフ・フリーリング作用が後退時にセルフ・エナージェイジング作用に変化することにある。
 このことはグラインダーの回転を逆転させてみれば、すぐに理解できるはずだ。

■ドラムブレーキの良いライニングとは何か?

 ブレーキのライニングは制動力を左右する摩擦材であるだけに、材質一つとりあげても非常に難しくなる。たとえばメーカーによってはサーボ特性を考えてプライマリーとセカンダリーのライニングの材質を変えているものすらある。そこで、ここでは一般的なライニングに要求される条件をあげてみたい。
 1.使用条件によってライニングの摩擦係数を変えること。
 摩擦係数が大きければ制動力も大きくなるが、タイヤがロックしやすく高速時には危険。逆に摩擦係数が小さいライニングでは、高速時の制動安定性はよいが、低速時の制動力が不足する上、スクイーク(鳴き)が発生するようになる。したがって、一般の市販車では、両者の妥協点を見いだした摩擦係数をもつライニングを採用している。
 2.高温によって摩擦係数が変化しないこと。
 ブレーキの役目は走行エネルギーを熱エネルギーに変えて大気中に放出することにある。だから摩擦材であるライニングが高熱を帯びるのは当然のこと。そのためライニングには、高熱にさらされても摩擦係数が変化せず、ブレーキの利きが安定していることが望まれる。
 ブレーキを多用した時にライニングが過熱し、摩擦係数が低下し、ブレーキが利かなくなることをフェード現象という。
 3.ドラムの材質よりも軟らかいこと。
 どんなに耐熱性が高く、安定した制動力をもつライニングでも、材質がドラムよりも硬くては話にならない。なぜなら、その場合は摩擦によって消耗されるべきライニングよりも、ブレーキ・ドラムのほうが早く摩耗してしまうからだ。整備上からいっても、ドラムのほうが早く消耗してくれたのでは、交換作業はともかく、交換部品代が高くなる。
 4.水やオイルが付着しても材質や摩擦係数が変化しないこと。 ライニングは雨水をかぶる機会が多く、オイルが付着することもある。このような場合でも材質や機能が全く変化しないか、一時的に変化しても、すぐに元にもどる能力が要求される。

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グーネットピット編集部

ライタープロフィール

グーネットピット編集部

車検・点検、オイル交換、修理・塗装・板金、パーツ持ち込み取り付けなどのメンテナンス記事を制作している、
自動車整備に関するプロ集団です。愛車の整備の仕方にお困りの方々の手助けになれればと考えています。

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